2018年10月08日

小説『砂の女』安部公房

平凡な教師が砂の多い海沿いの集落を訪れる。
昆虫採集が目的で、砂を研究する彼は
新種が発見されやすいハエやハンミョウに着目。
砂地という特異性のあるこの地域では
まだ未発見の生物が見つかるかもしれない。
砂の着眼点は当たり、男は美しいハンミョウを
発見するが逃げられてしまう。
彼は、近隣のおじさんに助言に従い、
集落の家に泊めてもらうことにした。
そこは妙齢の女性(寡婦)がひとりだけいる家。

一日だけ泊めてもらうつもりだった
その家は異常なほど砂まみれになる家だった。
砂を掻き出すために精力的に動かなければ
そのまま人間が埋まってしまうような。
家の中から脱出方法できない量の砂が
家の中に侵食してくる恐ろしい地獄のような場所。

まるで、アリじごくに捕らえられたアリのようだ。
男は、3日分の休暇して申告しておらず
ここから出たいと懇願する。
だが女や集落に住む人間はそれを許してくれない。
集落の者たちの協力ではしごをおろして
もらわなければ家の外にも出られない。
男同様に奸計にはまり、脱出を試みた者は失敗し
命を落とした者もいるという。
集落の民は彼をここに住まわせ住民にしようと
目論んでいた。

彼は女を説得したり、脅したり、時に暴力をふるったりし、
なんとか脱出を試みるのだが……。

どんな過酷な環境でも人は生きられる。
そこには妥協やある種の諦観があっても
人は希望を見いだしそれでも生きていける。

人間の精神性とか、社会に対する批判とか、
マイノリティーの悲哀とか、村社会のこととか、
人間の持つ生臭さとか、あきらめとか…。

もがいたり足掻いた所で足下から世界が崩れ
自分よりももっと巨大な存在にやりこめられる。
やるせなさと共にある種の開き直りによって
生きていこうとする生き物の強さを感じた。
哲学的で難解なので読むたびに新しい発見がある
タイプの名作 新潮文庫
ラベル:安部公房
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2018年10月02日

小説『ズッコケ中年組 44歳のズッコケ探検隊』那須正幹

山奥にやってきたズッコケ三人組はツチノコと
思われる不思議な生物を写真におさめて…。
ズッコケ中年組シリーズ第5弾。

飲み友達の誘いから趣味の一つも持とうと
山奥の渓流釣りに出かけたハチベエ。
イワナ、ヤマメ、アマゴは釣れなかったが
そのことが逆にファイトを燃やすことに。
元々好きだったこともあり休みの日の
ひとつの趣味になった。

自由律詩をはじめた母の影響からモーちゃんも
一句ひねるクセがつく。ハチベエの誘いを受け、
元々釣りが上手だった彼も渓流釣りをはじめる。
二人の親友ハカセもカメラを趣味としており、
シャッターチャンスを求めて二人に同行した。

おいしい空気を吸いながら楽しい日々をすごす。
友人が釣り上げた魚をカメラにおさめていたら
そこには不思議な生き物が写っていた。
これって昔話題になったツチノコじゃないのか?
探求熱心なハカセ、お調子者のハチベエは
ツチノコ捜しに乗り出す。モーちゃんも
巻き込まれ、おっかなびっくりついて行く。

ワナをつくり捕獲を試みるがそう簡単にいかない。
自治体によっては億単位の懸賞金を出している
村もあるとか…。童心忘れずバカなことができる
ともだちっていいよね。でも宝探しをしていた
こども時代みたいに三人が同じ情熱を持っている
わけじゃない。ハチベエ、モーちゃんは釣りの方が
気になるようだと察したハカセは荒井陽子に同行を依頼。
ツチノコが縁で二人の仲は進展するのか?
ポプラ文庫
ラベル:那須正幹
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2018年09月26日

