生きる誇り高き戦士。高度な社会性、役割分担がなされた
「帝国」(巣)の中でエサを待つ妹たちのために
多くのエサを狩り、肉団子にして巣に持ち帰り与える。
時には危険な相手である敵対するスズメバチ、オオカマキリ、
オニヤンマとの死闘や、鳥などの襲撃を受ける
死と隣り合わせの日々。交尾をし、子孫を残すために
生まれてきた他の虫たちと異なり、ただただ狩りをし、
女王バチや妹、巣を守り、繁栄させるためだけに生きるのは
ハチとアリくらいだが、それ故に強固で一枚岩な組織づくり、
種の保存(ゲノム)を可能とする。
(要約すると、自分の妹を育てた方が自らの遺伝子が
後世に語り継がれる可能性、割合が増えるのである)。
狩りに出かけるワーカーたちはどんなに生きても
一ヶ月ほどで命を落としてしまう。
またその多くは狩りによって亡くなる。
その非情なまでの戦いの日々という宿命を背負ったハチ、
そして多くのムシたちを擬人化させて描いたファンタジー。
しかし、同時に強力なバックアップメンバーである
「ハチ」の権威も加わり科学的要素もふんだんに
盛り込まれ、スズメバチの生態、形成される社会、
彼らと敵対するハチなどの存在、
種の保存など生命の大命題も絶妙に描かれ、
ストーリーに引き込まれる。
作中に登場する虫たちは教養を持ち、思想を持ち、
思考することもできる生命体である。
一寸の虫にも五分の魂どころか、思わず感嘆せずいられぬ
まさに魂を震わせる名著に仕上がっている。
解説は養老先生であり、また豪華である。
講談社文庫