2008年07月28日

私小説「兄弟」なかにし礼




数億円の借金、裏切り、破天荒な生き方をする兄のツケを

払わされるのは私だった。名作詞家なかにし礼の私小説。460ページ。


特攻隊から復員してきた14歳年上の兄は、私の父代わりとして

私を育ててくれたが、山っ気の多い男で、一攫千金めざして、

家を担保にニシン漁に手を出す。

思えば、この頃から破滅への道を歩んでいたような気がする。


苦労に苦労を重ね、ジャズの訳をしながら、立教大学に通っていた

私は、時代の寵児「石原裕次郎」と出会い、昭和の流行歌を次々と

作曲。アメリカンドリームならぬ、大成功を収めるが、金の臭いに

つられて兄がやってきた。兄は、「育ての親」ということや、

母を人質に私から金を無心し続ける。あげくの果てには、私の名前で

勝手に借金を作り、次から次へと会社を起こし、倒産させる。

蛭のように、悪魔のように、私から金銭をむしり取り、精神的にも

追いつめられる私だが、どこかで「改心してくれるのでは?」と思い

兄弟の情や、兄が母と住んでいるということもあり、兄の悪行を

許していたが、遂に決定的な裏切りをし、絶縁状態に至る。


特攻隊の生き残り、墜落体験、アメリカ兵との空中戦……

実しやかに戦争体験を語る兄の言葉に疑念を抱いた私は、

兄の死後、兄が所属していた「戦友会」に赴き、兄の実像と虚像を

推し量る。愛憎と葛藤を繰り返しながら、私は死んだ兄にささやく。

「兄さん、死んでくれてありがとう」



「男はつらいよ」にも言えることだが、ああいう生き方しか

できない人が家族にいたら、言葉では言えないような苦労が絶えない

よなぁと感じた。しかも、この兄は寅さんの比ではないほどの

甘ったれの困ったちゃんである。歴史に「もし」はないが、

この兄がいなかったら、もっと平安な生き方をできたかもしれないが

数々のヒット曲も生まれなかったのではないか?と考えると、

作者ではないが、なんとも複雑な気持ちがしてくる。
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 11:19| Comment(0) | TrackBack(0) | おすすめのエッセイ・私小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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