2016年10月29日

小説『紙の月』角田光代

評判の良い銀行員梅澤梨花が1億の横領によって得たものとは?

バンコクに逃げた梅澤梨花は現実感のない逃亡の日々を送っていた。
回想するのは自らの激動の日々。いつから壊れていったのか?
理想を追求するうちに彼女の根幹にあったはずの「正義感」は抜け
かりそめの華やかな「現実」を当たり前のこととして享受する。
育ちもよく、多くを望まなかったはずの梨花であったが、
新しい恋のはじまりと結婚生活の潤いのなさが彼女を犯行に
走らせたのか。彼女と関わりのある人間による回想とヒロイン
梨花の回想によって明らかにされていくひとつの真実。

何気ない日常の言葉によって摩耗していくヒロインたち。
てのひらからすべり落ちていくしあわせは砂のよう。
多くの喜びを与えてくれる「お金」はときに正常な判断を狂わせる。
お金を得やすい立場にいた梨花は不当なやり方で次々とお金を得る。
登場人物たちの正当化、合理化による言動や心理描写を鑑みるとき、
あまりにも脆弱で頼りない人間関係だったことに気付かされる。
同時に、犯罪者という「向こう側」に飛び越えてしまう危険性は
日常に潜んでいるのだと痛感させられた。また、意図的にしろ
無自覚にしろ、金を集る(たかる)人間の感覚が麻痺していく過程、
当然のこととして受け入れてしまう不気味さも見事に描いている。
ハルキ文庫
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 06:20| Comment(0) | TrackBack(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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