2019年11月29日

小説『美人薄命』深水黎一郎

戦争によって大事な人を失ったカエは
望まぬ結婚をし、姑・旦那から虐げられ、
一方的に離縁されてしまう。
片目を失い生き場所のないカエだったが
親友の存在により繕いの仕事をこなし
御年84歳。現在では冗談によって他人を
笑わせる老婆としてつつましく生きていた。

大学のセミナーで教授から進級できないと
脅された大学生の磯田総司は弁当配達の
ボランティアに参加した。一回でもこなせば
教授も許してくれるだろうと軽い気持ちだった。

だが届けたカエなどの老婆や老爺、
ボランティアスタッフの杉村、
かつてあこがれていた同級生の沙織などの
存在もあり、腹の立つこともあるが続けていた。

物語は普通の若者である総司が
84歳にしてあこがれの人、五十路への
過去の恋に生きるカエの秘密に迫っていく
という極上の純愛ミステリーである。
旧字体で書かれるカエの述懐・回想シーンから
現代の物語につながっていく。

なぜカエは総司に対し、胸襟を開いたのか?
カエが抱いてた淡い恋心の行方は?
総司はどのように考え、どう成長したのか?
そして物語の核心、真実に迫るとき
読者をあっと言わせる演出が心憎い。
『最後のトリック』でもうならされたが
私としてはこちらの方が更におすすめ。
双葉文庫
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2019年10月25日

小説『最後のトリック』深水黎一郎

作家である私の下に手紙が届く。
「読者が犯人」というトリックのアイディアを
買ってほしいというものだった。
香坂誠一という謎の男からの手紙はその後も届き、
「命と引き換えにしても惜しくない一世一代」
のアイディアなので2億ほしいと言う。
不信感を抱きながらも、いつしか男からの手紙を
待ちわびている作家の姿があった。
荒唐無稽の大言壮語かと思われた物語は
意外な展開を遂げて…。

作中でも語られるように意外な犯人の模索は
ミステリー界では数多の作家が挑んできた。本作は
ミステリー界最後の不可能トリックに挑んだ意欲作。
物語の随所に暗喩的伏線が提示されていて、
緻密な計算と説得力で展開される傑作推理小説。
一気読みしたくなる垂涎の一冊。河出文庫
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2019年08月02日

小説『白髪鬼』江戸川乱歩

九州の大名を先祖に持つ大牟田子爵は姦夫姦婦
(ゲス不倫、NTR)され、事故を装った殺人未遂
の被害に遭う。旧家の立派な墓に埋められる。
当時土葬だったので彼は仮死状態から復活した。

数日間地中から這い出ようとした地獄体験、
死の恐怖によって白髪となり老人の姿に豹変。
しかし思わぬ形で海賊の宝を手にすることに。

愛する妻瑠璃子と親友川村が自分を裏切り、
殺そうとした真相を知ってしまう。
大牟田俊清は悪女瑠璃子と川村に復讐を果たそう
と強く決意した。
二人の罪を告発しても苦痛の少ない死刑が関の山。
それではこの怒りは修まらないと私刑を選択。
目には目を、歯には歯を、殺意には殺意を。
コノウラミハラサデオクベキカ。

自分の顔の特徴である目を黒眼鏡で隠し、
大牟田家の親類で渡米し正体不明となった
親類里見重之になりすます。
彼は南米で大成功し、成金紳士となって
日本に帰ってきたという筋書きだ。
白髪鬼と化した彼は復讐の心を胸に秘め
瑠璃子と川村に近づいていく。その結果、
二人の犯した新たな罪も露見し、より一層
白髪鬼の仇討ち的ストーリーに拍車がかかる。

ゾクゾクする名作ホラー。人の心に醜さ、
恐ろしさや複雑さを見事に描く。
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2019年07月15日

小説『くちびるに歌を』中田永一

Nコン合唱コンクールをめざす長崎県五島列島の
中学生たちと合唱部を指導する自称ニートの美人教師の
奮闘を描いた青春小説。作者は乙一先生別名義中田先生。

産休に入った信頼厚い音楽教師松山先生の代理で
美人ピアニストでニートをしていた柏木先生がやってきた。
松山先生と柏木先生は友人であり三角関係の当事者。
松山先生の旦那はかつて柏木の恋人ということもあり
複雑な想いを抱いていた。生徒達には伏せられていたが
松山先生は心臓が悪く危険度が高い。
それを知る教師達は彼女の容態を危惧していた。

合唱部は元々女子しかおらず、まとまっていた。
しかし、美人の柏木先生目当てで男子生徒が数名入り
(桑原サトルのみ違うが)、不協和音が生まれることに。

美形の2年生男子をちやほやする浮かれた女子生徒、
練習をまじめにせず女子生徒から不況を買う男子生徒、
めだたないまじめな生徒だった桑原がみせる意外な才能、
部内で生まれた恋愛感情や恋愛関係。

思春期を迎えた中学生がいろんな悩みに直面しながら
等身大の自分と向き合いながら生活を送る。
一見おちゃらけて見えた人物の意外な素顔、
明るくてかわいいあの子の素の部分や悩み、
家族から過度の期待を背負わされた生徒、
そして案外メンタル弱い顧問の柏木先生に
部員を支えるしっかり者の部長、
自分の意外な恋心に気づく女子生徒と
盛りだくさんなキャラクター、感情がほとばしる。

「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」、そして作中登場人物が
十五年後の自分に向けた手紙を描いているが、
そこにこめられた想いやそのときに感じた
あれこれを形にするというのは、恥ずかしさと同時に
大切な思い出に変わる日がくるかもしれない。

主人公の一人であるサトルは、自閉症の兄がいる。
将来を心配した両親から、兄の面倒をみる存在として
生まれた子である。ある種の義務感、責任感を
あらかじめ運命づけられた存在であり、消極的で
めだたない彼はともだちもできず得意は寝たふり。
しかし、明るくかわいい同級生長谷川コトミが
つぶやいた毒舌を聞いてしまう。寝たふりを続け、
聞いていなかった演技を続けるが、おそらく
バレている。でもそんなこともあり、サトルは
コトミのことが気になり、ひょんなことから入部。

サトル意外の男子生徒は柏木がいないと露骨に
まじめに練習をしないので女子から敵視される。
女子部員の中でも男子擁護派、男子敵視派(主流)が
生まれ対立が表面化。昔のラブレターによる裏工作と
ほほえましい?水面下の交渉も勃発。
本気でNコンをめざす女子部員は、男子を出さない
強硬案を主張する自体に。混声合唱は生まれるのか。
小学館文庫
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2019年07月08日

小説『夜光の階段』松本清張

女を踏み台にして成功の階段をかけあがる
美容師佐山道夫と彼に疑惑を抱く桑山検事。
女たらし、女殺しと称される美容師佐山は
刑事事件的な意味で裏の顔を持っていた。
男性美容師が珍しいいわゆるカリスマ美容師の
走りだった当時にヒモ・悪事の天才佐山が躍動。
関係を持ち、女性を利用し尽くす悪魔のような男は
シッポをつかませないし、豹変するときはある意味
君子のように行動が迅速で頭もキレる。

自白を強要する違法捜査がまかり通り、
官尊民卑が顕著だった社会背景もあって
そのシッポをつかまれない佐山。
美容界の寵児、ニュースターともてはやされる
佐山の周囲では変死を遂げる者が多い。
裁判によって一応の解決をみせた殺人事件。
しかし、それはえん罪だったのではないか。
不思議な因縁で彼に対して疑惑を強める佐山は
独自の調査を進めるのだが…。
富と名声のために悪事に手を染めていく
美容師がいろんなものを切りまくる。
それは後ろ暗い過去か邪魔になった女との関係か。
新潮文庫上・下巻
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2019年06月10日

小説『美しい星』三島由紀夫

円盤を目撃したことで自分たちは宇宙人である
と自覚した一家。水爆実験(核実験)をはじめた
アメリカ・ソ連の暴挙を憂い平和を熱望した。

埼玉県飯能市の裕福な大杉一家には秘密があった。
家族四人が個別にそれぞれUFOを見たことで
金星・火星・木星・水星人であると思い出す。
そして地球人の個体に精神(霊魂)が侵入し、
4人で生活する家族であった。
生まれ育った天体での記憶は全くないが、
それぞれ別の天体から飛来した宇宙人であり、
そう自称している。

もちろんそんなことを言う奴は、狂人扱いされ
この星では排斥されることは明白なので
一家はこのことを隠しながら生きている。
世界平和を憂う父重一郎は宗教的活動を行い、
長男一雄は政治活動に活路を見いだそうと
有力な政治家黒木に近づく。
地球人離れした美人の金星人暁子は
自称金星人の竹宮に会いに行く。
変人ばかりの家族の中で平凡な感受性を持つ
母伊余子は彼らに寄り添うように暮らす。

彼らの存在を妬む卑しい近隣の住人。
彼らの通報によってやってきた刑事。
そして円盤を見たことで宇宙人であることを
自覚した自称宇宙人たちも現われる。
彼らは地球人達を安楽死(人類を滅亡)させる
ことが衆生につながると物騒な考えに囚われた
厄介な存在であり、重一郎と対決することに。

物語に登場するのは自称宇宙人であり、
明確な形で宇宙人とする根拠や記述はない。
しかし重一郎や暁子がそれぞれ見た円盤が
実在するのかを論じるのはナンセンスだ。
この物語の主題は冷戦下にあった当時の
深刻な緊張状態の中、核実験を繰り返す
愚かな人類を宇宙人の視点で捉え、
痛切に批判、解決を模索した点である。

核という人間の手には余る科学技術を放棄するか
そもそも人類自体を滅亡させることで
魂を苦痛から解放する(安楽死させる)
という命題に挑んでいる。
作中重一郎は、個人の痛みが人類全体の痛みと
して共有されればこんなバカげた諸々の
失敗や過ちを繰り返さないはずだと糾弾する。
殴り合えばわかることが、爆弾を投下すれば
一方的な暴力となりボタン一つで可能となる。
しかも、それが命令であれば責任の所在は
あいまいとなり、取り返しのつかぬ惨劇を生む。

「人」が思いつくことはいいことでも悪いことでも
いつかは誰かが実行する。理想を掲げる重一郎、
政治家になることで人類を支配しようとする一雄、
金星人を身籠る暁子。そして自称三バカ宇宙人。
自己陶酔する者たちの運命、人類の運命は?

1962年(昭和37年)に描かれ8年後に著者は
亡くなったわけだが、その頃と今とでは世界の
あり方や緊張度全然違うのだろうなぁ。
それこそ宇宙人や広大な宇宙に救いを求めたくなる
気持ちもあるのだろうが、著者の持つ宇宙(脳)に
少し触れられるというだけでも一読の価値がある。
新潮文庫 355ページ
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2019年05月31日

小説『火花』又吉直樹

花火大会で出会ったお笑い芸人あほんだらの神谷さんに
惚れ込み弟子入りした徳永。
お笑いのために全身全霊をこめて邁進する師匠神谷さんと
僕との日々を描く。そんな愛しくも馬鹿馬鹿しい傑作小説。

平素の破天荒な言動や舞台での暴走などにより
お笑い芸人からも引かれる。
ヒモ的な生活をしながら借金を重ね、
誰よりも純粋にまじめに笑いを追求する探求者神谷。
彼の才能に魅せられたスパークスの徳永は
実生活やお笑いにおいて強い影響を受ける。
繰り広げられる漫才談義、独自の哲学。
お笑いに対する真摯な姿勢。

周囲からバカにされ、受け入れてもらえなくても
ただただ我武者羅にひたむきに我が道を行く。
そんな姿に感動させられ、強く勇気づけられる。
神谷と徳永の何気ない会話が無性におもしろい。
そして、やはり花火のシーンが印象的な作品。
文藝春秋
ラベル:おすすめ 小説
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2019年05月18日

小説『クラスルーム』折原一

教師の恐怖政治によって支配された教室。
生徒たちは革命を起こし、10年の歳月が流れた。
成長し日々の生活を送っていた栗橋北中卒業生たちに
長谷川達彦なる人物から同窓会の便りが届く。

しかし、長谷川達彦という名前に見覚えがない。
卒業アルバムを開いてもそんな同級生はいないし、
元クラスメイトたちの記憶にもない。
また、不審な形で手元に届くので不気味だ。

もしかしたら、10年前のあのことが原因かもしれない。
あのときの「きもだめし事件」には謎が多い。
3年B組の面々は竹刀を振り回す暴力教師桜木によって
息の詰まる学生時代をすごしていた。
桜木をこらしめるために企画されたあの催しが
今回の不可解な事態を招いている。

佐久間百合、秋葉、青野、松尾らかつての生徒たち、
そして桜木は夜の校舎にやってきた。
謎の人物長谷川達彦の正体とは?
現在と過去をリンクさせ巧みに構成された文章。
叙情トリックの名手によるバランス感覚の優れた
傑作推理小説。講談社文庫

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2019年04月12日

小説『通天閣』西加奈子

大阪ミナミの街で蠢く個性的でアクの強い
キャラクターたちが織りなす人間劇場をコミカルに描く。

不満ばかりの主人公俺の日常は、
変なオカマから熱い視線を浴びたり、
謎のジジイの行動に首をかしげたり、
しょうもない工場で黙々と作業をこなす日々。
行きつけの店大将で塩焼きそばばかり食しているが、
昔はコンビニのいなりそばセットばかり食べている。
これはグルメなのか、単なる偏食家なのか。

もう一人の主人公の女の子の日常はしんどい。
ニューヨークに行けば夢が叶うと思い込んでいる
愚かな彼氏マメを健気に待っているが、
けったいな人ばかりのぼったくりスナックで
心を痛めながらチーフとして働いている。
こんな悲惨な境遇に身を置くことで恋人が心配し
帰ってくることを願掛けしているのかもしれない。

下品であけすけだけど、印象に残るフレーズも多く
二人の主人公の物語がリンクする箇所や
店で働くママのセリフが好印象な作品である。
ちくま文庫
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2019年01月06日

小説『羊と鋼の森』宮下奈都

山深い森で暮らす高校生の外村はピアノ調律師板鳥さんと
出会い、調律師をめざして歩み出す。
特別な才能など持ち合わせていない…
それでもひたむきにピアノの森をさまよう外村は
板鳥さんと同じ職場で柳や秋野といった先輩調律師と働く。

双子の和音・由仁姉妹に代表されるピアノ演奏者(お客様)を
サポートし、魅力的な音を引き出すために努力を惜しまない
外村だったが明確な正解のない音楽の世界に苦戦を強いられる。

確かな研ぎすまされた感性と豊かな表現に彩られた美しい文章が
醸し出す音楽の世界に酔いしれる。文藝春秋
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2018年12月14日

小説『病院坂の首縊りの家』横溝正史

複雑怪奇な五十嵐家、法眼家の過去と現在。
そして両家に起こった陰惨な事件の謎を追う
金田一耕助と刑事の20年による捜査と結末とは?

開業医の名士として知られる法眼家、
闇稼業によってのし上がった五十嵐家。
両家の成り立ちやご先祖、登場人物が紹介され、
かの両家の子である法眼由香利、五十嵐滋が
婚姻の運びとなり、写真館で写真が撮られた。
その際に不思議なエピソードが語られる。

一方、アングリーパイレーツなるジャズ集団に
おいても事件が勃発。中心人物であった敏ちゃんが
妹と目されていたメンバーと結婚するという。
メンバーの哲ちゃんは彼女への恋慕から敏ちゃんから
殴られ右目を失明。酔った勢いで二人の逢瀬を
邪魔しに出かけたが、彼が見た者は敏ちゃんの
変わり果てた姿だった。現場に残された手紙から
一応の決着がついた形となったが、金田一耕助と
等々力刑事にとって忘れられない事件となった。

それから20年の歳月が流れ未解決のまま時効が成立した。
(現行法では殺人事件に時効はない)
刑事を引退し探偵事務所所長となった等々力氏、
そしてかの名探偵が再び捜査に乗り出す。
かつての関係者たちを洗う金田一は、
事件に隠された真相に迫るのだが、
過去の事件が引き金となり新たな殺人事件が勃発。
更なる悲劇を防ごうと頭脳をしぼる名コンビと
金田一の選択とは?角川文庫 上・下巻
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2018年10月25日

小説『Wの悲劇』夏樹静子

雪に囲まれた別荘で正月をすごしていた和辻家で
殺人事件が発生。誰からも愛されていた摩子が
和辻製薬の会長を刺殺してしまったと告白した。
摩子に同情した面々は外部犯の仕業にしようと画策。
現場不在証明(アリバイ)作りのために
口裏を合わせて行動を開始した。
和辻家6人、そこに居合わせた外科医間崎、
摩子の家庭教師の春生は
中里、鶴見警部ら警察の目を欺けるか?
綿密と思われた工作であったが思わぬほころびが生じ…。

タイトルが示す通り、エラリークイーンの『Yの悲劇』
に挑んだミステリー小説である。クイーンもこの作品を
絶賛し解説に参加している。不朽の名作ミステリー。
角川文庫
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2018年10月18日

小説『握る男』原宏一

留置場の中で自分の人生を決定づけた男の死を知る。
人たらしの天才、稀代の悪党でもある盟友が自殺?
兄弟子でありながらゲソこと徳武光一郎によって
急所をつかまれた金森は激動の過去を想起する。

昭和56年。両国のよくある寿司屋で
一番の下っ端として働いていた金森。
小柄の少年ゲソがやってきて店で働くことに。
よく気が利き、人の懐に入るのがうまく、
努力を惜しまないことで金森を圧倒する。
特に金森を苦しめていた兄弟子をゲソの画策により
追い出したことにより頭が上がらなくなる。
また両国ということもあり、目をかけた力士と
懇意となりゲソはこの人気者も活用することに。

人なつっこい笑顔を浮かべながら時折顔をのぞかせる
野望を秘めた裏の顔。この国の食(食品業界)を牛耳る
という大言壮語かと思われたゲソの言葉。
ピンチをチャンスに変えてしまうこの男は
無謀と思われた夢をどんどん現実味を帯びていく。
ゲソは金森を自分の片腕、番頭にすると宣言した。
彼に掌握され反発しながらもどこかでゲソの夢を
手助けする道を選んでいた金森。

目的のためなら手段を選ばず巨大化していく野望。
そして組織の中で彼に振り回されながら、
時に違法行為に手を染める者も現れ…。
この権力構造は新興宗教組織を思わせるが
急成長を遂げた企業や既存の大企業にも通じる
ものがあるのだろうな。

権力の暴走の怖さもさることながら、この作品は
「人」をしっかり描ききっている所が特筆すべき点。
ゲソと金森の不思議な共存関係や彼らに関わる
人々との情や愛憎、意外な関係を知るとき
物語に厚み、深みが加わりより味わい深い作品に。
角川文庫 420ページ
ラベル:原宏一 おすすめ
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2018年09月26日

小説『絶望ノート』歌野晶午

中2の太刀川照音は立ちションというあだ名を
つけられる小柄なネズミ顔の生徒。
ジョンレノンの熱狂的なファンで働かず
ファッションだけを真似する薄ぺっらいダメ父と
働き者のヨーコという名の母を持つ。
貧しい生活なのでいろんな我慢を強いられ、
趣味は図書館で借りてきた本を読むことだ。
彼は自宅の机の奥底に「絶望ノート」と名付けた
日記帳を書き連ね、そのノートの内容によって
いじめの様相が語られていく。

学年の人気者でありながら、いじめグループの
リーダーである是永は狡猾な男。日記の中で
直接いじめを行う是永や見て見ぬフリをする者、
担任、父に強い恨みを抱いていることが語られる。

追い詰められた照音は、偶然自分を助けてくれた石に
救いを見いだし神としてあがめることに。
願いは聞き入れられ…。

日記を目撃した母は息子照音のために興信所へ赴く。
能天気な父の謎の行動は?
なぜか自分のことを気にかけてくれる副担任の来宮。
照音のあこがれの人国府田さんの来訪。
登場人物たちの言動ひとつひとつに意味があり
読者を驚かせる仕掛けが施されている。
『葉桜の季節に君を想うということ』にも
鳥肌が立ったがこの作品も比肩するほどの名作。
人の心は一筋縄ではいかない。
幻冬舎文庫 630ページ
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2018年09月18日

小説『だから荒野』桐野夏生

46歳主婦の朋美は誕生日に怒りを爆発させた。
身勝手な言動を繰り返す夫と二人の息子による
長年の蓄積は消化されなかった。
衝動的に自動車で出奔した彼女は、
高速道路で長崎めざして走り出した。

家族やしがらみとの決別、さみしさや孤独の中にある
解放感、新しい世界を切り開こうと荒野を駆ける。
捨てられた夫は懲りも反省もせず愚行に及ぶ。

元々思いやりや家族の絆が希薄だった森村家は
空中分解し、問題が浮き彫りになる。
足りなかったあれこれ、失って気づくこと、
新しい人間関係を構築したり、事件に遭遇。

思い切りのよい主人公が決断をした結果、
超然とした大人物山岡に出会う。
山岡はボランティアで戦争体験を語る
90歳過ぎの老人。最終章人間の魂では
この山岡さんの説諭によって涙がとまらない。

荒野に生きる覚悟、現実と向き合う覚悟、
人と向き合う覚悟、他者への愛、罪を許す心…
家族間の係争という身近で個人レベルの問題。
そして絶対的かつ理不尽な暴力や災害に対する怒り、
悲憤という大きな問題もからめた描かれている。
文春文庫 440ページ
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2018年09月12日

小説『あと少し、もう少し』瀬尾まいこ



中学駅伝に情熱をかける部長の桝井。
しかし、怖いが信頼の厚い顧問が異動し
陸上門外漢の元美術部の上原先生が顧問に。
部の空気もだらけ、十数年に及ぶ県大会への通過も
危険信号。そもそもメンバーが足りない。
桝井、設楽、俊介といった陸上長距離部員は三人。
例年はバスケ部員などを招集し、メンバーを選んで
いたのだが桝井は意外な勧誘をはじめるのだった。

桝井は不良の大田、吹奏楽部員の渡部という
めんどくさいが走力が高い二人に声をかける。
ムードメイカーとしてジローも引き込み、
なんとか六人そろえた。前途多難かと思われた
チームは成長を遂げるが桝井がスランプに。
六人のメンバーがどのように集まり、
どんな考えを持ち、レースに臨むのか。
あえて同じ場面をそれぞれの登場人物たち視点で
描き直すことで物語に厚みを加える。
選手ひとりひとりが抱える葛藤や思春期特有の
もやもや。悩みや目標を達成していく爽快さ。
勘違いや思い込み、誤解が解ける瞬間。
チームのためにあと少し、もう少しがんばろうと
する前向きな気持ち。
物語の軸となる六人の中学生たちと上原先生たちの
奮闘を描いた青春小説。新潮文庫 350ページ。
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2018年09月02日

小説『硝子のハンマー』貴志祐介

密室殺人の不可能犯罪に挑むのは弁護士青砥純子と
手癖の悪い防犯コンサルタント榎本径。
ホラー小説の大家として知られる作家が手がけた
日本推理作家協会賞受賞の人気シリーズ第一弾。

介護サービス会社を展開するオフィスビル内で
社長が撲殺死体という形で発見される。
いわゆる密室殺人ということで、
現場の状況から専務が逮捕されてしまう。
弁護士青砥純子は、専務を弁護することになり
防犯に詳しい榎本と共に事件解決に挑む。

介護ロボット、介護ザルといったこの職種ならではの
「飛び道具」的存在が登場し、物語を盛り上げる。
1部では、青砥・榎本が可能性を模索していき、
犯人、そしてトリックについて言及。
2部は犯人の生い立ち、犯行に至った経緯が示される。
トンデモ推理を披露する青砥。
そしてそれを修正していく探偵役との榎本と
犯人との直接対決が描かれる。うならされた。
角川文庫 580ページ。
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2018年08月11日

小説『青の炎』貴志祐介

平穏な生活は闖入者によって台無しに。
高校生の櫛森秀一は昏い情熱を燃やし、
完全犯罪を目論むのだが…。
現代版『罪と罰』開幕。

母と妹と暮らす秀一は湘南の高校に自転車で通う。
十年も前に母と離婚した三拍子揃ったダメな元父親が
強引に居座り恐怖を感じていた。
酒を飲み勝手に振る舞い目障り極まりない。
特に妹に危害を加えないかと危惧する秀一は
離婚の際にお世話になった弁護士に相談する。
しかし母の態度が定まらずいらだちを募らせる。

現状では警察も弁護士も事態を解決してくれない。
精神的に追い詰められ苦悩。
あんな人間のクズいっそ処刑してしまえば。
自分は『罪と罰』の主人公のように罪悪感に
とらわれず、疑われなければ捕らわれない。
不審を抱かれないような自然死に見える殺人。
計画を練り、少しずつ見えていく解決の手段。
もう後戻りできない…。

しあわせを守るために
犯罪に手を染める孤独で悲しい戦い。
手の中にあったはずの確かなしあわせが
こぼれ落ちていく。
彼を想う家族や同級生の気持ちを偽りながら
廻り始めた車輪はノンストップで止まらない。
物語は回転数を上げ続け終末へ。
角川文庫 
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2018年08月04日

小説『ひらいて』綿矢りさ

おかえり。
『インストール』、『蹴りたい背中』以降物足りなさを
感じていた綿矢りさファンとしてはこの作品は
そう言いたくなる傑作長編だ。主人公である
女子高生愛がエゴむき出しの恋愛感情によって
突き進み壊れていく様は狂気そのもの。
主人公愛の必死さ、ダメさに心を揺さぶられる。
先の名作2つと比肩する作品に仕上がっている。

綿矢りさ先生は『夢を与える』で正攻法でない
やり方でかりそめの愛を獲得した人物を描いている。
本作でもアンフェアの誹りを免れない主人公が登場し、
身勝手な言動を繰り返す。
主人公に共感できない部分も多々あるが、
恋は盲目であり、作中に登場する聖書に隠喩される
ように有史以来人間は罪深い存在。
あがき、もがき苦しむ姿は青春そのもの。

モテ女子愛はクラスメイトで地味男子である
たとえに惹かれ、人知れず注目している。
彼が机に忍ばせている手紙に興味を抱き、
同級生たちと共に深夜の学校に忍び込む。
手紙を盗み見た愛は、たとえが同級生の
美雪とやりとりしている事実に驚愕する。
糖尿病であることを公言し、注射する姿を
披露したかつてのクラスメイト美雪。
その行為から疎遠になり、教室でも浮いた
存在となった彼女とたとえが付き合っている?

合理的なリアリストだったはずの愛は
恋愛感情をこじらせてしまう。
修行僧のような男子高校生たとえ、
健気な薄幸の美少女美雪。
正しい、正しくないかはさておき、
精神的なつながりを重視する恋人たちに対し、
主人公はアンフェアなアプローチで対抗する。
エゴが表のテーマで贖罪と許しが裏のテーマ。
新潮文庫
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2018年05月30日

小説『命売ります』三島由紀夫

自殺未遂を起こした男は生きる価値を見出せず
新聞広告を出した。「命売ります」。
どうせ羽のような軽い命だと高をくくる彼に
訪れる運命とは?

コピーライターとして成功し、何不自由なく暮らす
27歳の羽仁男。ある日新聞の活字がゴキブリに。
人生に虚しさを感じ、睡眠薬を大量に摂取し
自殺を図るが気づけば病院のベッドで眠っていた。
生きるように諭されるが生きる気力が湧かない。
思い付きで「命売ります」と宣言した彼の下に
老人が現れて不思議な依頼をした。

成り行き任せ、他人任せで局面に当たる彼だったが
吸血鬼家族と疑似家族となったり、
変わり者と生活を営んだりと
ある意味、人生の醍醐味のようなものを知る。
しかし、その当たり前のしあわせや未来を忌避し
自殺を選んだことを思い知る。
同時に自分が死を恐れるようになっていることに
気づく。あのときは生きることから逃れたかった。
でも今は死ぬことに怯えている。そして、自分が
してきたことは間違いなく生きることを放棄し、
自らを命を危うくする愚かな行いだった。

死んだ気になりことにあたり生きるのと
死んでもいいやと生きるのは雲泥の差がある。
いわゆる物騒な相談事、そして秘密を知り、
裏社会の人間と思しき者からの依頼もあった。
軽々に扱っていた命は重く尊いものだった。
他人の死に触れることで自分の命の重さに
気づいた羽仁男は身の危険を感じ生を模索する。

三島といったら難しく固い。というイメージがある。
しかしこの作品は娯楽性も高く、内容も読者を
飽きさせず、読みやすい。世捨て人になったことで
ある意味自由に生きられるようになった主人公が
そのことから豪胆に振る舞う。肝が据わっている
からではない。ただ鈍く、いきることを思考しない、
故に大胆かつ勝手なふるまいができる。しかし、
他者と心を寄せる内に感じるものがあったのだろう。
彼自身が臆病になったというよりもまともになった、
平常な人間に戻ったというべきか。人はややこしい。
ちくま文庫 約255頁
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2018年04月06日

小説『ニッチを探して』島田雅彦

銀行員副支店長藤原道長は使途不明金の背任の罪を
かけられ逃れるように失踪してしまう。20億円にも及ぶ
巨額の中小企業への融資は彼なりの正義の発露。
実際は不正を指示した支店長への面当てだった。

自分の居場所スキマ的ニッチを追い求める道長。
支店長は道長を捜し出し罪をなすりつけようと画策。
道長は不正の証拠を隠し、家族である妻と娘に連絡を入れ、
ドロップアウトを愉しむことにした。

初めこそ道長は豪遊し、都内をうろつき孤独のグルメを
堪能するがすぐに資金が底をつく。
ネットカフェ、段ボール生活、そして路上生活…となるが、
食いしん坊なやさしいジャイアンと出会ったり、
神佑天助か意外な幸運によって生き長らえていた。

しかし、道長が切り札に取っておいた
いざという時のための隠し財産をめぐり裏社会からの
刺客が放たれる。ニッチを探し続ける道長の命運は?
ドロップアウトは蜜の味?
それともほろ苦い教訓を残すのか?
レールから落ち、生存競争に負けニッチを求める
ことになるのは果たして誰なのか?
高い知性と鋭い考察力、構成力にガンガン引き込まれる。
人間行動学的見地、随所に登場するトリビアもおもしろい。
新潮文庫
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2018年01月23日

小説『夏、19歳の肖像 新装版』島田荘司

バイク事故により長期入院を余儀なくされた私は
「谷間の家」こと豪邸を窓から眺めていた。
70歳過ぎの亭主と思しき男、50歳位の妻と思しき女、
そして年頃の女性。なんとか顔を観てみたいと
親切な友達から双眼鏡を借りた私は彼女にひとめぼれ。
そんな私は谷間の家で起こった「事件」を目撃し…。

退院した私は、あこがれの女性小池理津子の姿を
追いかける。しかし、何者からか警告を受けて。

なんとか彼女に近づく私だったが、
彼女に道化のような印象を与えてしまう。
偶像崇拝のような純愛を貫く私。
色々とワケありそうな理津子の家庭。
理津子という女性、そして例の事件の謎に迫るとき、
幻想に生きる人の心が浮き彫りになって…
文春文庫
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2017年08月23日

小説『孤島の鬼』江戸川乱歩

恋人が殺された。しかも密室で。
悲嘆にくれる蓑浦は素人探偵深山木に調査を依頼。
しかし、事件の真相に迫った深山木も
蓑浦の近くに潜む犯人により刺殺されてしまう。

かつて自分を寵愛していた親友諸戸道雄は、
自分の恋人に謎の求婚をしていた。
そのことから諸戸を疑う蓑浦だったが、
すべての謎を解くカギは不気味な孤島に潜む
鬼の仕業に違いないと諸戸と共に導き出した。

神出鬼没に姿を現す謎の人物。
孤島に集められた人々…。
鬼がめざす理想郷、莫大な宝とは?
変死にはじまった悪夢のような物語は
島に訪れたことで地獄絵図へと変貌を遂げる。
恐怖体験を経て生き残るのは果たして?
創元推理文庫
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2017年07月04日

小説『逸脱 捜査一課・沢村慶司』堂場瞬一

県警捜査一課澤村は優秀だがスタンドプレーが
めだつ男で上司と対立を繰り返す。
過去に目の前で人質にされたこどもを刺殺された
過ちを償うために自らに課したのは完璧な刑事。
澤村をかばう課長谷口、コンビを組んだ初美、
プロファイリングを駆使する変人橋詰らと共に
連続殺人事件を追う。捜査陣をあざ笑うかのような
大胆かつ冷静な犯行の手口から警察関係者が疑われる。
自分の犯行、行動に関して絶対的な自信をのぞかせる
犯人は尻尾を掴ませない。ねじまがった正義感から
犯行を繰り返す犯人を追ううちに澤村はある一人の
人物に行き着く。性質の悪いことにその姿は自分を
映す鏡のような人物。悪(悪人)に近い位置に立つ
人間は悪に毒されやすい。皮肉にも犯人は…。
角川文庫
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2017年06月21日

小説『穴』原宏一

富士樹海に死ぬためにやってきた男はロクじいと
名乗る仙人のような男と出会う。素直な男は
説き伏せられてしまい、同居して生きることに。
カズヒロという他人の名前を拝借し、洞穴の中で
縄文時代のような狩猟採集生活を営んでいたら、
不思議と楽しい。生きている感覚を肌で実感する。

そして新たな住人が。政治家秘書をしていた男は
裏切りに遭い、いけにえとして罪をすべて被せられ、
地検や刺客から逃亡を図っていた。疑心暗鬼に
かられる男はコタニと名乗る。
警戒心を持ちながらロクじいとカズヒロに接する。

温泉で出会った女はタツコと名乗り、いっしょに
生活を送ることになった。したたかで、男を利用
することで生き延びてきたタツコは平気で人を
裏切る峰不二子のような悪女。
カズヒロと親しくなったタツコは彼から綺麗な石を
プレゼントされる。妙に博識なロクじいから
モリブデンと言われるレアメタルだと教えられる。
もし鉱脈だとしたら莫大な富を得られるかも…
欲にかられたタツコによりサバイバル生活に
亀裂が生まれ、各自の思惑が交差する…。

不思議な老人ロクじい、素直で単純なカズヒロ、
計算高いクスブリコタニ、きままな女王様タツコ。
彼らがそれぞれめざし、掲げた理想郷、国とは?
現代の穴に落ち込み、竪穴式洞窟での生活の彼らが
思い描いた青写真とは? 実業之日本社
ラベル:原宏一 おすすめ
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2017年06月13日

小説『わるいやつら』松本清張

病院を営む医者戸谷信一。複数の愛人を持ち
彼女たちを利用し金を巻き上げ、
手前勝手な理論で生きている冷酷な男である。
経営能力がなく毎月のように赤字を計上する病院。
その赤字は経済力を持つ愛人から引き出す。
不仲な妻とは離婚したいが、それにもまとまった
慰謝料が必要であり、現在の婚姻関係ですら
愛人への歓心、カンフル剤に用いている気すらする。
愛人たちとの関係、病院経営の圧迫から犯罪に
手を染め悪党に堕ちた戸谷。戸谷は医者という立場、
とりわけ死亡診断書を作成できる能力をフル活用。

自己の欲望の為なら平気で他人を利用する戸谷。
だが、経営者槙村隆子と出会い強く惹きつけられる。
彼女と結婚するには自分が経済力に優れた男である
ことをアピールする必要がある。友であり弁護士
下見沢に相談し、隆子の歓心を買おうとする戸谷。
しかし隆子は一筋縄でいかない女性であった。
更に、過去の悪事の捜査が進展しはじめ…。

物語は1960年頃描かれたが、この作品自体は
とにかくすごいの一言。主人公である戸谷は
清々しいくらいのわるいやつである。いわゆる
ピカレスク小説であり、読者を飽きさせない展開、
ミステリーとしても一級品である。
人がモンスターに変化していく過程、心理描写、
逆転劇に思わず鳥肌が立った。主要人物たちが
果たす役割を考えた時、無駄のなさに感嘆した。
新潮文庫 上・下巻 
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2017年06月10日

小説『犯人に告ぐ』雫井脩介

児童誘拐事件が発生し、身代金を要求する犯人を追う
神奈川県警は警視庁との合同捜査を決行。
しかし、手柄をめざす巻島史彦警視を提言により
神奈川県警が主導をめぐる捜査となった。
事件性及び注目の集まるこの事件は、最悪の結果に終わる。
記者会見で矢面に立たされた巻島は裕次郎の兄ばりの
大失態を演じ、非難を浴び事件は後味の悪い幕引きとなる。
事件後犯人と思しき「ワシ」を名乗る者から手紙が届き、
自己を弁護し、責任を転嫁する身勝手な内容だった。
この事件以降神奈川県警の不祥事が相次ぎ、
それから6年の歳月が流れた。

バッドマンを名乗る児童連続殺人事件が川崎で発生。
捜査は難航し住民の不安と不満は募る一方だった。
人を喰ったかのような犯行声明文に歯噛みする捜査陣。
曽根本部長は低迷する県内での犯罪検挙率に着目。
検挙率を上げている地域に着目し、巻島の名を思い出す。
劇薬とばかりに白羽の矢を立てた巻島を利用。
テレビニュースに現役捜査官として登場させることで
事件の解決を図るという劇場型捜査に乗り出した。
住民から情報を呼びかけることはもちろん、
犯人をあぶり出すことが主たる目的である。

マスコミを利用したこの捜査は一定の効果をあげるが
同時にその手法から警察内部や世間から非難を浴びる。
しかも公私混同に走る獅子身中の虫が捜査情報を漏らす
暴挙に出る始末。バッドマンを騙る模倣犯やいたずらも
相次ぎ、捜査本部を惑わすが思わぬ形で犯人に肉薄する。
この事件は絶対に自分が解決すると闘志を燃やす巻島は
犯人に「勝利宣言」を突きつけた。

過去の過ちとの対峙や警察官のジレンマ。
捜査陣の中に足を引っ張る存在を配置したこと。
報道が捜査の妨害になる可能性の示唆。
被害者家族への配慮。謝罪の難しさ。
多くの要素を内包した警察小説の名作。双葉文庫上下巻
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2017年06月07日

小説『月と雷』角田光代

親切な人の家を転々とするというでたらめな生き方の
母親に育てられた東原智。如才なく女性にモテる悟。
だがいざ結婚しようとしても、相手からはあっさり
断られ、首をかしげながら30代半ばを迎えた。
飯は外食ばかり、お菓子で済ませることも多い自分。
金が尽きればバイトするという根無し草体質。
女性の母性本能をくすぐるも、結婚相手とは捉えられない。
原因は生い立ちか…。

智はかうて母と共に転がり込んだ家庭で、
小学校にも行かず、裸になって自堕落に自由に
すごした同世代の女の子(泰子)のことを思い出す。
その子のことが運命の相手かもと思い込んで
会いに行くことに。泰子は智、そしてその母直子が
家に転がり込んだことがきっかけで父と母の関係が悪化。
家庭が崩壊したと思っていた。しかし、思い返すと
その怠惰で不思議な生活は幸せだったような気すらする。

仕事を通じて知り合った太郎と婚約も決まり、
しあわせをつかむはずだった泰子。
でもどうやら過去の不幸が追いかけてきたと直感した。
屈託なく話す智を泊める羽目になり…。

智の母親は60を過ぎても、未だに親切な人に
捨て猫のように拾われて面倒を見てもらっている。
究極の才能かもしれない。しかし、放浪の民のように
ひとところに留まらず思い出したように家をなくす。

泰子は音信不通となってしまった自分の母の消息を
捜してほしいと智に依頼した。智はテレビの
失踪人捜索番組の手を借りることを思いつく。

ある種の腐れ縁が、そして偶然の選択が関わる人の
人生を大きく変えてしまう。しかし不思議と人と
いうものは納まる所に落ち着くものなのかもしれない。
中公文庫
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2017年06月03日

小説『漁港の肉子ちゃん』西加奈子

悪い男にだまされ続ける肉子ちゃんと
漁港の街に流れ着いた私。無邪気で憎めない
太っちょ肉子ちゃんは他人に警戒心を与えない。
全然似ていない母娘と言われる肉子ちゃんとスリムな私。
この漁港の街で温かい人たちに支えられ生きている。

私ことキクりんは小学生の女の子。
子供っぽい肉子ちゃんのせいなのか大人びた少女で
本を読むのとバスケが好き。
才色兼備で周囲の評価も上々。
動物がしゃべっているのがわかったり、
三つ子のおじいさんの幽霊が見られる。
一方、肉子ちゃんは言うと…。娘からも心配される
脳天気で明るくだらしない性格で体型もだらしない。
この地域の有名人でゆるキャラ的人気がある。
キクりんは気恥ずかしいと感じてしまうこともある。

漁港の街で成長を遂げるキクりんは肉子ちゃんから
強い愛情を感じながら、日々を送っている。
女子同士の内紛、対立に巻き込まれうんざりし、
同級生二宮の奇態を目撃し、
水族館内を我が物顔で歩くペンギンカンコに注目。
淡い初恋を経験し、友情を取り戻す。
やさしさに包まれた瞬間に触れた時思わずこぼれる涙。
こういう作品に出会えた時は素直に快哉を叫びたい。
幻冬舎文庫
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2017年05月13日

小説『円卓』西加奈子

三つ子の姉を含む8人家族と暮らすこっこ。
孤独にあこがれ、フツーとは違う自分を気取り
こじらせてしまっている変わり者の小学三年生。
家族すらもバカにしながら、やはり変わり者である
祖父石太とだけは認め合う存在だ。
家族から深い愛情を受けながら…、困ったものだ。
家族は中華料理屋にある自動式円卓で食事をしながら
楽しい時間をすごしていたが、自分の世界に入り込む
こっこはうわの空で別のことを考えていた。
ああ、みんなの注目を集めたいものだ。

賢い同級生ぽっさん、朴、おませなセルゲイ、
大人びた香田めぐみさんらと共にすごすこっこ。
日々新鮮な驚きを感じ、自分が認める一部の者以外の
平凡ぶりに不満を覚え、心の中で、口に出して罵倒する。
しかし自分が考えているほど賢くないので
ぼっさんからの忠告を忘れ、暴走し失敗してしまう。
子供なりの万能感、全能感で好き勝手に振る舞える
ある種の黄金時代だった。

だが、ねずみ男との出会い、
新しい家族(命)の誕生、
同級生の奇矯な振る舞いを目撃し、悩むことに。
自分の価値観と他人や世間の価値観の違いに
とまどうこっこ。親友ぽっさん、祖父石太と共に
自らの言葉にできない想いをひも解いていく。
キャラクターたちに覚えるいとしさ。
あふれ出す文才とユーモア。文春文庫。
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2017年05月10日

小説『見えない復讐』石持浅海

田島、坂元、中西の学生三人はある目的から
ベンチャー企業を立ち上げた。東京産業大学院生
(口の悪い者は倒産大と呼ぶ、さいたま市にある)
の彼らは卒業生でありエンジェル投資家小池を頼る。
強い熱意と情熱を見せる田島であったが、
小池は彼のゲーム企画を断ることにした。
母校を訪れた小池は田島たちの不思議な行動を目撃。
「謎の行動」という疑問から「答え」を導き出した
小池はスポンサーを表明。小池の裏の目的とは?

某大学ではかねてから自殺者が後を絶たない。
しかし大学当局は具体的な措置、
対策を講じないまま、いたずらに時が流れていた。
大切な人物を自殺という形で失った主要人物の4人。
その胸に去来する想いはタイトルが示す通り
見えない復讐である。

法人である大学をなくすことが最終目標。
実行するには莫大な資金が必要と結論付けた学生たち。
そのための起業。資金集めである。資金を持たない
彼らにできる大学当局へのテロとは嫌がらせレベル。
しかし秘められた悪意は確実に大学にダメージを与える。
田島、小池は本心を隠した二人の天才は
頭脳を駆使し、提示された謎の真相、核心に迫っていく。
暗喩、明示される事象を読み解く楽しさに
興奮が止まらない極上ミステリー。角川文庫
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2017年05月01日

小説『ダークゾーン』貴志祐介

プロ棋士をめざす3段塚田20歳。異世界の中で
キングとなった彼は将棋とチェス、カードゲームを
混ぜたようなゲームを興じることになった。
仮想現実の世界は空腹や生理的欲求を覚えないが、
肉体的・精神的苦痛はプレイヤーに連動する。
あいまいな記憶の中でプレイヤーたちは塚田の記憶の
中で存在する者たち。自分の教授であったり、
大学の友であったり、恋人である理沙もいる。
理沙たちはゲーム特有の変化(化け物化)しており
それぞれのキャラクターに応じた強大な能力を有する。
キングとなった塚田は、現実の世界で将棋のライバルの
立場にある奥本(キング)と七番勝負をすることに。
状況を把握していない塚田に対し、奥本は先制攻撃を
繰り出し、生死を懸けた頭脳戦が繰り広げられる。

キングをとるまで続くこのゲームは凄惨を極める
非常な殺し合い。まるで地獄のような…。
相手の駒を倒すと、復活し今度は自分の駒となり
味方になるが、それは相手も同じ。将棋同様に
持ち駒は有効であり強力。しかも相手の駒になると
情報をもたらしてしまう危険因子となってしまう。
壮大な戦いを終えるたびに、「現実世界」での出来事が
語られていき、なぜこのような悪夢が引き起こされたかが
明らかになっていく。一読した感想としては
地獄かと思われた世界に一縷の望みがあるようなラスト。
また貴志先生が新たなホラー小説の分野を開拓した。
祥伝社文庫 上・下巻
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2017年04月22日

小説『死亡フラグが立ちました!』七尾与史

都市伝説「死神」(殺し屋)を追う下っ端ライター陣内。
死神を記事にしないと干上がるので必死で捜索。
どうやら死神は実在するようで…。
知り合いのヤクザ松重と超人本宮の助力を乞うことにした
陣内は、松重の親分が死神に殺されたという情報を得る。
但し、事件性はない偶然が重なった事故死としか思えない状況。
入手した映像を必死で調べた結果思わぬ意図に気付き…。

一方、同じように事故として処理された事件があった。
疑惑の渦中にあった某政治家の秘書が交通事故により死亡。
目撃者の証言などから事件性はないと判断された。
しかし妄想刑事とあだ名される板橋、相棒の御室は
事件に疑問を持ち同僚に笑われながら独自に捜査を進める。
17年前に発生した一家が皆殺しにされた田中事件。
捜査官の一人として事件に関わり突飛な推理を披露し、
失笑を買った板橋。事件の被害者少年と同級生の御室は
過去の記憶から、大胆な容疑者を連想し推理を展開。

死神に魅入られた者、そして死神を追う者には、
死神のワナが張り巡らされ、死がつきまとう。
荒唐無稽かと思われる都市伝説ではじまった物語は
思わぬ展開と広がりを見せる。登場人物たちの発言、
死神の手によって立ちまくる死亡フラグ。
死に抗う者たちの戦いを描いたエンターテインメント小説。
本来恐怖を感じるはずの予告殺人を笑いの要素である
緊張と緩和を用いバカバカしさを演出しまとめている。
宝島社文庫このミス大賞シリーズ。
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2017年04月08日

小説『この国。』石持浅海

一党独裁の管理国家を誇るこの国は繁栄をたどり
管理体制側は最高の国を自負する。しかし、
反政府を掲げる反対勢力による妨害を受け…。

200年にわたる鎖国を解禁し、欧米列強の魔の手から
なんとか植民地化を避けてきたこの国。
第一次戦争、第二次戦争に介入せず、それ以降も
平和主義を貫き現在に至っている。

主な特徴としては、公開処刑(死刑執行)が娯楽化し、
小学校卒業までの結果で職業などの将来が決定される。
士官学校は形骸化し、実質的に公務員を作り出す組織。
エイズの蔓延を防ぐ目的で環境が整えられた売春宿は
政府が管理する。(表向きは売春を認めていない)
世界に類を見ないほど街はキレイで治安はよく、
失業率は1%以下、世界からの評価も高く老後を
この国ですごす海外からの永住者も多い。
しかし不満は募るもの。
そして同時にどんな集合体においても水面下、意識下では
歪でエゴが蔓延する危険を多分にはらんでいる。
国家転覆、政権打倒を掲げる反政府組織松浦らは
治安警察官番匠に戦いを挑み続ける。

この国のため、この国のあり方をめぐり
頭脳戦を繰り広げる二人は、好敵手にして
不倶戴天の敵であるお互いに殺意をぶつけ合う。
国レベルのマクロな問題でありながら、
個人レベルのミクロな私情をはさんだ頭脳ゲームを
制するのは果たして?光文社文庫
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2017年04月05日

小説『きりこについて』西加奈子

きりこと賢い猫ラムセス2世による強い絆と
再生の物語を描いた心温まる物語。
この一冊で多くの人が救われますように。

美男美女の両親であるパァパとマァマ、祖父や祖母の
悪い所ばかりが遺伝してしまったぶすのきりこ。
親から世界で一番かわいい子として育てられ、
うちって世界一かわいいこやねん!と自信満々。
周囲の大人も同情心と優しさからきりこを取り立てる
発言を繰り返したためこどもたちから尊敬を集める。
遊びにおいても「きりこルール」(彼女による鬼指名)や
きりこに都合のよいルールがまかり通っていた。
賢く超然とした存在として、こどもたちをうっとりと
陶酔させるきりこの快進撃は小学校でも通用。
そんなある日きりこは体育館裏で黒猫と出会う。
かわいいと言われることを嫌い、賢いと言われることを
望む黒猫はラムセス2世という立派な名前を頂戴した。
驚異的な知能を誇るラムセス2世は人語を解し、
きりこは猫に耳を傾ける度量の持ち主だった。
2人はお互いを尊重し、毎日を過ごすうちに会話できる
ようになっていった。

初恋の相手だったこうた君にラブレターを渡した結果
「ぶす」という言葉を投げつけられた。
強いショックを受けたきりこであったが、
なぜという疑問がぬぐえない。両親や猫たちから
容姿を褒められる自分がなぜぶすなのだろう?
魔法がとけたかのように周囲のきりこへの扱いは
変わっていった。11歳になった小学生たちは
かわいいという容姿に対して敏感となり、
おばさん化していた同級生だけがきりこの友達に。
でもきりこは自分がぶすだと思っていなかった。

中学生になり、ますますかわいい女子がモテる。
ある日、友達の書いていた少女漫画のヒロインから
きりこは自分の顔が彼女の顔と対極にあると気付く。
学年の美少女ともてはやされる子たちは、なるほど
漫画の美少女と呼ばれる容姿をしていた。
自分はぶすであり、心ない同級生からぶすと
呼ばれても仕方のない存在と打ちのめされたきりこ。
ひきこもって、彼女のことを強く尊重してくれる
猫にあこがれるようになり夜型の生活をするように。
きりこがひきこもっても、ただそこにいるだけでよいと
両親の愛情は揺るがなかった。

猫が至上の喜びと考える睡眠に没頭していたきりこ。
ある日夢の中で泣いている女の子と出会う。
きりこは自分にSOSを出している存在に気付き、
外の世界に歩み出す。ひとりの人間、一匹の猫の
運命的な出会いによって、助けられる者たち。
やさしさを忘れそうになったとき読んでほしい
極上の一冊。価値観は人の数だけあって
自分にとって大切なことは他人が決めることではない。
角川文庫
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2017年03月27日

小説『黒い福音』松本清張

戦後の日本で暗躍したキリスト教団体の腐敗、隠蔽体質。
そして及び腰になってしまった捜査関係者の哀愁を
見事に描いたミステリー。実際の事件ベルギー人神父を
容疑者とする日本人スチュワーデス殺人事件を題材に、
迷宮入りした未解決事件のアンサーを投げかける。

戦前から日本に布教目的で存在したバジリオ会は
表向きは敬虔で戒律を重んじる清貧な宗教団体。
だがその裏では海外からの救援物資である砂糖などを
横流ししたり、麻薬の密輸に手を染める邪心団体である。
穏やかで明るい笑顔に隠された神父たちは裏では
日本人を侮り、汚い言葉を吐く悪魔たちである。
悪魔たちは勢力拡大のために悪事の限りを尽くし、
豊富な資金を作り、破戒僧となり愛人を囲う。

物語は、某宗教の信者でありかつての英雄的行為から
物資の貧しい時代でありながら贅沢な暮らしをしている
ヤス子という女性。そこに足しげく通うビリエ神父の
秘密の暮らしを描くところからはじまる。その家には
人目を忍ぶかのように自動車が次々と止まるのである。
穏やかで尊敬を集める神父の裏の顔は悪徳商人。
彼は信者であり優秀で素直な少年トルベックに目をかける。
期待通り好青年に成長したトルベックは女性信者たちの
中でアイドル的存在になる。そうすると自然の摂理で
トルベックは女性と親しくなり、戒律を破るようになる。
それこそ神に祈ることを忘れ、女性に溺れる。
しかしそのしあわせは長くは続かなかったのです。
そう教会は裏の顔を持っていて、トルベック神父に
会計係という教会の暗部とも言える悪の片棒を担がせる。
トルベックは自分の恋人を麻薬の運び屋にするように
圧力をかけられる。
閉鎖的な組織の中で絶対的な権威主義がまかり通る世界。
その中で悪魔のささやきにより犯罪に手を染めてしまう。

事件を追う警察関係者、事件記者たちは宗教団体が
事件の鍵を握ることに行き着く。
容疑者が宗教団体の神父だったことから捜査は難航。
犯罪集団は宗教的立場や、日本での強い立場を悪用。
また政治的駆け引きから彼らを追う警察に上(外部)
から強い圧力がかかる。必死の捜査は実を結ぶのか?
新潮文庫 
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2017年03月24日

小説『ふる』西加奈子

他人からやさしいと評される池井戸花しすは、
AVのモザイクがけの仕事をしながら、
いろんな場面で音声の隠し録りをすることである。
花しすは人に見えない不思議な白いわたのような
ものが見えるのである。(まっくろくろすけの
白バージョンのようなもの)。ふわっと現れる。
人を傷つけず、周囲の空気が悪くなることを
極端に怖がる花しすは気遣いの日々を送る。
そしてこっそり隠し録りした人々の会話を聞き
安心したいのである。自分がいじられキャラであり
常にオチのような存在でありたいと願う花しす。
そんな彼女にも転機が訪れ…。

彼女の過去と現在が語られる過程で、謎の人物
新田人生が現れる。姿形を変えて次々と…。
でも主人公である私は全く気がついていないのだ。
他者に対するやさしさは同時に他者に対する無関心。
傷つけないようにする他者への過剰な気遣いは
本当は自己防衛だった。クライマックスで彼女に
「ふる」ものとは?まさに読ませる、ひきこませる。
言葉と表現の魔術師による傑作。河出文庫
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2017年03月20日

小説『そして誰もいなくなった』アガサクリスティー

インディアン島に集まった10人は童謡見立て殺人の
犠牲となり次々と命を落としていく。

集まった10人の人の生死に関わる過去の犯罪が暴かれ、
彼らの中に強い動揺が走る。
招待者U・N・オーエン(unknown)を名乗る
謎の人物の仕業なのか?悪趣味な演出に憤る彼女たち。
招待者の一人が毒殺されてしまう…。マザーグースの
「10人のインディアン人形」になぞらえた殺人だった。
犠牲者が続いたことから、第三者の存在を疑った彼らは
捜索に繰り出すのだが…。

明確な意思に基づいて殺人を続けていく犯人。
その中で疑心暗鬼に陥っていく招待者たち。
童謡のように誰もいなくなってしまうのか?
1億冊発行された世界的大ベストセラーであり
ミステリの女王、推理小説の最高傑作と言っても
過言ではない。15年ぶりに読んでもやはり名作。
感動は色あせない。早川書房
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2017年03月15日

小説『私のなかの彼女』角田光代

祖母の書いたと思しき小説の発見。
書きたいという気持ちが生まれたことで
変わっていく自分の気持ちと人生。
離れていく恋人仙太郎との距離。
そして自分を縛り付ける母、仙太郎の言葉。
それでも私は書く…。

バブル期に大学卒業を迎えることになった和歌は
同棲相手仙太郎との結婚を望んでいた。
宇都宮からやってきた特別自信もない自分は
出版の世界でちょっと名の知れた存在である仙太郎に
強い影響を受けながらなんとなく生きていた。
保守的な母は和歌の社会進出や進学にいい顔をせず、
常にプレッシャーをかけてくる。
特に母の母である祖母の存在が大きい。
「男と張り合おうとするな」という言葉を残した
祖母は物書きを志し、家出した過去がある。
祖母の行為を恥と捉えていた母は、
祖母を醜女(しこめ)と呼び、忌み嫌っていた。

しかし、何の因果か和歌は祖母の過去を想像し
小説で賞をとってしまう。妄想と現実の中で生きる
和歌はときに心を乱し、ときに寝食を忘れ仕事に没頭。
かつて望んでいたはずの仙太郎との暮らしであったが、
徐々にほころびが見え始め…。

変わっていく自分と環境の中でもがきながら
舟をこぐ和歌。漕ぎ手は誰でもない自分。
失ったものもあるが手にしたものも必ずある。新潮文庫
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2017年03月10日

小説『太陽の坐る場所』辻村深月

高校卒業から10年。毎年開かれるクラス会に
女優キョウコの姿はなかった。
神話を題材とした映画の活躍により、
東京の看板にその姿を見せるほどの芸能人になった彼女。
同級生たちにとって話題に上らないことはない。
なぜ彼女が姿を見せないのかを考える同級生たちは
やはりあの恋愛がからんだ「革命事件」が関係している
と考えていた。かつて近い所にいながら、
現在は遥か高みに行ってしまった同級生の姿は
太陽のようにまぶしすぎて実体をつかめない。
登場人物たちは本音を隠しながら、彼女に呼びかける。
キョウコに出てきてほしい、と。
徐々に明かされていくキョウコの高校時代の姿。
そこで描かれるのは女王が君臨する学園ヒエラルキー。
恋愛のためにこの高校を選び、自分を輝かせるために
選ばれた臣下としての女友達。女王の顔色を窺い、
苦汁をなめさせられていた者たちにより信頼を失った
女王は、ある事件をきっかけに…。

この物語は読んでいると違和感を覚える。
それは徐々に明かされていくのだが、伏線の張り方、
凝り方は小説じゃないとできない手法である。
登場人物たちの中には歪んだ性格の者も多く、
勘違いが引き起こす長年の葛藤も描かれている。
登場人物の心情の変化、選んだ行為、
高校における立ち位置と現在の立ち位置の変化を
描いたのは流石のひとこと。イヤミスと思わせて
うまく消化させてくれるうまさがある。文春文庫
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2017年02月18日

小説『解』堂場瞬一

1989年。
政治家、小説家になるという夢を掲げる
大江波流、鷹西仁はそれぞれ
大蔵省、新聞記者の道を歩き出した。
時は流れて2011年。彼らは夢を叶えていた。
お互いの活躍をメディアを通じ、会話し称え合う二人。
しかし、大江には親友鷹西にも妻にも言えない秘密が…。

代議士の息子である大江は総理大臣になるのが夢。
鷹西は小説家になろうと賞に応募し最終選考に残るレベル。
夢を叶える下地としてそれぞれ卒業後の進路を決めた二人は
それぞれの道を歩き始めた。
鷹西は静岡県に赴任したが大きな事件も起こらない土地柄と
いうこともあり、物足りない日々を送っていた。
一方、忙しい日々を送っていた大江だったが、父が急逝。
困惑する大江に「弔い合戦」ならぬ選挙への打診をされる。
政治家としては貴重な清貧であった父は財を残すどころか
多くの借金を抱えていた。金がらみのしがらみに捕らわれたくない
大江はこれを断った。政治家になったあとも金が理由で
首に鈴をつけられるようなことを嫌った大江は
潤沢な資金を得るために起業することにした。
アメリカへの留学経験からITが日本を席巻することを予想した
大江にはまとまった金が必要であった。かくして事件が起こった。
新聞記者鷹西にとってはじめての大きな事件であった。
しかしそんな鷹西をあざ笑うかのように異動が決まる。

大震災、悲惨な事件などと共に年を重ね、着実に階段を歩む
二人であったが…。タイトルが示す「解」とは?集英社文庫
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2017年02月12日

小説『羆嵐 くまあらし』吉村昭

大正4年北海道。巨大なヒグマにより壊滅的な被害を
受けた集落に、百人規模の警察隊が投入された。
しかしそれをあざ笑うように、ヒグマは人を喰い漁り、
恐怖は人々に伝播し、悪夢のような日々が続く。
冬眠するための穴を見つけられなかったヒグマは
特に狂暴になり、人を襲うという。
100貫(370キロ)クラスの巨体を持った
肉食獣の猛威は止まらない。
悲しみに暮れる被害者家族、そして自分たちがエサになる恐怖に
怯える人々。その恐ろしさは警察官たちとて例外ではない。
死神は今すぐそこに忍び寄っているかもしれない。
この地獄のような状況の中、
100頭以上のヒグマ(羆)をしとめた伝説のマタギ銀四郎に
白羽の矢が立つ。妻に逃げられ、子を失ったこの男は
手に負えない酒乱であり留置場に3度も捕まった問題人物。
できたら関わりたくないと敬遠され、疎まれた存在。
高額報酬こそ約束したものの、来てくれるかどうかわからないが…。
美しい自然の描写、その土地に生き根を下ろすことの意味。
過酷すぎる自然環境と圧倒的存在感を放つ大型肉食獣に
翻弄される人々の悲嘆、スリリングな展開は
実際におこった事件をもとにしたドキュメンタリー。
新潮文庫
ラベル:小説 おすすめ
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2017年02月09日

小説『神様からひと言』荻原浩

「珠川食品」に再就職した佐倉凉平はキレやすい性格が災いし
早速トラブルを起こしてしまう。リストラ要因収容所と
社員たちから呼ばれているお客様相談室にやってきた。
まともな社員なんているわけない。イヤミなキザ上司に
競艇狂い、アニメオタクに心を病んでいる剣道の達人。
KY(会社辞めたい)。だが家賃を払うために
2か月だけは我慢してから辞表叩きつけてやる!と
前向きに考える佐倉だったが…。

たまちゃんラーメンや漬物などを製造している珠川食品は
旧態依然の社風、会社のトップはとっちゃんぼうやの副社長。
上司へのお追従で成り立っているクソ会社で腐敗体質。
まともだった会長は失踪しており、会社は右肩下がりのジリ貧。
社運をかけたカップラーメンはまずいとクレームの嵐。
販売されている製品には苦情も多い。この会社、大丈夫?

お客様は神様。なのでお客様からのクレームを大切に!
という創始者の社訓がかかっているものも、嫌な仕事は
島流し的ポジションのお客様相談室に集中する。
わざわざ商品ごとにお客様の声を聞かせて下さい。
とここの電話番号があるからだ。
佐倉はクレームの洗礼を受け、うんざりする毎日。
でもこの職場をやめるわけにはいかない。
半年前に出ていったリンコが帰ってくるかもしれないし
嫌なことから尻尾をふって逃げるのはかっこ悪い。
これはもはや意地かもしれない。
そんな佐倉に一見ダメ社員だが、クレーム処理の達人篠崎が
謝罪の極意を伝授。篠崎も帰らぬ家族を待っていた。
少年漫画的主人公佐倉のがんばりは神様に、
人々の心に届くのか? 光文社文庫
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2017年01月27日

小説『砂の王国』荻原浩

どん底を味わった山崎は起死回生をかけ
2人の天才と共に新興宗教を立ち上げた。
自分を見捨てた世間を見返すために、かつて
自らが積み上げた砂の城をあえて壊すために。
そう、これは復讐の物語だ。

一流証券会社で数億円の金を動かし、高額報酬を受け
裕福な暮らしをしていた山崎遼一。
酒により病気となり職を失い、妻に離婚を切り出され、
住居費が払えなくなり、住み家も失った。
なけなしの金は心許した人間に持ち逃げされた。
40歳過ぎの山崎は持ち金3円というどん底の状態で
ホームレスとなった。そんな彼に対し世間は冷たかった。
まともな食べ物も得られず、お役所の対応はずさんで冷酷。
住所のない山崎はまともな職につくこともままならない。
絶望感にさいなまれる彼に救いの手を差し伸べてくれたのは
神に愛された容姿と美声を持つホームレス仲村。
仲村は優れた容姿によりファンから手厚い施しを受けていた。
惜しげもなく食料をわけてくれた仲村により山崎は救われ
なんとか命を長らえた。

生まれて初めて本当の感謝の念を持った山崎は
うさん臭い辻占い師龍斎の下でサクラをし、少額の報酬を得る。
コールドリーティングとはったりを駆使する60過ぎの
この男は酒とバクチに目のないどうしようもない男。
しかし門前の小僧習わぬ経を読む。40の手習いで山崎は
龍斎のやり方をヒントに詐欺的手法でお金を得る。
競馬狂いの龍斎と共に競馬場にやってきた山崎は
自分の命運を馬に託し、一発逆転を図る。

もう人に使われるのではなく、自分は使う側に回りたい。
山崎は仲村、龍斎と共に新興宗教団体「大地の会」を立ち上げた。
超然としたカリスマ性と美声を持つ仲村は教祖様大城に
祭り上げた。山崎はナンバー2の事務局長木島と名乗ることに。
表向きは大城を立てるが計画や実権を握るプロデューサー。
龍斎は小山内師範代と名乗らせ、教義の文書を書かせ
信者の相談に乗るセラピスト的役割を担わせる。
手探りで始めた大地の会であったが、仲村の持つ
圧倒的存在感や山崎、龍斎の手腕により信者を獲得。
救いの手を求める者たちは次々と現れた。
三人はそれぞれの持つ人間力により信者たちの心を掴み
熱狂の渦に落とし、勢力を拡大していく。

絵空事かと思われた山崎の青写真であったが、
幸運も舞い込み、大地の会の信者は飛躍的に増えていく。
桁違いのお金を信者たちの「寄進」により得るようになる。
人々はこの「祭り」に酔い、宴はつらい現実を忘れさせる。
しかし、山崎につきまとうのは過去から続く悪夢。
父の浮気性と言葉の暴力により、母は宗教に走った。
まともな家庭で育てず、狂信的な振る舞いの母のせいで
友達もつくれず孤独で不遇なこども時代を過ごした

山崎はこどもを不幸にするからと家庭でもこどもを作らず、
そして未だに偏頭痛と悪夢に苛まれていた。
おまけに宗教団体というややこしい商売をはじめたことで
内部対立、外圧はひっきりなしに起こり悩みは尽きない。
面倒なことは自分がやらなければ気が済まない性格の上、
どこかで悪に徹しきれない所がある。
そもそも悪の片棒を担がせるのに選んだ相手も危うい。
龍斎は父の失踪によりまともに就学できず退廃的な生き方を
選ぶしかなかったアウトロー。仲村は難病が原因で、
自己を確立できずドロップアウトしていた。
砂のように危うい関係、そして砂のように危うい組織。
こどものときに、そしておとなになってから
積み上げている砂のお城はもろく、はかないものだった。
しかも最後の拠り所、神様はいないという皮肉。
自分自身を欺いている内は助けなんて得られないという真理。
魂揺さぶられる驚愕の傑作長編。上・下巻。
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2017年01月20日

小説『攪乱者』石持浅海

久米・宮古・輪島はテロリスト実行部隊。
組織の細胞として無血で国や政府に対して
国民が不信感を持つように仕向けたい。
武力行使によるクーデターは国民にも国際社会にも
受け入れられず、適切とは言えない。
自分たちの組織が政権を握ることを夢見る三人。
リーダー入間からの指示により、テロとは無関係そうな
ことを実行していく。スーパーにレモンを置いたり、
公園にアライグマとプラスチックを置いたり、
電車に丸めた新聞を入れた袋を置いてくる。
一体自分たちの行動がどういった効果を生むのか?
疑問を持つようになった彼らの前に現れるのは串本。
無意味と思われた行動を聞いた串本は
隠された意図の答えを導き出していく。
ISにはない血の通った彼らのテロと衝撃の結末。
日常に潜む危うさや飛躍的発想、三人の主人公をあえて
善として描く手法。唸らせられる傑作ミステリー。
実業之日本社文庫 
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2016年10月29日

小説『紙の月』角田光代

評判の良い銀行員梅澤梨花が1億の横領によって得たものとは?

バンコクに逃げた梅澤梨花は現実感のない逃亡の日々を送っていた。
回想するのは自らの激動の日々。いつから壊れていったのか?
理想を追求するうちに彼女の根幹にあったはずの「正義感」は抜け
かりそめの華やかな「現実」を当たり前のこととして享受する。
育ちもよく、多くを望まなかったはずの梨花であったが、
新しい恋のはじまりと結婚生活の潤いのなさが彼女を犯行に
走らせたのか。彼女と関わりのある人間による回想とヒロイン
梨花の回想によって明らかにされていくひとつの真実。

何気ない日常の言葉によって摩耗していくヒロインたち。
てのひらからすべり落ちていくしあわせは砂のよう。
多くの喜びを与えてくれる「お金」はときに正常な判断を狂わせる。
お金を得やすい立場にいた梨花は不当なやり方で次々とお金を得る。
登場人物たちの正当化、合理化による言動や心理描写を鑑みるとき、
あまりにも脆弱で頼りない人間関係だったことに気付かされる。
同時に、犯罪者という「向こう側」に飛び越えてしまう危険性は
日常に潜んでいるのだと痛感させられた。また、意図的にしろ
無自覚にしろ、金を集る(たかる)人間の感覚が麻痺していく過程、
当然のこととして受け入れてしまう不気味さも見事に描いている。
ハルキ文庫
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2016年10月24日

小説『さよなら妖精』米澤穂信

1991年4月。人口10万人ほどの街に異国の地から
同年代の少女がやってきた。マーヤとなのる少女は
頼りにしていた人物が亡くなっていたことから、
居住地を探していた。行きがかり上、マーヤが住める場所を
提供したおれこと守屋は同級生たちと共に彼女に
日本のことを教えていく。
彼女の住むユーゴスラヴィアは6つの国による共和国。
不安な政情を抱えており、マーヤは政治家となることを
目標にしていた。楽しかった日々はあっという間に過ぎ
いよいよマーヤが帰国するとき、おれは動いた。
妖精が去った街で、悲しみに暮れるおれたちの下に
開戦のニュースが舞い込んだ。
マーヤとの再会とその無事を祈るおれたちは、
そもそも彼女がどこに住んでいるのか?という謎を解く
ために記憶を探っていく。正統派青春群像小説。
創元推理文庫
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2016年10月08日

小説『犬はどこだ』米澤穂信



皮膚アトピーにより休職を余儀なくされた私はリハビリを兼ね
探偵事務所をはじめた。犬探し専門にする予定だったのに
友人の紹介でやってきた依頼は人探しだった。
これは荷が重いのではないかと心配する私だったが
結局引き受けることになった。
都会から謎の失踪を遂げた女性を追う私の下に、弱小剣道部の後輩
はんぺーが現れ、助手にしてほしいと頼まれた。
フリーターをしているのだが、私立探偵というものに
強いあこがれを抱いていた。さりとて自分で起業するほどの
器量はない子分体質だからぜひ雇ってほしい。困った。
ためしに舞い込んだ古文書の由来調べをするか尋ねたら
やると言うのでやらせてみることにした。

依頼主により失踪した女性の痕跡を追う私は
彼女の残した足跡を見つける。徐々に事の真相に迫る私。
一方、古文書を調べていたはんぺーも、名著を残していた
歴史研究家の本の中身を知る算段を得る。
着実に成果をあげるはんぺーに脅しをかける謎の男。
狂犬に襲われる私。失踪した女性を追う私は、失踪の原因と
なったトラブルを知り、関係者に迫る死の危険を感じる。
タイトルが暗喩していた内容や古代の人々の戦いを知る時
物語により強い厚みが加わり、結末も納得の傑作。創元推理文庫
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2016年09月17日

小説『複合捜査』堂場瞬一

さいたま市を舞台に警察官と、警察を逆恨みしテロリストになった
元警察官による戦いを描いた警察小説。『検証捜査』シリーズ第二弾。

若林警部は、夜間緊急警備班の班長となり、さいたま(大宮、浦和など)の
夜回り、事件収束に当たっていた。昔ながらの熱血刑事、意識高い系
若林は口が悪い皮肉屋。現場におもむき、若い刑事たちに発破をかけ
彼らを無能扱いするので、部下たちからうざがられている。
若林は優秀な刑事であったが、部下の失態により出世の道から外れて
いたこともあり、捜査一課すらも出し抜き実績をあげようと奮闘。
チームの中では頭一つ優秀で頼りになる桜内と共に、
さいたま市で頻発する事件を追う。
そして一連の犯行が同一人物の仕業だと推理。犯人は内部に詳しい、
もしかしたら警察官による犯行ではないかと疑う彼をあざ笑うように
次々と事件が起こる。
犯人はかつて若林によって、引導を渡された男であった。
元警察官、潤沢な資金を武器に金で仲間を集めた彼は
テロリストに成り下がり「犯行ゲーム」を続けていた。
苦戦を強いられる若林であったが、桜内が関わっていたかつての
「検証捜査」チームによる心強い手助けもあり真相に迫っていく。
足りない何かを埋めるかのようにあがく主人公二人が対峙したとき
そこに見えたのは果たして?集英社文庫。
ラベル:小説 堂場瞬一
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2016年09月03日

小説『サラバ!』西加奈子

個性的な家族に振り回される受動的な主人公歩は
異国の地で親友ヤコブと出会う。たくさんの意味が
こめられた「サラバ!」という言葉、出会い。そして別れ。
日本にやってきた歩は再び心許せる友を得るが…。
しあわせを享受しながら決して満たされない人間の苦悩、
自然災害、そして人との営みの中で発生する悲喜交々の日々。
その名が示す通り歩は、自らの足で前に進みだせるのか。
感情揺さぶられる圷(あくつ)家の物語に笑いと涙が誘われる
傑作の直木賞受賞作。

両親の都合からイラン、日本、エジプト、日本と生活の拠点を
変えられる羽目になった僕。社会適応力と受け身体制、優れた容姿で
どこで暮らしても場に溶け込み、居場所を作り幸せを享受した。
反面、かまってちゃん体質の姉は、狂人的振る舞いを繰り返す。
巻貝とごく一部の理解者の庇護の下、浮き沈みの激しい日々を送る。
そんな僕たちの父は、まさに忍耐の人であり求道者的性格。
母はぜいたくで自由奔放、自分の幸せを追求する人だった。
我が強く、折れない個性的な母と姉は衝突を繰り返し、
嵐が過ぎるの待つように、結局何も言わずやりすごす僕。
そんな日々の中でも、生活を拠点とする異国では素敵な人との
出会いもあった。僕たちは家族として、そこに住む者として
豊かな日々を送っていた。しかし、一枚の手紙により暗雲が立ち込め…。

順風満帆な僕の生活だったが、他者の犠牲の上に成り立つものであった。
三十路を迎えた僕は、今まで人々の善意に甘え、逃げてきた様々な問題、
そしてその清算を求められるときがきた。
人と違うことから受難の日々を送り、そのたび傷ついてきた姉は
自分なりの幸せを見つけ、歩に助言する。
家族や人、過去と向き合うべきだと気付いた歩には会いたい人がいた。
小学館 上・下巻
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2016年08月27日

小説『新世界より』貴志祐介

人類は呪術(超能力)を手に入れ、新世界に突入した。
1600年後の日本を舞台に、こどもたちは大事なことを
隠された世界で大人たちの庇護の下、生きていた。
美しい世界に隠された様々な歪(ひずみ)、秘密と負の歴史。
新人類が支配するバケネズミは高い知能を有し醜く
こどもたちが生きる世界では目に触れないようにされている。

主人公にしてこの物語の語り手である早季は、幼なじみである
瞬、覚、真理亜と共に過ごした日々を回想する。
美しく輝いていて、責任を負うこともなかった青春時代。
呪術を身に付け、切磋琢磨していく学校での思い出。
ルールを破ったことで生じた身の危険と喪失した力。
垣間見えてきた社会の歪みと大人たちが隠している真実。
恋愛感情に似た友情、あどけない愛情。
掴んだ砂のように掌から消え落ちていく記憶たち。

人類はかつて起こった忌まわしい大虐殺事件を引き起こした
悪鬼、業魔の誕生及び暴走を危惧、反省した。
戒めをこめて、自らの超能力を
人間への攻撃ができないようにブレーキをかけた。
そして、戦闘能力に長けた猫などを作り有事に備え、
彼ら自身も超能力の向上に努めていた。

この美しくもグロテスクな世界では危険因子になりそうな
こどもはいつの間にかいなくなってしまう。そして、
彼、彼女を知るこどもたちもその記憶をなくしてしまう。
早季たちはあるとき、この世界に隠された不都合な真実、
かつて人類が行ってきた業の深い歴史を断片的であるが知る。
都合の悪いことは隠され、望まれぬ存在は消される。
人でありながら家畜のようなはかない立場。
必ずしもこの世界は美しく、未来永劫続くような堅牢で
豊かな世界ではないのではないか。
たとえさよならばかりの人生であっても生き続けなくてはいけない。
それが生物という種に課せられた宿命。
業を背負いながら人類はふたたび新世界を生きる。
日本が誇る戦慄のSF傑作。講談社文庫 上・中・下巻
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2016年08月20日

小説『笹の舟で海をわたる』角田光代

戦争中に疎開先で知り合った左織と風美子。
激動の時代を生きた性格の全く異なる二人が
どのように出会い、どのように生き、老後を見据えるのかを
時代背景や当時の流行、事件を織り交ぜながら描く。

戦争が終わり、左織は22歳の時風美子と再会した。
思い出深く懐かしがる彼女に対し、左織には彼女に対する
はっきりとした記憶がない。聞けば疎開先で苦しんでいた
自分に左織がとても優しくしてくれたのだと言うが。
保守的で常識的な左織は、進歩的で派手な風美子と
長い付き合いをすることになる。

大学教授の夫と結婚した左織はこどもを授かり主婦となり、
夫の弟と結婚した風美子は仕事に才覚を発揮し、
新聞やテレビに登場し活躍。場を明るくし、歯に衣着せぬ
発言の彼女は話題の中心になることも多く、人気者。
母親の左織になつかず気難しい娘百々子も彼女には心を開く。
清濁併せ呑む彼女のメンタルの強さ、度胸のよさは、
すべてを失った戦争孤児という不幸の産物だったのだろうか。
そして、一見しあわせな家庭を築き、子宝にも恵まれた左織。
だが家族との関わりの中で、強く満たされぬものを感じる。
風美子の持つ圧倒的なパワー、吸引力はときに左織を脅かし、
新鮮な体験を与えるが、同時に心をざわつかせる。
そんな左織は彼女に出会わなかった自分を想像してしまう。
あのとき出会わなけば…。 毎日新聞社
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2016年08月04日

小説『断絶』堂場瞬一

地方都市夕灘で権力を誇る大物代議士剱持隆太郎は引退後、
後継者として息子一郎を考えてい。
だが権力の椅子に執着する輩たちから横槍が入る。
代々受け継がれてきた剱持家の政治力は、新党勢力の台頭により
衰えとほころびを見せ、隆太郎は強い危機感を覚えていた。
保守政党として長期政権を実現してきた某政党だが、閉塞感漂う
夕灘では、烏合の衆の寄せ集め素人集団がなぜか支持を集める。
(この辺は、くだんの民主党(現民進党)を連想させる)
政治家なのに高潔として知られる隆太郎は強い信念を持ち
未だかつて体験したことがない逆風が吹き、更に厄介事が舞い込んだ…。

心許せる盟友石上は、十年前のワイロ事件の際に
当時の県知事を諭し、潔く隠居の道を選んでいた。
その息子石上謙は刑事となり、職務を全うしていた。
ある日、女性の死体が見つかり自殺として処理されそうだった。
石上、坂東は殺人事件の可能性を捨てきれず捜査を開始したが
上司から「自殺」として事件の終了を告げられた。
明らかに何らかの力(政治的圧力)が加わったと感じた二人は、
独自に捜査を開始。石上は政治が大嫌いなのである。
女性の身元を調べる二人は、被害者を特定し事件の真相に迫る。

政治の腐敗、不可思議な政治論理、価値観や人間関係。
それに立ち向かう警察官石上と剱持隆太郎には大きな溝、断絶がある。
「正義」を信じ、邁進したはずの「彼」の転機はどこだったのか。
中央文庫 
ラベル:堂場瞬一 小説
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2016年07月11日

小説『オーダーメイド殺人クラブ』辻村深月

中2のリア充小林アンは昆虫系とさげすむ徳川の
奇行を目撃し、彼に自分を殺してほしいと依頼した。
どうせなら今まで誰もしたことがないような事件となり
長く語り継がれ、その後の少年A少女Aにとって
バイブルのような存在になりたい。
繊細だが面倒、自覚なく他人を傷つけ、見下す。
自分の痛みには敏感でも他者の痛みには鈍感。
中二病のアンは死や猟奇的なものにあこがれを持つ。
そういったニュースや本を探す日々を送るがそれを隠し
「普通」のリア充として振る舞い生きていた。
クラスでも上位グループに位置し、恋人もいたことがある。
そんな彼女にとって、下位に位置付けている徳川は
ただ席が隣なだけの存在だったのだが。

アンは河川敷で徳川を目撃する。
ビニール袋に入れられた何かをけり続ける姿には
猟奇的で危険なものを感じた。

徳川は勉強ができるわけではないが、絵がめちゃくちゃうまい。
彼の描く絵は暗くて、アンのお気に入りである。
多くの者が敬遠しそうな題材、内容ではあったが。

副担任に端を発した面倒ごとを徳川によって助けられた
形になったアンはなめてかかっていた徳川に注目。
猟奇的なこと、そういった類のエピソードや写真集などにも
非常に詳しい徳川に時期がきたら自分を殺してほしいと依頼。
「事件」を自演しようと目論む二人は、こっそり会い
着々と準備を進めるのだが。

ちょっとしたことがきっかけで変わってしまう
学園ヒエラルキーの勢力図。友達との関係。
逃れられない親との関係。崩れそうで頼りない未来を
必死に走り抜け、彼らは「事件」を成就できるのか。
集英社文庫
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2016年07月06日

小説『アナザー Another』綾辻行人

3年3組には死がつきまとう。
まことしやかにささやかれる「呪い」に関する
噂とルールによって、秘密は守られるのか。
謎という名のミステリー、そして背筋を凍らせるホラー。
死を招くもうひとりは、ほらあなたのすぐ隣にいる。

転校生として5月にやってきた主人公。
彼は人形のような美少女を見かけるが
クラスメイトたちはそんな彼女が見えていないようで。
彼女は実体のない幽霊なのか。
惹かれるように彼女を追う主人公であったが
「気をつけて。もう、始まってるかもしれない」
と彼女はささやくのだった

このクラスには何かがある。
新しい生活にとまどう主人公は、この学校の三年三組が
抱える「呪い」について少しずつ近づいていく。

かつて人気者だったクラスメイトが亡くなった際、
クラスメイトたちは彼女が生きている者として扱い
生活をしていた。善意ではじまったその行いは
卒業写真にいるはずのない彼女が映るという結果を生む。
それ以降、三年三組のメンバー及び2親等内に奇怪な死が相次ぐ。
発生しない年もあるが、一度始まってしまうと
尋常ではない数の者が亡くなる。
誰にも知られず増えていて、亡くなっても誰も覚えていない
死を招く死神のような存在。誰が死を連れてくるのか?

長年の蓄積と経験則からある一定のルールが敷かれ、
彼らはその決まりごとを守ることにした。戦慄の旋律。絶賛。
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2016年07月02日

小説『検証捜査』堂場瞬一

ミスにより離島に飛ばされていた神谷警部補だったが
神奈川県警への出頭を命じられた。警視庁に所属する彼は
頭をひねりながら、捜査本部にやってきたらそこには
本庁、埼玉、大阪、福岡、北海道らで編成された刑事が集結。
婦女暴行殺人事件の犯人が不当な取り調べにより自白を強要され
誤認逮捕された事実が判明。神奈川県警の大失態を捜査するため
この特別チーム「特命班」が編成されたようだ。
なぜ失態を演じ、離島に飛ばされていた自分に
お鉢が回ってきたのかと首をかしげる神谷は
自分に対してやたらとげとげしい態度をとる保井凛、
キャリアの永井らと共に検証捜査をはじめた。
明るみに出るずさんな取り調べ。
意図的に塗り替えられた証言。
捜査を妨害するかのような某神奈川県警の圧迫を受けながら
真相に迫っていくスリリングな描写は巧みで惹きこまれる。
真相に迫る神谷が知る驚きの結末。直球の警察小説。
ラベル:堂場瞬一 小説
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2016年05月29日

小説『獄門島』横溝正史

獄門島。海賊と流刑者たちを子孫に持つこの島では
不気味な因習とあやしげな雰囲気が漂い、島民以外の
人々を拒絶する空気が蔓延していた。
世間からは忌み嫌われていた縁起でもない島。
しかし、島の名士であり主産業である漁業を営む網本
本鬼頭とそれに対抗する分鬼頭の台頭により
島は一定の秩序を保たれ、豊かになった。
だが、本鬼頭の死により人心惑わされた者が鬼と化す。

名探偵金田一耕助は友から遺言を託された。
自分が死ぬと三人の妹たちが殺される。
どうか助けてやってくれ。
あまりにも不吉な言葉を胸に、友の死を告げるため
瀬戸内海に浮かぶ獄門島にやってきた耕助。
妖艶な三姉妹。島で絶大な力と信頼を勝ち得る和尚。
幽閉された男に、清水警部。美しいが儚げな男。
それを利用する妖怪のような女。
ひとくせもふたくせもある人々が彼を待ち受けていた。

名探偵という立場を隠していたこともあだとなり
次々と殺人事件が起こる。角川文庫
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2016年04月29日

小説『嫌な女』桂望実

石田徹子は母と姉の熱心な働きかけにより勉強に明け暮れ
弁護士に。しかし、常に心は満たされぬ想いを抱えていた。
そんな彼女の遠縁に同い年の小谷夏子という女がいた。
幼少期から大人の心をわしづかみにしわがまま放題。
徹子のひまわりのワンピースをずたずたにした夏子の印象は
もちろん最悪である。

小悪党で人の心の隙間に入り込むことに天性の才能がある
この悪女は詐欺によるトラブルを起こし、
結果徹子はこの厄介な親戚の揉め事の解決に駆り出される。
お金が大好きでまじめに働くことは嫌い。普段の行いも悪い
夏子に眉をひそめていた徹子であったが、年を重ねるごとに
彼女の魅力に気付く。いつしか夏子を応援している徹子。

確かに夏子は人から金を奪うが人を勇気づけたり、夢を見せたり
と与えている部分も多い。つめが甘く、大金をせしめることに
失敗したり、ターゲットに詐欺行為を見破られていることもある。
不思議と愛嬌があるのである。

また本作では弁護士徹子が遺言作成に関わる事案が多いのだが
そのエピソードや弁護士事務所でのやりとりなど秀逸な点も多い。
登場人物たちが年齢を重ね、またどういった人間関係を築いて
いくのかも見ものである。光文社文庫
ラベル:桂望実
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2016年04月23日

小説『平成大家族』中島京子

緋田夫婦は90過ぎの姑と30代ひきこもりの長男と共に
まぁ静かな暮らしを送っていた。
しかし、経営がうまくいかなくなった長女の一家3人と
離婚した次女がやってきたことで8人の大家族に。

両親の勧めにより猛勉強の末に進学校に進学した孫は
公立校への転校を余儀なくされ、物置に閉じこもる。
ひきこもっていた長男には意外な形でロマンスが訪れ
帰ってきた次女は妊娠発覚。そこには秘密があって。
そして祖母は昔の記憶と現在の記憶があいまいになり…。

大所帯になったことで起こる悲喜交々。
よく言えば平穏を愛し、悪く言えば事なかれ主義の当主
龍太郎とその妻春子に安息の日々は訪れるのか?
コミカルでおもしろい。集英社文庫
ラベル:おすすめ
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2016年04月16日

小説『ガソリン生活』伊坂幸太郎

人の暮らしに密接に関わる車は思考し車同士では会話もする。
望月家の愛車緑のデミオはひょんなことから、
元女優荒木翠を乗せることになる。
名家の生まれにして、恋多き女性で仙台ではファンも多い。
そんな彼女だったが、自動車事故を起こして死亡。
目下噂されていた恋人も同乗していた。

ダイアナ妃を思わせるこの悲惨すぎる事故を知り、
望月家とデミオは心を痛めた。
だが情報通の自動車たちはささやき合う。
あの事故には隠されたからくりがあるのではないか?

頼りない長男良夫、恋人ができたらしい長女まどか、
子供らしくない頭脳の持ち主亨とその母とデミオに
危険人物トガリの恐怖にかられた子分たちの魔の手が迫る。

笑いあり、涙あり、バランス感覚抜群の一冊。朝日新聞出版
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2016年03月10日

小説『少女は卒業しない』朝井リョウ

卒業式を迎えることになった七人の少女たちが
隠していたいろんな想いを吐き出す瞬間
青春の甘酸っぱい感動と愛おしいという感情があふれ出す。
連作短編集という形式をとるが、同じ高校での
人間ドラマが描かれているので長編に分類する。
どんなに時代が変わっても、人の心はそんなに変わらないし
こういった感性は失いたくない。
さよならばかりが人生じゃない。
何かを卒業することは新たなはじまりでもある。
それにしても作者のこの感性はすごいなの一言。集英社文庫

ラベル:おすすめ
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2016年02月13日

小説『天地明察』冲方丁

改暦という大事業に立ち向かう者たちの苦難の日々と
あるべき生き方を描いた傑作長編小説。

江戸幕府の碁指南役を務める渋川春海が心血を注ぐのは算術(数学)。
慣れない二本差し(刀)をしながら、彼が出会ったのは
数学の天才関孝和と妙に気になる女性えんだった。
出題される難問をいともたやすく解いてしまう「かいとうさん」は
春海と同い年ということもあり、ライバル心を燃やすのだが…。

若さゆえの過ちか。挫折や誤謬を知る春海だったが彼に与えられたのは
星を読むというおよそ人に不可能かと思われる大事業であった。
気持ちの良い人たちとの出会い。そして託された想い。
既得権益や朝廷の意向も加わり、いばらの道を歩くことになった春海を
照らすのは星の輝きか。天からの後光か。
明察(正解)にたどり着くための解答求めて道を突き進め。

角川書店 
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2016年01月30日

小説『ロスジェネの逆襲』池井戸潤

銀行の子会社に出向を命じられた半沢直樹は
東京セントラル証券で企画部長として働いていた。
不祥事を暴き銀行に利益をもたらした功労者でありながら
左遷された半沢であったが仕事に持つプライドと
その鼻っ柱の強さは全く損なわれていなかった。
どんな逆境に陥っても輝くのが本当の人材である。
仕事を東京中央銀行に奪われたことで生来持ち合わせていた
半沢の性善説「やられたらやり返す」に火が付いた。
(半沢は善行には善行を悪行には悪行で応える)

巨大資本や莫大な金をめぐり暗躍する輩たち。
半沢によってめざめたロストジェネレーション(ロスジェネ)世代。
そして社会が抱える矛盾と戦う者たちを描いたシリーズ第三弾。
ダイヤモンド社
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2016年01月01日

小説『むかしのはなし』三浦しをん

むかしばなしをモチーフに描かれる現代または未来に
語り継がれるべき物語を紡いだ傑作短編集。
作品同士につながりがあり、不遇で数奇な運命をたどる
主人公たちがいかに生き、いかに行動したのか。
忘れたくない思い出がある。
そして忘れてはならない物語がある。
この作者の書く文章は本当にテンポよく読み進められ心地よい。
幻冬舎
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2015年12月07日

小説『悪の教典』貴志祐介

学園の人気英語教師ハスミンこと蓮実聖司には裏の顔があった。
サイコパスにして連続殺人犯(シリアルキラー)。
露見していないが、既に30人以上の命が奪われていた。

容姿端麗、巧みな弁舌能力、悪魔的思考力の持ち主。
特に共感能力が欠如していることから人道にもとる行為をしても
痛痒を感じない。この男は学園内で圧倒的な信頼と人気、
強固な地位を築き、自らの望む王国の再建をもくろんでいた。
あえて問題児ばかりを引き受けることで、学園の美少女を集めた
2年4組の担任の地位を得る。メリハリのある授業を行う蓮実の
ファンは多く親衛隊までいる。人心掌握術によって人たらしの
この男であったが、一部の勘の鋭い者は得体のしれぬ恐怖を感じ
ぬえ的化け物的危惧を抱くのであった。
2年4組の片桐怜花もその一人だった。
この学園には誰もが恐れる格闘家にして求道者の体育教師園田や
三下チンピラ教師、陰気で不気味な猫田らヤバそうな教師もいる。
だが、玲花はほとんどの者が信頼を置く蓮実こそ最も危険な人物
ではないかと本能的に感じていた。

蓮実は自分の日常を楽しく快適なものにしようと次々と
裏工作や奸計によって、自分にとって都合の悪い人物を排除し
自らの理想郷づくりに余念がない。
悪魔の所業を繰り返した蓮実は自らの犯罪を隠すために
もっと大きな犯罪を起こすことにした。
本当の悪魔は口笛を吹きながら美しく涼しい顔で悪事をなす。
死屍累々の狂気の殺戮の行き着く終着点は?
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2015年11月23日

小説『64 ロクヨン』横山秀夫

64(ロクヨン)。D県警管内で昭和64年に起こった
忌まわしい児童誘拐殺人事件のことである。
14年経った今も犯人は捕まっていない…。

広報官として働く三上は、家庭でも問題を抱えていた。
自分にそっくりの愛娘が家出。彼女は容姿に自信が持てず
整形したいといった娘を思わず殴ってしまい、
最悪の結果でわかれることになった。
皮肉なことに絶世の美女である妻美那子は娘の身を心配し
ふさぎこみがち。
三上は上司に頭を下げ家出人捜索を依頼。
卑劣な上司は「恩」を盾に三上をいたぶりコントロール。
自覚のない悪党は性質が悪い。
美那子は娘からの連絡があるかもしれないと家から出ない。
そして、かかってきた無言電話に娘の安否を重ねる。

三上が円滑に関係を築いていた地元の記者クラブとの関係は
自動車事故を起こした加害者の「匿名」をめぐり崩壊。
上司に相談しても、頑なに明かすなと一点張り。怪しい…。
その後も広報官仲間3人と共に、
上からの命令によって常に厳しい選択を迫られることに。
そんな中、D県警のもので知らぬものはいないと言われる
ロクヨンの問題が再浮上する。警察のトップである長官が
時効間際のこの事件を視察にやってくるのだという。
単なるアピールプレーにしか思えない。
その際に被害者の父雨宮に直接事件解決を誓うので
セッティングするように命じられる。
雨宮にそのことを打診した三上であったが断られる。

64には数多くの隠された秘密がある。
かつての因縁の相手二渡や多くの登場人物たちが謎の行動を
取る中で三上の前に次々と難題が降りかかる。
与えられていない情報が多すぎる。
三上は事件関係者や、かつてのOBなどを訪問し
現状伏せられている事案や64事件の全容解明に乗り出す。

64によって家族を失った者。64によって心を失った者。
今でも64を追う者。そして、64の真相に迫る者。
猛者たちの咆哮。最高峰ミステリーの名手の究極警察小説。
文春文庫 上・下巻
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2015年11月08日

小説【空の中】有川浩

高度20000mには何かがいる。
航空機事故が相次ぎ、しかも原因は不明。
事故によって唯一の家族である父を失った高校生瞬は
超知的生命体と遭遇を果たす。
彼は家族の代償とばかりにその不思議ないのちに
愛情を注ぐのだが…。
一方、謎の事故が相次いだことで原因究明に動いていた
自衛隊によって、超巨大な知的生命体が20000mに
存在していることが判明した。

未知との遭遇、そしてそこから派生する危機が起こる舞台は
主人公である瞬が暮らす高知県である。
考えなしに生き物や人に手を出すことは
相手や自分を傷つけることがある。
そんな教訓や人生訓とも言えそうなエピソードを交えながら
高校生の主人公。そして超知的生命体との対話という難局に
直面することになった大人たちの「戦い」を
恋愛を交えて描いた傑作ファンタジー。
有川作品の原点はここにある。角川文庫。
ラベル:おすすめ 有川浩
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2015年10月20日

小説『バイバイ・ブラックバード』伊坂幸太郎

傍若無人な規格外の大女(190cm、200キロ)繭美により
「あのバス」に連れ去られることになった星野一彦。
彼の最後の願いは五人の恋人に別れを告げることだった。
五股をかけながら変に律儀で無邪気なバカ星野の願いは
なぜか叶えられた。
監視役の毒舌モンスター繭美をフィアンセと偽り、
それを理由に5人と別れることにした星野。

星野と「月」を冠する5人の恋人との「出会い」。
そして報告後のあれこれを繭美という存在感がありすぎる
キャラクターによっておかしさを加味して描かれた
現代版「グッド・バイ」。(太宰治の未完作品)

「常識」「上品」などの言葉を塗りつぶした辞書を持ち
人々を罵倒し、なぎ倒す。その姿は浮沈艦を連想させる。
そして、行動を共にすることで生まれた不思議な「友情」…。
「死」を運んできたはずの繭美という存在が、
自分をどこかで卑下していた星野に生きる意味を与えた
ように感じた。うまいの一言に尽きる。双葉文庫。
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2015年09月26日

小説【カラスの親指】道尾秀介

悪党によって人生を狂わされた武沢とテツさんは
詐欺によって生活を立てる中年二人組。
そんな二人には決して打ち明けられない秘密があった。

ある日のことであった。
二人はスリ少女まひろの犯行を目撃。
武沢はなぜか彼女に救いの手を貸し、
生活に困っているなら同居しないかと持ちかける。
下心はないが、思う所はあった。
どうせ来ないだろうと思っていたのに彼女はやってきた。
とまどいながらも同居していた三人だったが
新たな同居人が現れへんてこな生活がはじまった。
しかし、かつての因縁の相手、悪党の影が見え隠れし…。

身の危険を感じた武沢らは住居を変えるが魔の手が迫る。
奴らに仕返しするには詐欺師として自らの役を演じ切り
大金をせしめてやるしかない。
5人の役者は、悪党ヒグチとその一味に戦いを挑んだ。
講談社文庫 500ページ
ラベル:おすすめ
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2015年09月07日

【黒革の手帳】松本清張 

地味なベテラン銀行員原口元子は「黒革の手帳」に
したためた「情報」によって大金を横領。
銀行側を脅すことで事件にならず、銀座のママに転身。
手堅い社会から闇社会の華やかな仕事の場を移した元子は、
クラブのママとして辣腕をふるった。
こんな華やかな世界があったのか。
元子は、脱税によって億万長者になった産婦人科病院長の
内情を探り出し、再び黒革の手帳を発動。
快進撃を続ける元子であったが、多くの恨みを買うことに。
大金を持つことで、かえって膨らんでしまった元子の欲望は
とまらない。更なる事業の拡大、大いなる野望を刺激し
新たな黒革の手帳の得物を探し求める。
傑作長編サスペンス。
新潮文庫 上・下巻

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2015年08月08日

小説【The Book JOJO4部】乙一×荒木飛呂彦

不思議な力を持つ本の存在により、人(仗助)は死ぬ?
大人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』。
その中でも最高傑作と呼び声の高い第4部、
宮城県杜王町を舞台に仗助が康一が岸辺露伴が
不可解な殺人事件の謎に挑む。

きっかけはある男の犯罪でありある女の嫉妬であった。
真実を追究した女は人知れずビルの隙間に落とされ
幸か不幸か命を長らえた。大金のありかを握る女を
殺さぬように、最低限の食料と防寒具を与える男。
絶望的な状況の中でかすかな希望を持ち生き続ける女。
犯行は露呈せず、月日が流れた…。

ある日、康一は漫画家岸辺露伴と共に血だらけの猫を発見。
この猫がきっかけで町で起こった殺人が発覚した。
死体が語るのは普通の人間ではできない不可能犯罪。
犯人はこの街の住人。
康一は一見不良だが一本筋の通った仗助、億康らと共に
犯人捜しをはじめた。彼らは犯人同様不思議な能力
『スタンド』(背後霊)を持つ超能力者であった。
圧倒的な意志がぶつかりあう渾身の一作が生まれた。
集英社
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2015年07月23日

小説【深紅】野沢尚

凄惨な殺人事件の被害者の娘、加害者の娘が
乗り越えた8年の歳月と命の重みとは?

修学旅行を楽しんでいた奏子だったが深夜突然の呼び出し。
家族四人が事故に遭ったと先生から伝えられた。
違う。これはもっとひどいことが起こったに違いない。
実家に戻る途中、奏子は確信した。
家族に出会うまでの4時間の迫力満点の描写。
そして家族との対面。変わり果てた姿に愕然とする。
彼女には伏せられていたが、家族はハンマーで襲撃された。

犯人はあっさり捕まった。仕事上の知り合いだった。
奏子の父によって詐欺に遭い不誠実な対応をされ、
妻の死を踏みにじる言動が引きがねとなった。
詳細に語られる供述であったが、奏子の幼い弟たちが
被害に遭った部分だけはあいまいな供述であった。

それから8年。大学に入学した奏子は表面上はまともに
成長していた。善良な叔母家族と実の家族がもたらした
保険金により生活に不自由することはなかった。
ただ事件の痛みが完全に癒えることはなく、
ときに悪夢の4時間を追体験することがある。
そんな奏子の耳に届いたのはあの犯人の死刑が確定した
というニュースであった。奏子の中で事件は終わらなかった。
奏子は、犯人に自分と同い年の娘未歩がいることを知る。
未歩に会ってみよう。
奏子は偽名を名乗り正体を隠し、未歩に会うことにした。

絶対あってはならない事件によって
絶対会ってはならない二人がうまれた。
法が守ってはくれない被害者家族の実態と苦しみや怒り。
偽らざる加害者の心情。加害者家族の想い。
フィクションでありながら、リアルで真実に迫る。
普通に生きられない道を歩くことになった普通の二人の
魂の咆哮。生きろ!思わず叫んでしまう会心の傑作。
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2015年07月15日

小説【影法師】百田尚樹

下級武士でありながら家老に大出世した勘一は
唯一無二の親友にして「恩人」彦四郎の死を知る。
剣は達人、塾では最高の成績でありながらおごらない。
誰もが認める豪傑だったが、ある日を境に
奇矯な振る舞いをとるようになった。
不遇や不幸なめぐりあわせが彼を変えてしまったのか。
勘一は過去を回想しながら、彦四郎の姿を追う。
そこには、かつて友と交わした約束を破らせるだけの
男の生き様があった。

江戸時代。封建的で閉鎖的な階級制度の社会。
下級武士の子であった勘一は幼くして父を亡くす。
ヨゴレ上級武士によりこどもが斬られそうになり
これをかばったからである。涙を流す勘一に
「武士の子が泣くものではない」と言われた。
彦四郎であった。その言葉を支えに勘一は精進。
誰もが認める天賦の才を持つ彦四郎と共に勘一は
成長していき、藩の抱える問題に直面していく。
米の不作により生活が逼迫した農民が直訴、
受け入れられなければ一揆を起こすという。
武士だけでなく農民も命懸けでやってきた。

藩の窮状を知った勘一は財政再建のために
干拓事業の夢を彦四郎に語る。今の立場で進言すれば
不敬であり最悪切腹を申し渡されると止められた。
私腹を肥やし暗躍する家老や上級武士、
藩主に逆らった不穏分子を殺害せよ。
手練との戦いにより二人の明暗は分かれてしまった。
藩主に気にいられ重用されていく勘一、
逆に彦四郎は背中に傷を負い不遇の日々を送る。
竹馬の友から聞こえてくる彦四郎の近況は耳を疑う
よくないものばかりだった。
不幸なめぐりあわせが、自分のとった言動が彦四郎の
悪循環を引き起こしたのではないか。
かつてお互いを自分以上に高く評価しながら、
全く違う道を歩んだ二人が「信じた」こととは。
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2015年06月05日

小説『強運の持ち主』瀬尾まいこ

ルイーズ吉田は20分3000円の占い師。
もちろん本名だ。そんなわけない。
彼女の下に現れる悩める人々。
観察力と勘でもっともらしいことを言う
ルイーズであったがそこそこの人気を誇る。
基本的にテキトーに占いをする彼女の下に
肝心なことを言わないお客が来店。
ルイーズも苦戦し心を砕いて助言をする。

おしまいが見える
という関西弁の青年が現われ弟子入り志願。
一人でできる仕事だから選んだのに…。
断ったのにちゃっかりいるし、すごく当たる。
そんな奴におしまいが見えると言われ、
自分の恋愛が終わるのかと不安に駆られる。
人に悩みは尽きない。
それは主人公も同じ。
考え方、捉え方は人それぞれ。
信じる・信じないは最終的に自分で決めなくちゃ
いけないんだなぁ。

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2015年05月25日

小説『ソロモンの犬』道尾秀介

大学生の秋内、京也、智佳、ひろ子の日常は
椎崎先生の息子陽介の死によって暗い影を落とす。
陽介が大切にしていた愛犬が急に走りだしたことで
陽介が引きずられ、そこに自動車が…。
愛犬は行方不明になってしまった。
事故死と思っていた秋内であったが、あれは意図的に
起こされた殺人なのではないか?と切り出した。

単純で計算できない男秋内は、智佳にひとめぼれ。
どうにかお近づきになりたいものだ。
恋愛経験に乏しい秋内にできたことは
智佳との会話のシミュレーションのみ。
そんなとき京也が近づいてきた。
彼いわく、自分がひろ子とつきあうようになれば
自然とそのともだち智佳とも接点が生まれる。
だから俺と仲良くしていればよい。
自分のシミュレーション手帳を拾われ読まれ
智佳への想いがバレたが、バラされる地獄は避けられた。
でもそんなにうまくいくわけないよと思っていた
秋内であったが、京也はあっさりひろ子とつき合いだす。
よって秋内は智佳と近づくチャンスを得るが
奥手なのでなかなか切り出せない。

事故現場での京也の行動があやしいと疑う秋内は
友への疑惑を晴らしたいと真相を探り出す。
事件を追う秋内は思わぬ人物から「告白」を受け、
葛藤しながら推理を働かせる。
大学内で変人として定評のある間宮助教授に教えを
乞うことにした秋内。
事件のカギを握るのは犬の生態なのではないか。

人の持つ滑稽さや生きていくことで抱える傷、
悲しみを巧みにつづったミステリー調の傑作小説。
ワクワク感があって、引き込まれる。文春文庫
ラベル:おすすめ
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2015年05月10日

小説『戸村飯店青春100連発』瀬尾まいこ

大阪の中華料理店戸村飯店に対照的な兄弟がいる。
こてこての会話、阪神と大阪新喜劇が大好きな街に
全くなじめない兄ヘイスケ。
要領もルックスもよくモテるが、大阪の笑いが
わからず、家族との折り合いも悪い。

逆に弟のコウスケは、阪神も大阪新喜劇も大好き。
裏表のなく単純でボケるのもうまいので
戸村飯店に訪れる客からかわいがられている。
しかし性格が全く違う兄とは距離感を感じている。
あまりにもわかりやすい性格なので全校生徒に
自分が好きな相手を知られているが本人に自覚なし。
しかも好きな相手岡野は兄のことが好きらしく
ラブレターを代筆してほしいと頼まれる始末。
この「手紙」が後々物語に大きく関わってくる。

居心地の悪い家を出ようと兄は東京の専門学校に行き
作家になると宣言し、家を出ていく。
それは単なる口実ですぐに学校はやめる気である。
あくまで家を出たいだけ。
専門学校に入り、それが縁で親友や恋人もでき
カフェで働くことになる。順応性半端ない。
が、女心は理解していないので相手を怒らせてばかり。
ヘイスケの加入により彼を目当てに女性客は増え
店は繁盛。ヘイスケは店を改善に導く。

大阪にいるコウスケは兄がこの戸村飯店継ぐの嫌だから
出て行ったのだろうなぁ。じゃあオレが継ごうかと考え
大好きな野球や学園生活を満喫していた。
だが三者面談の席で父親は大激怒。
卒業したら出てけと怒鳴られる。
大学に行くことにしたコウスケは
大阪に住む人々や岡野、そして東京に住むヘイスケに
支えられながら猛勉強。
離れたことでつながる絆もあるらしい。

二人の成長を描いた青春小説。清々しい。文春文庫
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2015年04月25日

小説【図書館の神様】瀬尾まいこ

きまじめさ故に悲しい過去を持つ私。
かつて情熱の全てをぶつけていたバレーを
再開させたいと高校の部の顧問になろうと決意。
しかし、臨時教師の立場の自分にまわってきたのは
文芸部の顧問という立場。
ろくに本なんか読んだことないのに。
ただ一人在籍する垣内君によって本を読む私は
全く違う価値観、世界を知るようになった。

世界観がすばらしい。読後感がよい。文章がうまい。
三拍子そろった名作である。

他に「雲行き」(母が再婚した相手は不器用だけど
正直な人でした)を収録。ちくま文庫
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2015年04月19日

小説『三匹のおっさんふたたび』有川浩

剣道のキヨ、柔道のシゲ、工業系頭脳派ノリは
還暦すぎても精力的に生きる悪ガキトリオ。
自警団を結成し、悪党退治や少年の更生など
社会貢献に励んでいる。
平成版三匹が斬る人気シリーズ第二弾。

今回は三匹にとどまらず、祐希の母がアルバイトを
はじめとことで勃発した奮闘記や
ノリの再婚話によって生じた娘早苗の葛藤、
転校していったあの子のせつない恋の話も収録。

三匹の活躍としては、
いやがらせ的ゴミまきちらし騒動、
少年の書店万引き問題、
放火事件捜査中に出くわした三匹のおっさんのニセモノ
とのエピソードが描かれる。
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2015年04月17日

小説【海賊とよばれた男】百田尚樹

石油業界の風雲児国岡鐵造は骨太な明治男。
妥協しない、誘惑に負けない、消費者目線で
ときに利益を度外視した言動をとる豪傑の生き方は
人々を魅了し、国岡商店の名を世界に轟かせた。
人の暮らしに欠かせなくなった石油の歴史や変遷、
アメリカ、イギリスの非情さ、ズルさを赤裸々につづる。
仕事とは、生き方とは、人とはどうあるべきかを
史実を交えながらダイナミックに描いた歴史小説。
船長(店長)の船に乗った多くの人々と共に
語り継がれる人間ドラマに胸が震える名作。

戦後多くの店員を抱える、国岡商店は倒産の危機を
迎えていた。仕事もなく、戦争の影響で財産もない。
このままでは近日倒産を迎えることは想像に難くない。
馘首(クビ)を行おうという重役たちに対し、
店主鐵造は家族同然に考えていた店員を切ることを禁じる。
戦争によって優秀な店員を失った悲しい過去のある彼は
たとえ一人であっても家族とみなす者を切り捨てることが
あってはならないと考えていた。
たしかに戦争で失ったものは大きかったが、
彼の下には彼を慕い、全力で仕事に心血を注ぐ者が集まり
それが会社にとってかけがえのない財産であった。

ときに採算を度外視し、競合他社を圧倒する働き方をする
最強集団国岡商店は石油業界では危険視され
幾多の迫害に遭う。しかし、消費者や国の為に安価な
安定供給をしようと心がける高潔な生き方に共感し
優秀な者が集まり、その人柄が人の心を動かす。
私心を捨てて他者の為に生きるその姿はまさにサムライ。
人材と強力な刀(タンカー)、恩人日田を筆頭とした
彼に助力を惜しまない人との出会いが感動的だ。
どんな困難に遭おうと弱音を吐かずただ自分の信じた道を
愚直にひたはしる。文句なしの名著。

講談社 上・下巻
ラベル:おすすめ
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2015年03月19日

小説『流星の絆』東野圭吾

流星を観に行っていた三兄妹。

帰宅したら両親が殺害されていた。

弟、妹を守ろうとする兄、

犯行現場から立ち去る男を目撃した弟、

幼い妹の三人は施設で暮らすことを余儀なくされた。

もう、父の絶品の「ハヤシライス」は食べられないし

母と会うことはできない。

担当刑事柏原は悲嘆に暮れる三兄弟を心配するが

捜査は難航し、進展を見せぬまま月日だけが流れた。


流れ星に復讐を誓った彼らは、

自分たちが詐欺の被害に遭ったことで

騙される側から騙す側になることを決意。


14年の歳月が流れ、時効まで残された期間は当時1年。

頭脳卓抜な長兄功一が詐欺の計画を立案、

決定するリーダー格。

どんな役柄も演じられる次男泰輔、

美貌と男を転がす魔性の女静奈が実行役。

流星の絆によって結ばれた彼らは、

身分を隠し、ターゲットを決めお金をだまし取る。


1000万円はだまし取れそうな標的も決まり

いい加減詐欺などやめようと考えていた功一。

しかし、急成長を遂げたレストラン経営者の息子

ターゲット行成に近づく静奈を見守っていた泰輔は

功一の父親が事件現場で見た男に似ていると気づく。

また、静奈は行成がつくるハヤシライスの味が

昔食べた父の味に酷似していると兄弟に告げる。

限りなく怪しいと判断した功一は、

犯人を追いつめるために計画を練り上げ、

泰輔、静奈と共に自らも危ない橋を渡る決意を固める。

しかし最大の誤算だったのは、

妹が抱いた罪悪感と恋心であった。

人間の真価が問われる会心の一作である。


講談社文庫 600ページ超。



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2015年03月10日

小説『葉桜の季節に君を想うということ』歌野晶午

成瀬将虎は元私立探偵の「何でも屋」。

彼は霊感商法が疑われる集団の調査を

久高愛子から依頼された。

一見頼りないが、フィットネスクラブに通い

脱いだらすごいを自称する将虎は

電車で飛び込み自殺をしようとしていた女性を救出。

助けられた麻宮さくらは彼に好意を寄せるようになり

二人は恋に落ち、運命を感じるようになるのだが…。


見え隠れする「蓬楽倶楽部」と名乗る詐欺集団。

彼らは被害者に悪の片棒をかつがせ加害者とすることで

より莫大で違法な金の搾取を行っていた。

不気味で血なまぐさい過去の事件と

現代にまたがる謎と秘密。


枯れることのない情熱と想いの美しさ。

無駄と思われた描写が実は作品の根幹を成す

絶対不可欠なものだったと知るとき

驚嘆されること請け合いの名作ミステリー。

読了後の感想としては、すばらしいの一言。

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2015年01月18日

小説『風の中のマリア』百田尚樹

疾風のマリアは、オオスズメバチのワーカーとして

生きる誇り高き戦士。高度な社会性、役割分担がなされた

「帝国」(巣)の中でエサを待つ妹たちのために

多くのエサを狩り、肉団子にして巣に持ち帰り与える。

時には危険な相手である敵対するスズメバチ、オオカマキリ、

オニヤンマとの死闘や、鳥などの襲撃を受ける

死と隣り合わせの日々。交尾をし、子孫を残すために

生まれてきた他の虫たちと異なり、ただただ狩りをし、

女王バチや妹、巣を守り、繁栄させるためだけに生きるのは

ハチとアリくらいだが、それ故に強固で一枚岩な組織づくり、

種の保存(ゲノム)を可能とする。

(要約すると、自分の妹を育てた方が自らの遺伝子が

後世に語り継がれる可能性、割合が増えるのである)。

狩りに出かけるワーカーたちはどんなに生きても

一ヶ月ほどで命を落としてしまう。

またその多くは狩りによって亡くなる。

その非情なまでの戦いの日々という宿命を背負ったハチ、

そして多くのムシたちを擬人化させて描いたファンタジー。

しかし、同時に強力なバックアップメンバーである

「ハチ」の権威も加わり科学的要素もふんだんに

盛り込まれ、スズメバチの生態、形成される社会、

彼らと敵対するハチなどの存在、

種の保存など生命の大命題も絶妙に描かれ、

ストーリーに引き込まれる。

作中に登場する虫たちは教養を持ち、思想を持ち、

思考することもできる生命体である。

一寸の虫にも五分の魂どころか、思わず感嘆せずいられぬ

まさに魂を震わせる名著に仕上がっている。

解説は養老先生であり、また豪華である。

講談社文庫
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2014年12月21日

小説【三匹のおっさん】有川浩

還暦迎えた60歳のかつての悪ガキ三人組。
まだジジイと呼ばれ、好々爺に甘んじるほど
気持ちも身体も老いていない。
せめておっさんと呼んでくれ。

剣道のキヨ、柔道のシゲ、工業系頭脳派ノリ。
強力な三匹のおっさんたちは自警団を結成し
自分たちの目の見える範囲で
悪党たちを退治することにした。

平成版三匹が斬る的彼らの痛快な活躍は
彼らの孫である祐希や愛娘早苗も関わることになり
彼らや周囲の人々に多大な影響を与えていく。

年輪を無駄に重ねなかったチョイ悪親父たちの
馬力と含蓄、そして哀愁や、若者たちの成長。
きっと死ぬまで青春な彼ら三匹の生き様ご覧あれ。

文春文庫
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2014年10月25日

小説『塩の街』有川浩

世界が悲しみと混沌に包まれたとき

そこに確実にあったのは愛ではなく恋でした。


世界に飛来した巨大な塩によって壊滅的な被害を受け

人々の身体からは塩が吹き出し原因不明のまま死に至る。

絶望的な状況の中、本性を現し暴徒化した人々。

そして、塩害によってもたらされた莫大な被害は

人々の生活を圧迫し、明日への希望さえも奪っていく。

そんな中、絶対出会うはずのなかったはずの

陸自のパイロット乗り秋庭と女子高生真奈が出会い、

見えない絆で結ばれていき、恋におちていく。

世界の片隅でひっそりと生きる道もあった。

しかし、なぜかいろいろな想いを抱いた人が

彼らの前に現れ、そして消えていった…。

「世界とか、救ってみたくない?」

やってきた男の言葉は天使のささやきかそれとも

悪魔のそれか…。

そして運命の扉は開いてしまった。


あまりにもピュアすぎる有川浩のデビュー作にして

あまりにもすごすぎる名著。

やはりモノが違うなと唸らされる。

世界が変わることを是とするか非とするかではなく

どうありたいかを問いかけ魂に呼びかける作品。泣ける。


角川文庫
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2014年10月18日

小説『まほろ駅前狂騒曲』三浦しをん

便利屋を営む常識人多田と変人の居候行天の

迷コンビの珍騒動を描いた人気シリーズ第三弾。


人口30万人ほどの東京のベッドタウンまほろ駅で

便利屋を営む多田はおせっかいな性格が災いしてか

厄介な仕事や厄介な人物を引き受けてしまうことが多い。

高校の同級生の行天もその一人。

老若男女誰もが「変人」と認める彼を居候兼助手として

家に置いてしまっている多田の下に舞い込んだのは

行天の娘であるハルを1月半の間預かってほしいという

無理難題であった。

行天は少年時代、新興宗教にはまり狂信者と化した母により

心と身体に大きな傷を負っていた。

それは現在の風変わりな人格形成にも大きな影を落としていた。

母親の様に自分の子供を一方的で身勝手な暴力に

さらしてしまうかもしれないと脅える行天だったが

成り行きで多田と共に4歳の少女ハルと生活を送ることに。

なぜか運行会社横中はバスの間引きをしていると

思い込んでいる便利軒の得意客岡率いる老人集団、

無農薬野菜を謳い推奨するあやしげな集団HHFA、

なぜか彼らの行為を監視している厄介な顧客でもある

裏組織の星ら行天に劣らぬ変人たちが、

多田が恋心を寄せるキッチンまほろの柏木亜沙子や

小学生の由良とその友達裕弥らも巻き込んで

大騒動を引き起こす。

しかしやはり騒動の中心にいるのは行天だった。

変人たちに振り回されっぱなしの多田だったが

行天同様に大きな傷を抱える彼もまた

未来に向かって着実に前向きに歩き出す。

まほろ駅前の待望のシリーズは

笑いと感動の大傑作に仕上がっている。
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2013年12月01日

小説『夜行観覧者』湊かなえ

ひばりヶ丘は高級住宅地だが、そこに住む

人たち(家族)もそれぞれの悩みを抱えていた。

遠藤家には癇癪持ちの娘がおり、

たびたび騒ぎを起こしていた。

彼女は受験に失敗し、すっかり卑屈になり、

他者のせいにすることで自我を保っていた。

そんなある日、殺人事件が勃発した。

世間的には優秀で幸福なモデルケースのような

高橋家の主であり医者の夫が殺されたのだ。

夫を殺したのは自分だと高橋の妻が名乗り出るが、

事件のあった夜から姿を晦ましている

次男の高橋慎司が俄然あやしい。

遠藤家、高橋家、そしてひばりヶ丘に長年住む

小島さと子らによって、

事件の真相や動機が少しずつ語られていく。

殺人事件は特別な環境下で起こるわけではなく

日常どこにでも潜んでいると思わせる怖さがある。

最後まで出てこない

小島さと子の旦那の存在もなかなか不気味だ。


双葉文庫 
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2013年08月25日

小説『告白』湊かなえ

愛娘を事故で亡くした中学校の理科教師

森口悠子。終業式で語りだしたその告白は

自分の愛娘が自らが担当する教室の生徒

二人に殺されたという告白だった…。


聖職者である森口は、二人が13歳だったことから

彼らの罪を糾弾しても大した罪になることもなく

また犯人の一人が心から反省することもない

見抜いていた。彼女はクラス全員に事件の「真相」

を語り、とんでもない爆弾発言をした結果辞職し、

中学校を去って行った。


犯人の一人が学校に通い続け、もう一人は不登校に。

教室内には不穏な空気が流れ出す。

事件の当事者といえる、加害者、その家族、

被害者、その家族…などの生い立ちが語られ

ラストに終結していくまでのハラハラ感は

すごいの一言。ラストも…。
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2013年01月22日

小説『死神の精度』伊坂幸太郎

【死神】

本編の「死神」とは不幸な事故(災害を含む)や

殺人事件などによって命を落としてしまう人間に対し

調査部の「死神」がその対象者の前に姿を現し

一週間観察することで

その人間の死を「可」とするか「延長」(延命)するかを

決めることを仕事としている存在である。

どちらを選択しても死神に特に功績やペナルティーが

あるわけではなく、「可」とした場合

死神に出会ってから8日目に命を落とすことになる。

ちなみに自殺や病死などは死神の仕業ではない。

死神に共通していることはジャンルを問わず音楽好き。

また、対象者に合わせて、姿かたちを変えて

対象者の前に現れることができる。

食事や睡眠などは全く不要であり、それで体力などが

損なわれることはない。ちなみに味覚はない。

暴力などによる打撃に対するダメージはない。

人間の持つ心の機微などの類は基本的に理解していない。

死神に直接触れられると気絶してしまい、

寿命が1年縮むらしい。


本作における主人公の死神は千葉と名乗る存在で

性別はとりあえず男。

死神の中にはろくな調査もせず対象者を「可」とし

ずっと音楽を聴き続けているだけの死神が多いが

千葉は仕事に対してまじめなので調査に比較的熱心。

よって対象者と行動を共にする時間も長く

おかしくも奇妙な人間?ドラマが展開される。

彼は人間界のことに疎いので対象者と行動を共にする間

すっかり変わり者扱いされてしまう。


死を連れてくる「死神」という存在の千葉だが

恐怖や畏怖の対象とはほど遠い。

彼が行くところ雨が降り、

未だに晴れた空を見たことがないという。

物語は千葉に遭うことで起こる対象者の激動の一週間を

コミカルにかつ卓抜な文章で描いた傑作小説である。

千葉と関わる対象者の6つの人生を垣間見るとき

「生」と「死」が地続きの存在であると再認識する。

また人に対して愛おしさがこみあげてくる。


『ACCURACY OF DEATH』

文春文庫
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2008年11月10日

小説「恋愛中毒」山本文緒


第5夫人として、小説家と恋愛関係の泥沼に陥っていく、

謎多き女性水無月の悲しき恋愛体験を綴った傑作恋愛小説。

吉川英治文学新人賞。導入部もうまく、ぐいぐいひき込まれる。


恋愛関係のごたごたから転職した青年。心のバランスを失って

しまった元恋人は、出版を営む職場にまで押しかける始末。

現状から逃げようと青年は、「今日だけはお願いします」と

電話の取次ぎを事務員の水無月に任せた。

水無月はその後、会社に押しかけてきた女性を説得して

一旦引き下がらせた。妙に貫禄があり、事務所の書籍の5%がなぜか

水無月に振り込まれているということを知った青年は、水無月の

秘密を知ることになる。水無月は語りだす。


水無月は、離婚経験のあるさえない30過ぎのおばさんだ。

英語に堪能なので、ちょっとだが訳書をしたり、弁当屋のパートを

しながら生計を立てていた。水無月は、ある日自分が学生の頃から

ずっとファンだった芸能人にして小説家創路と出会う。

過去の悲しい体験から

「これから先の人生、他人を愛しすぎないように。

 他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように」

と思っていた水無月だったが、人の心に土足であがることに

何のためらいもみせない創路によって結局つきあうことになった。


創路は、妻と3人の愛人がいる(わかっているだけで)こどもっぽい

わがままな男であり、水無月はことごとく創路に振り回される。

しかし、そんな生活であっても水無月は彼に必要とされていると

いう想いから奮闘。創路の愛を独占しようと、姦計を企てる。


登場人物のほとんどが、ひとくせもふたくせもある人々であるが、

水無月自身も言動から「普通ではないな」と思わせる所があり、

後半に謎多き彼女の悲しい過去が語られ、構成とかも含めて

唸らされた。恋愛小説なんてとバカにしていたが、いわゆるべたべた

感もないし、登場人物に対する著者の突き放し方とかがよかった。


私の本の好き嫌いは、登場人物の言動に同調できるか、

反対に全く自分と違うからこそ魅力を感じるのだが、

この本の場合は明らかに後者だ。400ページ。
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2008年10月06日

小説「白夜行」東野圭吾




権謀術数、裏切り、見えない絆、暗躍する影……

殺人事件の被害者の息子桐原亮司と容疑者の娘西本雪穂の

壮大で物悲しい白夜行は次々の不幸を巻き起こす。

基本的に物語りは暗く、ハードな内容を含む。850ページ。


1973年、大阪の廃墟ビルで質屋を営む桐原亮司の父が殺された。

質屋であり、評判のよくない男でもあったため、容疑者は次々と

浮かび上がっていった。西本雪穂の母もそのひとり。

事故死か、自殺か、殺人か不確かなまま事件は迷宮入りした。


物語はその後の、桐原亮司と西本雪穂のそれぞれの「成長」を描く。

彼らの近くでは、次々と事件が巻き起こり、そこにはお互いの影が

見え隠れするのだが、不気味なベールに包まれたまま証拠はない。

誰も信じない陰気で影の多い少年と、貴族然とした薄幸の美少女の

瞳に映る未来は?


物語は、「オイルショック」「V9ナイン」「阪神優勝」

「インベーダーブーム」「マリオブーム」「宮崎勤事件」

などの歴史的事件も扱って、19年という大きな舞台を描いた傑作。

暗い魅力に溢れた作品であり、ダーティーな二人の主人公がなぜ

人々の魂を掌握・翻弄することに長け、また魅了するのか?

絶望の淵から這い上がろうとする魂の叫びを感じる作品。


桐原亮司

金に汚い。それは「金」の力を知るゆえ。

謎の多い秘密主義の男で、コンピュータの知識や犯罪にも積極的に

関わる。コンプレックスを抱えている。権謀術数に長けている。

「俺の人生は、白夜の中を歩いているようなものやからな」

西本雪穂

はっとするような美貌の持ち主。黒い薔薇、フランス人形などに

喩えられるが、それは酷薄なイメージとも繋がる。

高い演技力と向上心の塊であり、人々を掌で転がす悪女。
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