2020年05月20日

『君たちに明日はない』垣根涼介

ジャニーズ崩れの一見チャラい容姿の村上真介は
頭の回転が速く、弁が立つ、脳天気キャラで
特殊な人生観、生い立ちを持っている。
(マツコの隣でしゃべっているアイツを連想させる)彼は
いわゆるリストラ請負会社で働いている。

様々な業種で働いていた社員たちが、会社の再構築、
リストラの犠牲で退職勧告をされる。
法律の建前上、正社員は強制的に辞めさせられない。
通常の退職金に条件上乗せ、再就職期間中の3ヶ月間は
その会社に籍を置いていられるなど好条件を提示され、
退職するという選択肢もアリですよね?と誘導される。
もし会社に残っても、業績の悪化などを理由に
給料や年収の大幅な減俸や部署替えなどを命じられ、
窓際に追いやられる。

会社に見切りをつける者、目先の好条件につられる者、
涙を飲んでこれを受け入れる者が登場し、
被害者面をして激高する者と反応は人それぞれ。
その仕事の性質上、心情を吐露されたり、重い相談や
選択を迫られる者も多い。物語は、面接者である真介、
そして被面接者たちを描きながら進められる。

そもそも人は何で働くのだろう?仕事ってなんだろう?
このシリーズにおける大きなテーマである。
報酬(賃金)以外にもどんな要素が絡んでくるのか?
仕事に対するやりがいやライフワーク、
派生する人間関係、社会情勢に変化、将来を見据えて…。
人生観やその人そのものの生き方にも大いに関わる問題だ。
そういった深い話にもズバスバ切り込んでくる。

真介たちにクビ勧告を丸投げしてくる依頼会社的には、
あくまで退職勧告する内の何割かが退職してくれればいい。
中には、会社的にリストラ候補に挙がってはいるが、
本音としては辞めてほしくない者もいる。
そういう人には、依頼会社側からやんわりと軽めの
退社勧告をしてほしいと頼まれる。あくまで条件提示として。
苦笑モノである。

きっとこいつらは自分たちの手を汚さず自分たちは
善人のままでいたい悪人なのだろう。噴飯物である。
現に経営者側のそういった姿勢に対して、従業員の中には
強い不信感を抱き、優秀な人材が流出することもある。
まぁリストラ候補に入れられた時点で、会社に対して
悪感情を持つのは当然なのである。自業自得。

そうは言っても仕事だからと割り切りながら、
一見何も考えていなそうで、その実ある意味利口な
白痴美人と共に真介は仕事をこなしていく。
ときに面談者から罵倒され、お茶をぶっかけられ、
泣き出され、ツラい思いをしながらも、なぜかこの仕事に
不思議な魅力を感じ続けているのはなぜだろう?
独自の感性、バックボーンを持つ主人公が面接者と
対話・会話し、そのことが彼女、彼らにどんな選択を
させるのか。大手企業ですら終身雇用が崩壊したり、
倒産したり、大手リストラを敢行するようになった
社会構造の中で本当身につまされるよ。
真介が入社したリストラ請負会社はそんな社会情勢、
ニッチ(隙間)なニーズ産業であり、高橋社長自体も
「先細りして需要がなくなっていく」ことは予見している。

例えば、自分が貰ってる賃金が少ないと感じても、
会社側からしてみたら雇用までに至る費用や
その後もその人を雇うための必要経費が派生する。
ある大手企業がひとりの人間を雇うまでに400万円かかり、
その従業員に賃金他を払いながら、その人がまともに
働いてくれて諸々の費用を回収するのに3年かかるという。
つまり3年以内に辞められたらマイナスなのである。
社員を教育したり、関わったりした数値化できない
労力を考えたら…。

もちろん雇用者側にも従業員側にも言い分はあるし、
複雑な人間関係や会社の都合、社会情勢…諸々の要素も
関わってくる。作中でも語られるように、
がんばっていれば報われる終身雇用が約束された
時代は終わり、社会は流動的でどんな優秀な人材でも
絶対安泰と言うような時代ではない。
でも明日はないと言っても生きているかぎり明日は来る。
地続きの明日はやってくる。そのときそのときで、
最良と思えるような選択を死ぬまで続けるしかない。
新潮文庫 全5巻 君たちに明日はない、借金取りの皇子、
張り込み姫、永遠のディーバ、迷子の王様
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 08:22| Comment(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント