2019年03月30日

エッセイ『焼きそばうえだ』さくらももこ

さくらももこと長尾さんはくだらないバカ話を
楽しんでいた。
仲間をつのろうとTBSの植田さんや小
学館社員の江上さん、山崎君を集めた。
こうして男子の会のメンバーが発足した。
名前の由来は小学生男子レベルのバカ話をし
大いに笑い、楽しもうというものだ。
この計画は当たり、メンバーはこの会を
定期的に開き、有意義なムダな時間をすごす。

長尾さんはバリのリゾート開発の仕事をしていた。
このバリに植田さんが焼きそば屋を開いたら
おもしろいのではないか?という話になった。
植田さんはドラえもんのような万博のような
味のあるいじられキャラ。
いたら特に役に立つわけでもないが
いないとやたらと気になるおかしな存在。

きっとバブル期に買った高級マンションの返済に
追われ、汲々としているに違いない。
TBSの出世の見込みもなく何があるかわからない。
(作品連載中に買収話もあったよ)
神奈川から職場の赤坂への移動は大変だろうし、
妻にも子にもなつかれず、いざという時役に立たない…
これはもう、バリで「焼きそば うえだ」を
始めるしかない。ということになった。

さくら先生が定期的に行うおもしろパーティーよりも
よほど焼きそばうえだの方が安くすみ、かつおもしろい。
この話はどんどん進み、看板もさくら先生が書くことに。
この変な情熱は現地の親切すぎる金持ちローランさんの
心を動かし、本当に開店することに。
友情とは名ばかりの単なるヒマつぶしのような
気もしないでもないが、営業開始。
しかしやってきた最初の客は最底辺の客だった!
明日はどっちだ?日常に疲れた人におすすめに一冊。
小学館文庫
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2019年02月25日

小説『少女地獄』夢野久作

飛び込み面接により看護婦となった姫草ユリ子は
虚構に生きる人たらしの天才美少女。
その天真爛漫な言動や献身的な態度は
老若男女問わず好意を抱かせ夢中にさせる。
しかしそんな彼女には全く別の裏の顔があった。
人並み外れた虚言癖である。
嘘を嘘で塗り固める…。現代のキラキラ女子のような
妄想、仮想、幻想に生きる儚い存在。
彼女の自尊心を満足させ、成立させるためには
もはや自殺し遺書を残すという手段しかなかったのか。

6つの手紙から構成された短編「殺人リレー」。

火星人と呼ばれた女学生甘川歌枝の戦いとは?
小学生の頃から飛び抜けた身長、身体能力を持ち
異彩を放つ歌枝は周囲から疎まれ生きてきた。
唯一無二の親友であるアイ子嬢を除けば味方はない。
物語はいわゆる暴投より新聞沙汰になった
不可思議な事件の謎が提示される。
歌枝がアイ子に向けた手紙により全容が語られていく
という書簡形式によって物語が展開される。
聖人君子として世間から高く評価されている
校長は真逆の裏の顔を持っていた。
彼もある意味、虚構に生きる二重人格者。
端的に言えば「ひとでなし」だった。

1934〜1936年に発表された3篇による
表題作『少女地獄』は書簡体による傑作集。
当時の女性が男性優位の社会において生きることの
息苦しさや難しさを描いている。

「地獄」と明言される現世の世界において
逃避的に自殺という道を選択する者もいるだろう。
作品としては、小娘ユリ子に手玉に取られる
子気味よさがあるのが第一部。
ユリ子に嘘をつかれ、だまされたとわかっても
仕方ないなぁと笑って許せてしまう。
憎みきれないキャラクターだ。
同時に彼女は自分が気に入っている今の立場を
守るために脅しをかける裏番的な怖い顔も見せる。

第三部の歌枝は基本的におひとよしの善人だが
両親からも疎まれ邪魔にされていることを知る。
信頼していた人物から裏切られる。
そういった人の持つ醜い部分を見てしまい
事件を起こす悲劇的なヒロインである。
この行動力に優れた全く異なる魅力的なヒロインが
登場する少女地獄。蓋し名作と言えよう。

上流階級の人間相手に恐喝を行う男が
的にかけた相手が告白する驚愕の事実とは?
「けむりを吐かぬ煙突」など4編を収録。角川文庫

同著代表作として名作『ドグラ・マグラ』があるが
難解でかつ長編なので、読みやすく理解しやすい。
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2019年01月06日

小説『羊と鋼の森』宮下奈都

山深い森で暮らす高校生の外村はピアノ調律師板鳥さんと
出会い、調律師をめざして歩み出す。
特別な才能など持ち合わせていない…
それでもひたむきにピアノの森をさまよう外村は
板鳥さんと同じ職場で柳や秋野といった先輩調律師と働く。

双子の和音・由仁姉妹に代表されるピアノ演奏者(お客様)を
サポートし、魅力的な音を引き出すために努力を惜しまない
外村だったが明確な正解のない音楽の世界に苦戦を強いられる。

確かな研ぎすまされた感性と豊かな表現に彩られた美しい文章が
醸し出す音楽の世界に酔いしれる。文藝春秋
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2018年12月14日

小説『病院坂の首縊りの家』横溝正史

複雑怪奇な五十嵐家、法眼家の過去と現在。
そして両家に起こった陰惨な事件の謎を追う
金田一耕助と刑事の20年による捜査と結末とは?

開業医の名士として知られる法眼家、
闇稼業によってのし上がった五十嵐家。
両家の成り立ちやご先祖、登場人物が紹介され、
かの両家の子である法眼由香利、五十嵐滋が
婚姻の運びとなり、写真館で写真が撮られた。
その際に不思議なエピソードが語られる。

一方、アングリーパイレーツなるジャズ集団に
おいても事件が勃発。中心人物であった敏ちゃんが
妹と目されていたメンバーと結婚するという。
メンバーの哲ちゃんは彼女への恋慕から敏ちゃんから
殴られ右目を失明。酔った勢いで二人の逢瀬を
邪魔しに出かけたが、彼が見た者は敏ちゃんの
変わり果てた姿だった。現場に残された手紙から
一応の決着がついた形となったが、金田一耕助と
等々力刑事にとって忘れられない事件となった。

それから20年の歳月が流れ未解決のまま時効が成立した。
(現行法では殺人事件に時効はない)
刑事を引退し探偵事務所所長となった等々力氏、
そしてかの名探偵が再び捜査に乗り出す。
かつての関係者たちを洗う金田一は、
事件に隠された真相に迫るのだが、
過去の事件が引き金となり新たな殺人事件が勃発。
更なる悲劇を防ごうと頭脳をしぼる名コンビと
金田一の選択とは?角川文庫 上・下巻
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2018年10月25日

小説『Wの悲劇』夏樹静子

雪に囲まれた別荘で正月をすごしていた和辻家で
殺人事件が発生。誰からも愛されていた摩子が
和辻製薬の会長を刺殺してしまったと告白した。
摩子に同情した面々は外部犯の仕業にしようと画策。
現場不在証明(アリバイ)作りのために
口裏を合わせて行動を開始した。
和辻家6人、そこに居合わせた外科医間崎、
摩子の家庭教師の春生は
中里、鶴見警部ら警察の目を欺けるか?
綿密と思われた工作であったが思わぬほころびが生じ…。

タイトルが示す通り、エラリークイーンの『Yの悲劇』
に挑んだミステリー小説である。クイーンもこの作品を
絶賛し解説に参加している。不朽の名作ミステリー。
角川文庫
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2018年10月18日

小説『握る男』原宏一

留置場の中で自分の人生を決定づけた男の死を知る。
人たらしの天才、稀代の悪党でもある盟友が自殺?
兄弟子でありながらゲソこと徳武光一郎によって
急所をつかまれた金森は激動の過去を想起する。

昭和56年。両国のよくある寿司屋で
一番の下っ端として働いていた金森。
小柄の少年ゲソがやってきて店で働くことに。
よく気が利き、人の懐に入るのがうまく、
努力を惜しまないことで金森を圧倒する。
特に金森を苦しめていた兄弟子をゲソの画策により
追い出したことにより頭が上がらなくなる。
また両国ということもあり、目をかけた力士と
懇意となりゲソはこの人気者も活用することに。

人なつっこい笑顔を浮かべながら時折顔をのぞかせる
野望を秘めた裏の顔。この国の食(食品業界)を牛耳る
という大言壮語かと思われたゲソの言葉。
ピンチをチャンスに変えてしまうこの男は
無謀と思われた夢をどんどん現実味を帯びていく。
ゲソは金森を自分の片腕、番頭にすると宣言した。
彼に掌握され反発しながらもどこかでゲソの夢を
手助けする道を選んでいた金森。

目的のためなら手段を選ばず巨大化していく野望。
そして組織の中で彼に振り回されながら、
時に違法行為に手を染める者も現れ…。
この権力構造は新興宗教組織を思わせるが
急成長を遂げた企業や既存の大企業にも通じる
ものがあるのだろうな。

権力の暴走の怖さもさることながら、この作品は
「人」をしっかり描ききっている所が特筆すべき点。
ゲソと金森の不思議な共存関係や彼らに関わる
人々との情や愛憎、意外な関係を知るとき
物語に厚み、深みが加わりより味わい深い作品に。
角川文庫 420ページ
ラベル:おすすめ 原宏一
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2018年10月13日

エッセイ『だからこうなるの 我が老後』佐藤愛子

交友の深いKに百万円貸したら返ってこない。
考えてみたら自動車もあげたのに…。
そんな折、違法駐車があったので罰金の催促が。
そういえば、税金払っているの私じゃないか…
さすがに腹を立てた私は夜逃げしたKの家に
赴くのだった。

気づけば自分の家の愛犬になっていたタロ。
無芸大食で鎖につながず奔放に飼っていたが、
十数年前からいたので遂に天寿を全うした。
と思ったら死んでいない。勘違いだった。
でも今までありがとうと娘といっしょに
涙を流すが、驚異的な回復を見せて…
元気なだけで、いや生きているだけで、
なんかもうそれだけで十分なんだよな…
と亡くなった愛犬のことを思い出す。

やたらしつこい迷惑電話の男。
番号を拒否するがわざわざ公衆電話を
はしごしてかけてくる。
なんてしつこくてめんどくさい奴なんだ。
その情熱を仕事にでも向けてほしいものだ。
こいつのせいで長電話大好きの友達サキサンが
電話に出てくれないと苦言を呈してきた。
彼女は彼女でちゃんと電話が通じるか
深夜に確認の電話をかけてくる。
なんてしつこくてめんどくさい友達なんだ。

など笑えてかつ泣ける佐藤節全快のエッセイ。
文藝春秋
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2018年10月08日

小説『砂の女』安部公房

平凡な教師が砂の多い海沿いの集落を訪れる。
昆虫採集が目的で、砂を研究する彼は
新種が発見されやすいハエやハンミョウに着目。
砂地という特異性のあるこの地域では
まだ未発見の生物が見つかるかもしれない。
砂の着眼点は当たり、男は美しいハンミョウを
発見するが逃げられてしまう。
彼は、近隣のおじさんに助言に従い、
集落の家に泊めてもらうことにした。
そこは妙齢の女性(寡婦)がひとりだけいる家。

一日だけ泊めてもらうつもりだった
その家は異常なほど砂まみれになる家だった。
砂を掻き出すために精力的に動かなければ
そのまま人間が埋まってしまうような。
家の中から脱出方法できない量の砂が
家の中に侵食してくる恐ろしい地獄のような場所。

まるで、アリじごくに捕らえられたアリのようだ。
男は、3日分の休暇して申告しておらず
ここから出たいと懇願する。
だが女や集落に住む人間はそれを許してくれない。
集落の者たちの協力ではしごをおろして
もらわなければ家の外にも出られない。
男同様に奸計にはまり、脱出を試みた者は失敗し
命を落とした者もいるという。
集落の民は彼をここに住まわせ住民にしようと
目論んでいた。

彼は女を説得したり、脅したり、時に暴力をふるったりし、
なんとか脱出を試みるのだが……。

どんな過酷な環境でも人は生きられる。
そこには妥協やある種の諦観があっても
人は希望を見いだしそれでも生きていける。

人間の精神性とか、社会に対する批判とか、
マイノリティーの悲哀とか、村社会のこととか、
人間の持つ生臭さとか、あきらめとか…。

もがいたり足掻いた所で足下から世界が崩れ
自分よりももっと巨大な存在にやりこめられる。
やるせなさと共にある種の開き直りによって
生きていこうとする生き物の強さを感じた。
哲学的で難解なので読むたびに新しい発見がある
タイプの名作 新潮文庫
ラベル:安部公房
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2018年10月02日

小説『ズッコケ中年組 44歳のズッコケ探検隊』那須正幹

山奥にやってきたズッコケ三人組はツチノコと
思われる不思議な生物を写真におさめて…。
ズッコケ中年組シリーズ第5弾。

飲み友達の誘いから趣味の一つも持とうと
山奥の渓流釣りに出かけたハチベエ。
イワナ、ヤマメ、アマゴは釣れなかったが
そのことが逆にファイトを燃やすことに。
元々好きだったこともあり休みの日の
ひとつの趣味になった。

自由律詩をはじめた母の影響からモーちゃんも
一句ひねるクセがつく。ハチベエの誘いを受け、
元々釣りが上手だった彼も渓流釣りをはじめる。
二人の親友ハカセもカメラを趣味としており、
シャッターチャンスを求めて二人に同行した。

おいしい空気を吸いながら楽しい日々をすごす。
友人が釣り上げた魚をカメラにおさめていたら
そこには不思議な生き物が写っていた。
これって昔話題になったツチノコじゃないのか?
探求熱心なハカセ、お調子者のハチベエは
ツチノコ捜しに乗り出す。モーちゃんも
巻き込まれ、おっかなびっくりついて行く。

ワナをつくり捕獲を試みるがそう簡単にいかない。
自治体によっては億単位の懸賞金を出している
村もあるとか…。童心忘れずバカなことができる
ともだちっていいよね。でも宝探しをしていた
こども時代みたいに三人が同じ情熱を持っている
わけじゃない。ハチベエ、モーちゃんは釣りの方が
気になるようだと察したハカセは荒井陽子に同行を依頼。
ツチノコが縁で二人の仲は進展するのか?
ポプラ文庫
ラベル:那須正幹
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2018年09月26日

小説『絶望ノート』歌野晶午

中2の太刀川照音は立ちションというあだ名を
つけられる小柄なネズミ顔の生徒。
ジョンレノンの熱狂的なファンで働かず
ファッションだけを真似する薄ぺっらいダメ父と
働き者のヨーコという名の母を持つ。
貧しい生活なのでいろんな我慢を強いられ、
趣味は図書館で借りてきた本を読むことだ。
彼は自宅の机の奥底に「絶望ノート」と名付けた
日記帳を書き連ね、そのノートの内容によって
いじめの様相が語られていく。

学年の人気者でありながら、いじめグループの
リーダーである是永は狡猾な男。日記の中で
直接いじめを行う是永や見て見ぬフリをする者、
担任、父に強い恨みを抱いていることが語られる。

追い詰められた照音は、偶然自分を助けてくれた石に
救いを見いだし神としてあがめることに。
願いは聞き入れられ…。

日記を目撃した母は息子照音のために興信所へ赴く。
能天気な父の謎の行動は?
なぜか自分のことを気にかけてくれる副担任の来宮。
照音のあこがれの人国府田さんの来訪。
登場人物たちの言動ひとつひとつに意味があり
読者を驚かせる仕掛けが施されている。
『葉桜の季節に君を想うということ』にも
鳥肌が立ったがこの作品も比肩するほどの名作。
人の心は一筋縄ではいかない。
幻冬舎文庫 630ページ
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2018年09月18日

小説『だから荒野』桐野夏生

46歳主婦の朋美は誕生日に怒りを爆発させた。
身勝手な言動を繰り返す夫と二人の息子による
長年の蓄積は消化されなかった。
衝動的に自動車で出奔した彼女は、
高速道路で長崎めざして走り出した。

家族やしがらみとの決別、さみしさや孤独の中にある
解放感、新しい世界を切り開こうと荒野を駆ける。
捨てられた夫は懲りも反省もせず愚行に及ぶ。

元々思いやりや家族の絆が希薄だった森村家は
空中分解し、問題が浮き彫りになる。
足りなかったあれこれ、失って気づくこと、
新しい人間関係を構築したり、事件に遭遇。

思い切りのよい主人公が決断をした結果、
超然とした大人物山岡に出会う。
山岡はボランティアで戦争体験を語る
90歳過ぎの老人。最終章人間の魂では
この山岡さんの説諭によって涙がとまらない。

荒野に生きる覚悟、現実と向き合う覚悟、
人と向き合う覚悟、他者への愛、罪を許す心…
家族間の係争という身近で個人レベルの問題。
そして絶対的かつ理不尽な暴力や災害に対する怒り、
悲憤という大きな問題もからめた描かれている。
文春文庫 440ページ
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2018年09月12日

小説『あと少し、もう少し』瀬尾まいこ



中学駅伝に情熱をかける部長の桝井。
しかし、怖いが信頼の厚い顧問が異動し
陸上門外漢の元美術部の上原先生が顧問に。
部の空気もだらけ、十数年に及ぶ県大会への通過も
危険信号。そもそもメンバーが足りない。
桝井、設楽、俊介といった陸上長距離部員は三人。
例年はバスケ部員などを招集し、メンバーを選んで
いたのだが桝井は意外な勧誘をはじめるのだった。

桝井は不良の大田、吹奏楽部員の渡部という
めんどくさいが走力が高い二人に声をかける。
ムードメイカーとしてジローも引き込み、
なんとか六人そろえた。前途多難かと思われた
チームは成長を遂げるが桝井がスランプに。
六人のメンバーがどのように集まり、
どんな考えを持ち、レースに臨むのか。
あえて同じ場面をそれぞれの登場人物たち視点で
描き直すことで物語に厚みを加える。
選手ひとりひとりが抱える葛藤や思春期特有の
もやもや。悩みや目標を達成していく爽快さ。
勘違いや思い込み、誤解が解ける瞬間。
チームのためにあと少し、もう少しがんばろうと
する前向きな気持ち。
物語の軸となる六人の中学生たちと上原先生たちの
奮闘を描いた青春小説。新潮文庫 350ページ。
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2018年09月02日

小説『硝子のハンマー』貴志祐介

密室殺人の不可能犯罪に挑むのは弁護士青砥純子と
手癖の悪い防犯コンサルタント榎本径。
ホラー小説の大家として知られる作家が手がけた
日本推理作家協会賞受賞の人気シリーズ第一弾。

介護サービス会社を展開するオフィスビル内で
社長が撲殺死体という形で発見される。
いわゆる密室殺人ということで、
現場の状況から専務が逮捕されてしまう。
弁護士青砥純子は、専務を弁護することになり
防犯に詳しい榎本と共に事件解決に挑む。

介護ロボット、介護ザルといったこの職種ならではの
「飛び道具」的存在が登場し、物語を盛り上げる。
1部では、青砥・榎本が可能性を模索していき、
犯人、そしてトリックについて言及。
2部は犯人の生い立ち、犯行に至った経緯が示される。
トンデモ推理を披露する青砥。
そしてそれを修正していく探偵役との榎本と
犯人との直接対決が描かれる。うならされた。
角川文庫 580ページ。
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2018年08月11日

小説『青の炎』貴志祐介

平穏な生活は闖入者によって台無しに。
高校生の櫛森秀一は昏い情熱を燃やし、
完全犯罪を目論むのだが…。
現代版『罪と罰』開幕。

母と妹と暮らす秀一は湘南の高校に自転車で通う。
十年も前に母と離婚した三拍子揃ったダメな元父親が
強引に居座り恐怖を感じていた。
酒を飲み勝手に振る舞い目障り極まりない。
特に妹に危害を加えないかと危惧する秀一は
離婚の際にお世話になった弁護士に相談する。
しかし母の態度が定まらずいらだちを募らせる。

現状では警察も弁護士も事態を解決してくれない。
精神的に追い詰められ苦悩。
あんな人間のクズいっそ処刑してしまえば。
自分は『罪と罰』の主人公のように罪悪感に
とらわれず、疑われなければ捕らわれない。
不審を抱かれないような自然死に見える殺人。
計画を練り、少しずつ見えていく解決の手段。
もう後戻りできない…。

しあわせを守るために
犯罪に手を染める孤独で悲しい戦い。
手の中にあったはずの確かなしあわせが
こぼれ落ちていく。
彼を想う家族や同級生の気持ちを偽りながら
廻り始めた車輪はノンストップで止まらない。
物語は回転数を上げ続け終末へ。
角川文庫 
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2018年08月04日

小説『ひらいて』綿矢りさ

おかえり。
『インストール』、『蹴りたい背中』以降物足りなさを
感じていた綿矢りさファンとしてはこの作品は
そう言いたくなる傑作長編だ。主人公である
女子高生愛がエゴむき出しの恋愛感情によって
突き進み壊れていく様は狂気そのもの。
主人公愛の必死さ、ダメさに心を揺さぶられる。
先の名作2つと比肩する作品に仕上がっている。

綿矢りさ先生は『夢を与える』で正攻法でない
やり方でかりそめの愛を獲得した人物を描いている。
本作でもアンフェアの誹りを免れない主人公が登場し、
身勝手な言動を繰り返す。
主人公に共感できない部分も多々あるが、
恋は盲目であり、作中に登場する聖書に隠喩される
ように有史以来人間は罪深い存在。
あがき、もがき苦しむ姿は青春そのもの。

モテ女子愛はクラスメイトで地味男子である
たとえに惹かれ、人知れず注目している。
彼が机に忍ばせている手紙に興味を抱き、
同級生たちと共に深夜の学校に忍び込む。
手紙を盗み見た愛は、たとえが同級生の
美雪とやりとりしている事実に驚愕する。
糖尿病であることを公言し、注射する姿を
披露したかつてのクラスメイト美雪。
その行為から疎遠になり、教室でも浮いた
存在となった彼女とたとえが付き合っている?

合理的なリアリストだったはずの愛は
恋愛感情をこじらせてしまう。
修行僧のような男子高校生たとえ、
健気な薄幸の美少女美雪。
正しい、正しくないかはさておき、
精神的なつながりを重視する恋人たちに対し、
主人公はアンフェアなアプローチで対抗する。
エゴが表のテーマで贖罪と許しが裏のテーマ。
新潮文庫
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2018年07月22日

エッセイ『時をかけるゆとり』朝井リョウ

ゆとり世代という化けの皮をかぶった天才小説家
朝井リョウの爆笑エッセイ。
あえて自分のウィークポイント胃腸の弱さに言及し、
潜在的な自意識の高さが災いする理容師との「戦い」、
「モデル」体験を赤裸々に語る。戦後最年少で直木賞
受賞した天才作家とは「何者」なのか?
就職活動し、実際に就職していたのか…
という事実に驚き、おかしな就職体験も語る。
同時に、してもいない就活エッセイを依頼され、
これを執筆し、自ら添削を行う。
変人黒タイツおじさんにロックオンされた話、
埼玉県本庄市から早稲田大学まで歩き倒す
デスロード125キロ行軍の話、
変な強迫観念にかられ、
小学校時代1日原稿用紙1枚の日記を書き続けた話、
いきなりバイト先がつぶれた話、
作家として成功したことで母校講演を頼まれた話、
眼科医に君は愚かだと紛糾された話、
小学校の担任に渡した100枚の小説の話など収録。
おもしろおかしく仕上げているが、
当然ながら、この人全然ゆとりじゃない…。
文春文庫
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2018年05月30日

小説『命売ります』三島由紀夫

自殺未遂を起こした男は生きる価値を見出せず
新聞広告を出した。「命売ります」。
どうせ羽のような軽い命だと高をくくる彼に
訪れる運命とは?

コピーライターとして成功し、何不自由なく暮らす
27歳の羽仁男。ある日新聞の活字がゴキブリに。
人生に虚しさを感じ、睡眠薬を大量に摂取し
自殺を図るが気づけば病院のベッドで眠っていた。
生きるように諭されるが生きる気力が湧かない。
思い付きで「命売ります」と宣言した彼の下に
老人が現れて不思議な依頼をした。

成り行き任せ、他人任せで局面に当たる彼だったが
吸血鬼家族と疑似家族となったり、
変わり者と生活を営んだりと
ある意味、人生の醍醐味のようなものを知る。
しかし、その当たり前のしあわせや未来を忌避し
自殺を選んだことを思い知る。
同時に自分が死を恐れるようになっていることに
気づく。あのときは生きることから逃れたかった。
でも今は死ぬことに怯えている。そして、自分が
してきたことは間違いなく生きることを放棄し、
自らを命を危うくする愚かな行いだった。

死んだ気になりことにあたり生きるのと
死んでもいいやと生きるのは雲泥の差がある。
いわゆる物騒な相談事、そして秘密を知り、
裏社会の人間と思しき者からの依頼もあった。
軽々に扱っていた命は重く尊いものだった。
他人の死に触れることで自分の命の重さに
気づいた羽仁男は身の危険を感じ生を模索する。

三島といったら難しく固い。というイメージがある。
しかしこの作品は娯楽性も高く、内容も読者を
飽きさせず、読みやすい。世捨て人になったことで
ある意味自由に生きられるようになった主人公が
そのことから豪胆に振る舞う。肝が据わっている
からではない。ただ鈍く、いきることを思考しない、
故に大胆かつ勝手なふるまいができる。しかし、
他者と心を寄せる内に感じるものがあったのだろう。
彼自身が臆病になったというよりもまともになった、
平常な人間に戻ったというべきか。人はややこしい。
ちくま文庫 約255頁
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2018年04月06日

小説『ニッチを探して』島田雅彦

銀行員副支店長藤原道長は使途不明金の背任の罪を
かけられ逃れるように失踪してしまう。20億円にも及ぶ
巨額の中小企業への融資は彼なりの正義の発露。
実際は不正を指示した支店長への面当てだった。

自分の居場所スキマ的ニッチを追い求める道長。
支店長は道長を捜し出し罪をなすりつけようと画策。
道長は不正の証拠を隠し、家族である妻と娘に連絡を入れ、
ドロップアウトを愉しむことにした。

初めこそ道長は豪遊し、都内をうろつき孤独のグルメを
堪能するがすぐに資金が底をつく。
ネットカフェ、段ボール生活、そして路上生活…となるが、
食いしん坊なやさしいジャイアンと出会ったり、
神佑天助か意外な幸運によって生き長らえていた。

しかし、道長が切り札に取っておいた
いざという時のための隠し財産をめぐり裏社会からの
刺客が放たれる。ニッチを探し続ける道長の命運は?
ドロップアウトは蜜の味?
それともほろ苦い教訓を残すのか?
レールから落ち、生存競争に負けニッチを求める
ことになるのは果たして誰なのか?
高い知性と鋭い考察力、構成力にガンガン引き込まれる。
人間行動学的見地、随所に登場するトリビアもおもしろい。
新潮文庫
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2018年03月23日

『怖い絵』中野京子

名画に隠された謎、秘密、暗喩、画家が意図した
怖い部分を解き明かしていくエッセイ。
当時の歴史的背景や社会情勢、死生観、倫理観。
画家が絵に託した想いを鋭く考察する。
絵を鑑賞することで画家、人間の本質が見えてくる。

観る者をうっとりさせる美しい名画がある。
絢爛豪華、威風堂々とした人物画、風景画。
しかしそこに隠された「悪意」や「寓意」に
気づいた時、全く違った絵として解釈できる。
自然豊かで穏やかな風景画の中にある絞首台。
絵の片隅にある小道具が類推される不吉な未来。
しあわせと富の象徴とされる4人の子供たちにも
「死」がつきまとう。そう、餓死、ペストや細菌、
恐怖政治や他国からの進攻、魔女狩りにより
当時の人々にとって死は身近な存在だった。

観る者におぞましさを感じさせる名画がある。
主題とされた人物がおぞましい姿で描かれていたり、
殺人現場を描いた作品。一つ目の怪物が描かれ、
巨大な鷲が子供をさらっていく。
観る者の心を不安にさせ、ざわつかせるよう絵。
わかりやすい恐怖ばかりではない。
日常・非日常、死が常に隣り合わせの残酷な世界。
将来への漠然とした不安から命を絶つ者もいる。
王族として君臨していた者が逆賊として処刑される。
マリーアントワネットを貶めるために悪意を持って
描かれたスケッチ。時の為政者に迎合しようと
描かれた作品。狂気の中で産声をあげたと思われる作品。

それらを鑑賞、アプローチ、考察していく中で
観えてくる新たな視点に触れるとき、知的欲求は刺激され、
安全な場所からの無責任で愉悦的な「怖いものみたさ」、
人間が本質的に持つ謎(恐怖)を探求する快感に気付く。
同時に名画によってもたらされる教訓や
地獄のような環境を生き抜いてきた人類の歴史を
垣間見える名エッセイである。
大学講師(教授)の文章はうまくない場合が多いが、
非常に読みやすく、かつ内容も優れていた。
角川文庫
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2018年02月04日

小説『ズッコケ中年三人組 43歳のズッコケ事件探偵』那須正幹

裁判員に選出されたハチベエ。小学校時代からの
親友ハカセ、モーちゃんに話したところ、
自分たちも興味があるから裁判を傍聴するという。
不安を抱えていたハチベエだったが、友情に勇気を得、
いざ裁判所へ。近所で起こった殺人事件について、
話し合うこととなった。事件の日、容疑者が漏らした
言葉を知るのはズッコケ三人組の同級生榎本由美子。

おっちょこちょいだがカラっとした性格のハチベエ。
もめごとが嫌いな気の優しいモーちゃん。
そして、一言居士の探求心旺盛なハカセ。
ときたら、自然と探偵役はハカセになる。
事件の真相に迫るハカセが語る推理とは?
シリーズ第4弾。
ラベル:那須正幹
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