士族のこどもとして無駄に気位が高い祖母トセ、
温厚な父貞行によって育てられていた。
亡くなったとされる母の悪口を言うトセだったが
ある日のこと、父のことをおとうさまと呼ぶ女の子と出会う。
あれは一体なんだったのだろうか。
その話を祖母にした所、激高しそのまま命を落とした。
傷心にくれる信夫であったが、死んだと聞かされていた母
菊が現れ、あの女の子は妹待子であり一緒に暮らすことに。
母は当時世間から色眼鏡で見られていたキリスト教信者であり
それに強く反対するトセにより別に暮らしていたのだ。
母、そして妹を慕いながらもトセによって「教育」を受けた
信夫は心から打ち解けることができないのだった。
夜の学校の便所に女の子の幽霊が出る。
そんなバカげたうわさが広まり、みんなで夜に集まることに。
夜になったらどしゃぶりとなり、行く必要がないと感じるが
「約束を破るのは犬猫に劣る」と父に言われ嫌々出かける。
案の定誰もいないと思ったが、吉川だけがそこにいた。
信夫、吉川はこの事件をきっかけに周囲から一目置かれる
ようになり、自然と親友同士の関係となる。
しかし、吉川は家庭の事情から蝦夷(北海道)に行くことになり、
吉川、そしてかわいい妹ふじ子と別れることになり涙を流す。
父との死別、吉川との再会、北海道での生活、キリスト教への
信仰心にめざめた信夫は親切心から三堀をかばう。
三堀は必ずしも感謝してくれなかったが、信夫は誰よりも
他者に対して親切で己の信念に基づき生きる。
身体の悪いふじ子を一途に愛し続けた札幌の鉄道職員
永野信夫の生き様に涙を禁じ得ない愛と感動の長編小説。
新潮文庫