恋人との離れてしまった心をつなげるために、強引な手段によって
女は子供をつくり、結婚するという目的を達成した。
そして、二人にこどもができた。こどもは、天使のようだった……。
「夕子」と名づけられた天使は、すくすくと成長し、幼少時に芸能界の
長期のCM起用と契約を手に入れ、中学卒業後本格的に芸能活動を
始める。夕子の隣には、常に夕子を守り、戦い続けてくれる母がいて
心から好きだと思えるボーイフレンドがいた。しかし、中学卒業を
機に彼女の生活は激変。忙しい毎日の中で、夕子の日常≒芸能界と
なっていき、仕事を優先するようになった。
強いプレッシャーとたくさんの人の期待の中で、夕子は少しずつ
歳を重ねていき、意味もわからず「夢を与える」仕事をしていた。
華やかでありながら、限られた世界の中を走り続けた。
そして、夕子は恋をした。人の目を気にしながら……。
変わっていったものと、変わらないもの……、覚えたことと、
忘れたこと……、傷つかず、つまずかない生き方なんてないと
いう凄みを感じる作品。おすすめの長編。300ページ。
芥川賞を受賞した「蹴りたい背中」もすごかったが、人間の持つ
本音と建前、美しさとどろどろした部分、切なさ、やるせなさ、
ほろ苦さどれをとっても秀逸。印象的なフレーズも多い。
「純粋」すぎた夕子が、絶望の淵に沈み、「夢を与える」や「信頼」と
いう言葉の意味をつぶやく場面は号泣してしまう。読後感は悪い。
名言
「信頼だけは、一度離せば、もう戻ってきません」