小説『絶望ノート』歌野晶午

中2の太刀川照音は立ちションというあだ名を
つけられる小柄なネズミ顔の生徒。
ジョンレノンの熱狂的なファンで働かず
ファッションだけを真似する薄ぺっらいダメ父と
働き者のヨーコという名の母を持つ。
貧しい生活なのでいろんな我慢を強いられ、
趣味は図書館で借りてきた本を読むことだ。
彼は自宅の机の奥底に「絶望ノート」と名付けた
日記帳を書き連ね、そのノートの内容によって
いじめの様相が語られていく。

学年の人気者でありながら、いじめグループの
リーダーである是永は狡猾な男。日記の中で
直接いじめを行う是永や見て見ぬフリをする者、
担任、父に強い恨みを抱いていることが語られる。

追い詰められた照音は、偶然自分を助けてくれた石に
救いを見いだし神としてあがめることに。
願いは聞き入れられ…。

日記を目撃した母は息子照音のために興信所へ赴く。
能天気な父の謎の行動は?
なぜか自分のことを気にかけてくれる副担任の来宮。
照音のあこがれの人国府田さんの来訪。
登場人物たちの言動ひとつひとつに意味があり
読者を驚かせる仕掛けが施されている。
『葉桜の季節に君を想うということ』にも
鳥肌が立ったがこの作品も比肩するほどの名作。
人の心は一筋縄ではいかない。
幻冬舎文庫 630ページ
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2018年09月18日

小説『だから荒野』桐野夏生

46歳主婦の朋美は誕生日に怒りを爆発させた。
身勝手な言動を繰り返す夫と二人の息子による
長年の蓄積は消化されなかった。
衝動的に自動車で出奔した彼女は、
高速道路で長崎めざして走り出した。

家族やしがらみとの決別、さみしさや孤独の中にある
解放感、新しい世界を切り開こうと荒野を駆ける。
捨てられた夫は懲りも反省もせず愚行に及ぶ。

元々思いやりや家族の絆が希薄だった森村家は
空中分解し、問題が浮き彫りになる。
足りなかったあれこれ、失って気づくこと、
新しい人間関係を構築したり、事件に遭遇。

思い切りのよい主人公が決断をした結果、
超然とした大人物山岡に出会う。
山岡はボランティアで戦争体験を語る
90歳過ぎの老人。最終章人間の魂では
この山岡さんの説諭によって涙がとまらない。

荒野に生きる覚悟、現実と向き合う覚悟、
人と向き合う覚悟、他者への愛、罪を許す心…
家族間の係争という身近で個人レベルの問題。
そして絶対的かつ理不尽な暴力や災害に対する怒り、
悲憤という大きな問題もからめた描かれている。
文春文庫 440ページ
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2018年09月12日

小説『あと少し、もう少し』瀬尾まいこ



中学駅伝に情熱をかける部長の桝井。
しかし、怖いが信頼の厚い顧問が異動し
陸上門外漢の元美術部の上原先生が顧問に。
部の空気もだらけ、十数年に及ぶ県大会への通過も
危険信号。そもそもメンバーが足りない。
桝井、設楽、俊介といった陸上長距離部員は三人。
例年はバスケ部員などを招集し、メンバーを選んで
いたのだが桝井は意外な勧誘をはじめるのだった。

桝井は不良の大田、吹奏楽部員の渡部という
めんどくさいが走力が高い二人に声をかける。
ムードメイカーとしてジローも引き込み、
なんとか六人そろえた。前途多難かと思われた
チームは成長を遂げるが桝井がスランプに。
六人のメンバーがどのように集まり、
どんな考えを持ち、レースに臨むのか。
あえて同じ場面をそれぞれの登場人物たち視点で
描き直すことで物語に厚みを加える。
選手ひとりひとりが抱える葛藤や思春期特有の
もやもや。悩みや目標を達成していく爽快さ。
勘違いや思い込み、誤解が解ける瞬間。
チームのためにあと少し、もう少しがんばろうと
する前向きな気持ち。
物語の軸となる六人の中学生たちと上原先生たちの
奮闘を描いた青春小説。新潮文庫 350ページ。
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2018年09月02日

小説『硝子のハンマー』貴志祐介

密室殺人の不可能犯罪に挑むのは弁護士青砥純子と
手癖の悪い防犯コンサルタント榎本径。
ホラー小説の大家として知られる作家が手がけた
日本推理作家協会賞受賞の人気シリーズ第一弾。

介護サービス会社を展開するオフィスビル内で
社長が撲殺死体という形で発見される。
いわゆる密室殺人ということで、
現場の状況から専務が逮捕されてしまう。
弁護士青砥純子は、専務を弁護することになり
防犯に詳しい榎本と共に事件解決に挑む。

介護ロボット、介護ザルといったこの職種ならではの
「飛び道具」的存在が登場し、物語を盛り上げる。
1部では、青砥・榎本が可能性を模索していき、
犯人、そしてトリックについて言及。
2部は犯人の生い立ち、犯行に至った経緯が示される。
トンデモ推理を披露する青砥。
そしてそれを修正していく探偵役との榎本と
犯人との直接対決が描かれる。うならされた。
角川文庫 580ページ。
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2018年08月11日

小説『青の炎』貴志祐介

平穏な生活は闖入者によって台無しに。
高校生の櫛森秀一は昏い情熱を燃やし、
完全犯罪を目論むのだが…。
現代版『罪と罰』開幕。

母と妹と暮らす秀一は湘南の高校に自転車で通う。
十年も前に母と離婚した三拍子揃ったダメな元父親が
強引に居座り恐怖を感じていた。
酒を飲み勝手に振る舞い目障り極まりない。
特に妹に危害を加えないかと危惧する秀一は
離婚の際にお世話になった弁護士に相談する。
しかし母の態度が定まらずいらだちを募らせる。

現状では警察も弁護士も事態を解決してくれない。
精神的に追い詰められ苦悩。
あんな人間のクズいっそ処刑してしまえば。
自分は『罪と罰』の主人公のように罪悪感に
とらわれず、疑われなければ捕らわれない。
不審を抱かれないような自然死に見える殺人。
計画を練り、少しずつ見えていく解決の手段。
もう後戻りできない…。

しあわせを守るために
犯罪に手を染める孤独で悲しい戦い。
手の中にあったはずの確かなしあわせが
こぼれ落ちていく。
彼を想う家族や同級生の気持ちを偽りながら
廻り始めた車輪はノンストップで止まらない。
物語は回転数を上げ続け終末へ。
角川文庫 
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2018年08月04日

小説『ひらいて』綿矢りさ

おかえり。
『インストール』、『蹴りたい背中』以降物足りなさを
感じていた綿矢りさファンとしてはこの作品は
そう言いたくなる傑作長編だ。主人公である
女子高生愛がエゴむき出しの恋愛感情によって
突き進み壊れていく様は狂気そのもの。
主人公愛の必死さ、ダメさに心を揺さぶられる。
先の名作2つと比肩する作品に仕上がっている。

綿矢りさ先生は『夢を与える』で正攻法でない
やり方でかりそめの愛を獲得した人物を描いている。
本作でもアンフェアの誹りを免れない主人公が登場し、
身勝手な言動を繰り返す。
主人公に共感できない部分も多々あるが、
恋は盲目であり、作中に登場する聖書に隠喩される
ように有史以来人間は罪深い存在。
あがき、もがき苦しむ姿は青春そのもの。

モテ女子愛はクラスメイトで地味男子である
たとえに惹かれ、人知れず注目している。
彼が机に忍ばせている手紙に興味を抱き、
同級生たちと共に深夜の学校に忍び込む。
手紙を盗み見た愛は、たとえが同級生の
美雪とやりとりしている事実に驚愕する。
糖尿病であることを公言し、注射する姿を
披露したかつてのクラスメイト美雪。
その行為から疎遠になり、教室でも浮いた
存在となった彼女とたとえが付き合っている?

