芥川賞。145ページ、短編。
陸に上がった後も海のことがいつまでも忘れられない。
青函連絡船の客室係を辞め、函館にある刑務所の看守に
なった私の前に、あいつは現われた。受刑者として。
少年時代、教師やクラスメイトの絶対的な信頼を勝ち取り、
「優等生」として君臨しながら、その裏で残酷なまでに
私を苦しめ続けたあいつが。
私は、ある日「優等生」として振舞うあいつの仮面の下を
覗いてしまったのだ……。悪魔のようなあいつの姿を……。
順調で、何不自由ない生活を送っていたはずのあいつは、
傷害罪を犯し、私と18年ぶりに再開した。
私は監視役に、あいつは監視される側になった。
あいつは、模範的な態度で刑務所生活、船舶訓練を
行うが、私の中では「疑問」と「疑惑」が消えることは
ないし、常に不安がつきまとう。逆に、監視されている
気がするのは気のせいだろうか?
あいつの、一挙手一投足に目が離せなくなる私。
同時に、あいつの仮面の下を再び覗いてみたいという
不思議な欲求が主人公を包むのだった。
小説の持つおもしろさを、ふんだんに詰め込んだ傑作。
あいつの「人心掌握力」の高さには、脱帽させられます。
主人公の「複雑な心情」を巧みに表現しています。
人物描写、海などの風景の描写もすてきです。あえて、
あいつの心情、背景を描いていないのも流石だと思います。
ラベル:芥川賞