2018年05月30日

小説『命売ります』三島由紀夫

自殺未遂を起こした男は生きる価値を見出せず
新聞広告を出した。「命売ります」。
どうせ羽のような軽い命だと高をくくる彼に
訪れる運命とは?

コピーライターとして成功し、何不自由なく暮らす
27歳の羽仁男。ある日新聞の活字がゴキブリに。
人生に虚しさを感じ、睡眠薬を大量に摂取し
自殺を図るが気づけば病院のベッドで眠っていた。
生きるように諭されるが生きる気力が湧かない。
思い付きで「命売ります」と宣言した彼の下に
老人が現れて不思議な依頼をした。

成り行き任せ、他人任せで局面に当たる彼だったが
吸血鬼家族と疑似家族となったり、
変わり者と生活を営んだりと
ある意味、人生の醍醐味のようなものを知る。
しかし、その当たり前のしあわせや未来を忌避し
自殺を選んだことを思い知る。
同時に自分が死を恐れるようになっていることに
気づく。あのときは生きることから逃れたかった。
でも今は死ぬことに怯えている。そして、自分が
してきたことは間違いなく生きることを放棄し、
自らを命を危うくする愚かな行いだった。

死んだ気になりことにあたり生きるのと
死んでもいいやと生きるのは雲泥の差がある。
いわゆる物騒な相談事、そして秘密を知り、
裏社会の人間と思しき者からの依頼もあった。
軽々に扱っていた命は重く尊いものだった。
他人の死に触れることで自分の命の重さに
気づいた羽仁男は身の危険を感じ生を模索する。

三島といったら難しく固い。というイメージがある。
しかしこの作品は娯楽性も高く、内容も読者を
飽きさせず、読みやすい。世捨て人になったことで
ある意味自由に生きられるようになった主人公が
そのことから豪胆に振る舞う。肝が据わっている
からではない。ただ鈍く、いきることを思考しない、
故に大胆かつ勝手なふるまいができる。しかし、
他者と心を寄せる内に感じるものがあったのだろう。
彼自身が臆病になったというよりもまともになった、
平常な人間に戻ったというべきか。人はややこしい。
ちくま文庫 約255頁
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 06:54| Comment(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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