合理的なリアリストだったはずの愛は
恋愛感情をこじらせてしまう。
修行僧のような男子高校生たとえ、
健気な薄幸の美少女美雪。
正しい、正しくないかはさておき、
精神的なつながりを重視する恋人たちに対し、
主人公はアンフェアなアプローチで対抗する。
エゴが表のテーマで贖罪と許しが裏のテーマ。
新潮文庫
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2018年07月22日

エッセイ『時をかけるゆとり』朝井リョウ

ゆとり世代という化けの皮をかぶった天才小説家
朝井リョウの爆笑エッセイ。
あえて自分のウィークポイント胃腸の弱さに言及し、
潜在的な自意識の高さが災いする理容師との「戦い」、
「モデル」体験を赤裸々に語る。戦後最年少で直木賞
受賞した天才作家とは「何者」なのか?
就職活動し、実際に就職していたのか…
という事実に驚き、おかしな就職体験も語る。
同時に、してもいない就活エッセイを依頼され、
これを執筆し、自ら添削を行う。
変人黒タイツおじさんにロックオンされた話、
埼玉県本庄市から早稲田大学まで歩き倒す
デスロード125キロ行軍の話、
変な強迫観念にかられ、
小学校時代1日原稿用紙1枚の日記を書き続けた話、
いきなりバイト先がつぶれた話、
作家として成功したことで母校講演を頼まれた話、
眼科医に君は愚かだと紛糾された話、
小学校の担任に渡した100枚の小説の話など収録。
おもしろおかしく仕上げているが、
当然ながら、この人全然ゆとりじゃない…。
文春文庫
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2018年05月30日

小説『命売ります』三島由紀夫

自殺未遂を起こした男は生きる価値を見出せず
新聞広告を出した。「命売ります」。
どうせ羽のような軽い命だと高をくくる彼に
訪れる運命とは?

コピーライターとして成功し、何不自由なく暮らす
27歳の羽仁男。ある日新聞の活字がゴキブリに。
人生に虚しさを感じ、睡眠薬を大量に摂取し
自殺を図るが気づけば病院のベッドで眠っていた。
生きるように諭されるが生きる気力が湧かない。
思い付きで「命売ります」と宣言した彼の下に
老人が現れて不思議な依頼をした。

成り行き任せ、他人任せで局面に当たる彼だったが
吸血鬼家族と疑似家族となったり、
変わり者と生活を営んだりと
ある意味、人生の醍醐味のようなものを知る。
しかし、その当たり前のしあわせや未来を忌避し
自殺を選んだことを思い知る。
同時に自分が死を恐れるようになっていることに
気づく。あのときは生きることから逃れたかった。
でも今は死ぬことに怯えている。そして、自分が
してきたことは間違いなく生きることを放棄し、
自らを命を危うくする愚かな行いだった。

死んだ気になりことにあたり生きるのと
死んでもいいやと生きるのは雲泥の差がある。
いわゆる物騒な相談事、そして秘密を知り、
裏社会の人間と思しき者からの依頼もあった。
軽々に扱っていた命は重く尊いものだった。
他人の死に触れることで自分の命の重さに
気づいた羽仁男は身の危険を感じ生を模索する。

三島といったら難しく固い。というイメージがある。
しかしこの作品は娯楽性も高く、内容も読者を
飽きさせず、読みやすい。世捨て人になったことで
ある意味自由に生きられるようになった主人公が
そのことから豪胆に振る舞う。肝が据わっている
からではない。ただ鈍く、いきることを思考しない、
故に大胆かつ勝手なふるまいができる。しかし、
他者と心を寄せる内に感じるものがあったのだろう。
彼自身が臆病になったというよりもまともになった、
平常な人間に戻ったというべきか。人はややこしい。
ちくま文庫 約255頁
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2018年04月06日

小説『ニッチを探して』島田雅彦

銀行員副支店長藤原道長は使途不明金の背任の罪を
かけられ逃れるように失踪してしまう。20億円にも及ぶ
巨額の中小企業への融資は彼なりの正義の発露。
実際は不正を指示した支店長への面当てだった。

