第5夫人として、小説家と恋愛関係の泥沼に陥っていく、
謎多き女性水無月の悲しき恋愛体験を綴った傑作恋愛小説。
吉川英治文学新人賞。導入部もうまく、ぐいぐいひき込まれる。
恋愛関係のごたごたから転職した青年。心のバランスを失って
しまった元恋人は、出版を営む職場にまで押しかける始末。
現状から逃げようと青年は、「今日だけはお願いします」と
電話の取次ぎを事務員の水無月に任せた。
水無月はその後、会社に押しかけてきた女性を説得して
一旦引き下がらせた。妙に貫禄があり、事務所の書籍の5%がなぜか
水無月に振り込まれているということを知った青年は、水無月の
秘密を知ることになる。水無月は語りだす。
水無月は、離婚経験のあるさえない30過ぎのおばさんだ。
英語に堪能なので、ちょっとだが訳書をしたり、弁当屋のパートを
しながら生計を立てていた。水無月は、ある日自分が学生の頃から
ずっとファンだった芸能人にして小説家創路と出会う。
過去の悲しい体験から
「これから先の人生、他人を愛しすぎないように。
他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように」
と思っていた水無月だったが、人の心に土足であがることに
何のためらいもみせない創路によって結局つきあうことになった。
創路は、妻と3人の愛人がいる(わかっているだけで)こどもっぽい
わがままな男であり、水無月はことごとく創路に振り回される。
しかし、そんな生活であっても水無月は彼に必要とされていると
いう想いから奮闘。創路の愛を独占しようと、姦計を企てる。
登場人物のほとんどが、ひとくせもふたくせもある人々であるが、
水無月自身も言動から「普通ではないな」と思わせる所があり、
後半に謎多き彼女の悲しい過去が語られ、構成とかも含めて
唸らされた。恋愛小説なんてとバカにしていたが、いわゆるべたべた
感もないし、登場人物に対する著者の突き放し方とかがよかった。
私の本の好き嫌いは、登場人物の言動に同調できるか、
反対に全く自分と違うからこそ魅力を感じるのだが、
この本の場合は明らかに後者だ。400ページ。