自分の居場所スキマ的ニッチを追い求める道長。
支店長は道長を捜し出し罪をなすりつけようと画策。
道長は不正の証拠を隠し、家族である妻と娘に連絡を入れ、
ドロップアウトを愉しむことにした。

初めこそ道長は豪遊し、都内をうろつき孤独のグルメを
堪能するがすぐに資金が底をつく。
ネットカフェ、段ボール生活、そして路上生活…となるが、
食いしん坊なやさしいジャイアンと出会ったり、
神佑天助か意外な幸運によって生き長らえていた。

しかし、道長が切り札に取っておいた
いざという時のための隠し財産をめぐり裏社会からの
刺客が放たれる。ニッチを探し続ける道長の命運は?
ドロップアウトは蜜の味?
それともほろ苦い教訓を残すのか?
レールから落ち、生存競争に負けニッチを求める
ことになるのは果たして誰なのか?
高い知性と鋭い考察力、構成力にガンガン引き込まれる。
人間行動学的見地、随所に登場するトリビアもおもしろい。
新潮文庫
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2018年03月23日

『怖い絵』中野京子

名画に隠された謎、秘密、暗喩、画家が意図した
怖い部分を解き明かしていくエッセイ。
当時の歴史的背景や社会情勢、死生観、倫理観。
画家が絵に託した想いを鋭く考察する。
絵を鑑賞することで画家、人間の本質が見えてくる。

観る者をうっとりさせる美しい名画がある。
絢爛豪華、威風堂々とした人物画、風景画。
しかしそこに隠された「悪意」や「寓意」に
気づいた時、全く違った絵として解釈できる。
自然豊かで穏やかな風景画の中にある絞首台。
絵の片隅にある小道具が類推される不吉な未来。
しあわせと富の象徴とされる4人の子供たちにも
「死」がつきまとう。そう、餓死、ペストや細菌、
恐怖政治や他国からの進攻、魔女狩りにより
当時の人々にとって死は身近な存在だった。

観る者におぞましさを感じさせる名画がある。
主題とされた人物がおぞましい姿で描かれていたり、
殺人現場を描いた作品。一つ目の怪物が描かれ、
巨大な鷲が子供をさらっていく。
観る者の心を不安にさせ、ざわつかせるよう絵。
わかりやすい恐怖ばかりではない。
日常・非日常、死が常に隣り合わせの残酷な世界。
将来への漠然とした不安から命を絶つ者もいる。
王族として君臨していた者が逆賊として処刑される。
マリーアントワネットを貶めるために悪意を持って
描かれたスケッチ。時の為政者に迎合しようと
描かれた作品。狂気の中で産声をあげたと思われる作品。

それらを鑑賞、アプローチ、考察していく中で
観えてくる新たな視点に触れるとき、知的欲求は刺激され、
安全な場所からの無責任で愉悦的な「怖いものみたさ」、
人間が本質的に持つ謎(恐怖)を探求する快感に気付く。
同時に名画によってもたらされる教訓や
地獄のような環境を生き抜いてきた人類の歴史を
垣間見える名エッセイである。
大学講師(教授)の文章はうまくない場合が多いが、
非常に読みやすく、かつ内容も優れていた。
角川文庫
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2018年02月04日

小説『ズッコケ中年三人組 43歳のズッコケ事件探偵』那須正幹

裁判員に選出されたハチベエ。小学校時代からの
親友ハカセ、モーちゃんに話したところ、
自分たちも興味があるから裁判を傍聴するという。
不安を抱えていたハチベエだったが、友情に勇気を得、
いざ裁判所へ。近所で起こった殺人事件について、
話し合うこととなった。事件の日、容疑者が漏らした
言葉を知るのはズッコケ三人組の同級生榎本由美子。

おっちょこちょいだがカラっとした性格のハチベエ。
もめごとが嫌いな気の優しいモーちゃん。
そして、一言居士の探求心旺盛なハカセ。
ときたら、自然と探偵役はハカセになる。
事件の真相に迫るハカセが語る推理とは?
シリーズ第4弾。
ラベル:那須正幹
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2018年02月02日

小説『ズッコケ中年三人組 42歳の教室戦争』那須正幹

ハチベエ、モーちゃんのこどもたちが抱える問題に
親になった彼らやその家族、教師になったハカセが
信頼を寄せる名物教師が関わっていくシリーズ第三弾。

高校生になった長男が欠席がちとなり、
父親であるハチベエとの間で親子喧嘩が絶えない。
いわゆる反抗期に突入したようで、妻圭子ともども
やきもきしていた。学校でのトラブル、
そして長男が慕う人物が事故に遭い…。

モーちゃんの愛娘がいじめに遭っている。
心配した親が担任に相談。
だが無能教師の悪手により自体は悪化してしまう。
みんなが心配する中、教育現場を知るハカセは
生徒から絶大な信頼を得る先生に助言を乞う。
ラベル:那須正幹
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2018年01月23日

小説『夏、19歳の肖像 新装版』島田荘司

バイク事故により長期入院を余儀なくされた私は
「谷間の家」こと豪邸を窓から眺めていた。
70歳過ぎの亭主と思しき男、50歳位の妻と思しき女、
そして年頃の女性。なんとか顔を観てみたいと
親切な友達から双眼鏡を借りた私は彼女にひとめぼれ。
そんな私は谷間の家で起こった「事件」を目撃し…。

退院した私は、あこがれの女性小池理津子の姿を
追いかける。しかし、何者からか警告を受けて。

なんとか彼女に近づく私だったが、
彼女に道化のような印象を与えてしまう。
偶像崇拝のような純愛を貫く私。
色々とワケありそうな理津子の家庭。
理津子という女性、そして例の事件の謎に迫るとき、
幻想に生きる人の心が浮き彫りになって…
文春文庫
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2018年01月06日

小説『憤死』綿矢りさ

「トイレの懺悔室」
小学生の時、ちょっかいを出してくるおっさん(親父)がいた。
ともだち4人で遊んでいると、訳知り顔で説教を垂れる。
どこにでもいがちな少々やっかいな親父だ。
そんなエピソードは誰もが経験するものだろう。

ある日、おっさんが洗礼なるものをすると宣言した。
トイレで今までにした罪を告白しろと言うのだ。
少年たちは成長し、久しぶりに故郷に帰ってきたおれは
親父のことを思い出す。ともだちの一人であるゆうすけは
親父の近況をよく知っているようで…。
少年時代の回想からはじまる物語は新境地的作品に。

「憤死」
小中学校の同級生が自殺未遂したというので興味本位で
見舞いに行くことにした。という書き出しからはじまる物語。
お金持ちの彼女は気前がいいが、お金持ちの子だからか
わがままで友達が少ない。
私と彼女は教室でのカーストが底辺同士上辺ではともだち。
でもいっしょのときは彼女はお姫様のようにふるまう。
ある日、彼女の怒り狂うさまに目の当たりにする事件があって…。

「人生ゲーム」
人生ゲームに興じていたら、ともだちの兄の友達と思しき青年に会った。
人生ゲームに落書きをしていき、本当に困ったときは相談に来い。
というセリフを残し、去っていった。
すっかりそんなことを忘れ、大人になった俺だったが…。

河出文庫
ラベル:綿矢りさ
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2017年11月19日

ミステリー傑作選『ジャンクション 運命の分岐点』湊かなえ 米澤穂信 両角長彦 杉井光 長岡弘樹 詠坂雄二

「オンブタイ」長岡弘樹

苦労知らずのとっちゃんぼーや西条の軽率な行為により
自動車事故が発生。運転手の部下が命を落とし、
西条自身も視力を失ったが、父が経営する会社での
地位を失うこともなく、生活は安泰。
そんな中、謎の女が訪問し…。
タイトルが示す「オンブタイ」とは?
この作品の造詣の深さに触れた時、思わず叫んでしまった。

「残響ばよえ〜ん」詠坂雄二

中学生当時のつかみ所のない初恋のような思い出のきっかけは
ゲームだった。頑固である種孤高の存在であり、
おかしなエピソードに事欠かない同級生のミズシロ。
格闘ゲームに負けたことから始まった二人の妙な縁。
名作ゲーム「ぷよぷよ」を交えて語られる淡い恋。
提示された謎かけに迫るとき、知的好奇心が刺激される。
まさにのーみそこねこねだ。ふざけたタイトルからは
想像できないような深い考察と推理が展開される。

「超越数トッカータ」杉井光

音楽で生計を立てているシュンは動画サイトに
アップした「ロンド・アイジェリコ」が話題となる。
ヒットチャートをにぎわす歌姫からも称賛され、
順風満帆かと思われた。
だが、大御所歌手から盗作疑惑をかけられる。
シュンは盗作を完全に否定するが…。
芸術の世界に提示された奇跡の法則とは?

など完成度の高い良作6編収録。講談社文庫。
日本推理作家協会編
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2017年09月17日

小説『鮫島の貌 新宿鮫短編集』大沢在昌

元公安一種合格のエリート刑事鮫島は
上司との対立によって新宿署の現場の警官に。
自らの信念に基づき行動するハードボイルド刑事。
喰いついたら離れない鮫のような骨太の漢。
本作では、上司にあたる桃井との出会いと
水面下で行われていた現場での駆け引き。
恋人晶、宿敵仙田、名前をいいわけに稼業の医者を
継がなかったと公言する藪なども登場する。
変化球として両津勘吉、冴羽獠といった
大人気漫画の主人公も友情出演している。

新宿の街に超大物のボスとして君臨する「ドラゴン」。
ヤクザの大物や政治家すらも手にかけると言われる
謎の男は巨大ビルの50階で後継者を捜していた。
都市伝説的な噂を頼りに、ある日俺はその道にたどり着き…
「五十階で待つ」など全10編収録。
新宿鮫異色の短編集。光文社文庫
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2017年08月23日

小説『孤島の鬼』江戸川乱歩

恋人が殺された。しかも密室で。
悲嘆にくれる蓑浦は素人探偵深山木に調査を依頼。
しかし、事件の真相に迫った深山木も
蓑浦の近くに潜む犯人により刺殺されてしまう。

かつて自分を寵愛していた親友諸戸道雄は、
自分の恋人に謎の求婚をしていた。
そのことから諸戸を疑う蓑浦だったが、
すべての謎を解くカギは不気味な孤島に潜む
鬼の仕業に違いないと諸戸と共に導き出した。

神出鬼没に姿を現す謎の人物。
孤島に集められた人々…。
鬼がめざす理想郷、莫大な宝とは?
変死にはじまった悪夢のような物語は
島に訪れたことで地獄絵図へと変貌を遂げる。
恐怖体験を経て生き残るのは果たして?
創元推理文庫
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:11| Comment(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月15日

小説『紅い白描』松本清張

葉子は日本を代表するデザイナー葛山の下で
働けることになり、期待に胸を膨らませていた。
戦後間もないこのご時世、日本のデザイナーは
海外の模倣ばかりで独創性がないと言われていた。
しかし、葛山はその独特の感性から鬼才として知られ、
作中海外からも評価されるような異彩を放っていた。

この場所で勉強すれば多くの物が得られると思い、
働き始めた葉子だったが、早々に疑問を抱く。
葛山のすばらしい作品と葛山自身の持つ俗物的で
ビジネスライクな言動が一致せず違和感を覚えた。
特に名古屋に旅行に出かけた際に、不信を抱いた葉子は
葛山という人物そのものに疑念を持つようになった。

近所で出会った人懐こい少年と仲良くなった葉子は
不思議と彼に対して関心を持つ。
それはある種のひらめきだったのか。
少年と葛山とは何らかのつながりがあるはず。
葉子はキーパーソンと思われる少年を追う内に
意外な真相にたどり着き、自らの道に悩む。角川文庫
ラベル:松本清張
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:24| Comment(0) | おすすめの長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする