2020年12月28日

小説『塩狩峠』三浦綾子

明治10年、永野信夫東京で産まれる。
士族のこどもとして無駄に気位が高い祖母トセ、
温厚な父貞行によって育てられていた。
亡くなったとされる母の悪口を言うトセだったが
ある日のこと、父のことをおとうさまと呼ぶ女の子と出会う。
あれは一体なんだったのだろうか。
その話を祖母にした所、激高しそのまま命を落とした。

傷心にくれる信夫であったが、死んだと聞かされていた母
菊が現れ、あの女の子は妹待子であり一緒に暮らすことに。
母は当時世間から色眼鏡で見られていたキリスト教信者であり
それに強く反対するトセにより別に暮らしていたのだ。
母、そして妹を慕いながらもトセによって「教育」を受けた
信夫は心から打ち解けることができないのだった。

夜の学校の便所に女の子の幽霊が出る。
そんなバカげたうわさが広まり、みんなで夜に集まることに。
夜になったらどしゃぶりとなり、行く必要がないと感じるが
「約束を破るのは犬猫に劣る」と父に言われ嫌々出かける。
案の定誰もいないと思ったが、吉川だけがそこにいた。
信夫、吉川はこの事件をきっかけに周囲から一目置かれる
ようになり、自然と親友同士の関係となる。
しかし、吉川は家庭の事情から蝦夷(北海道)に行くことになり、
吉川、そしてかわいい妹ふじ子と別れることになり涙を流す。

父との死別、吉川との再会、北海道での生活、キリスト教への
信仰心にめざめた信夫は親切心から三堀をかばう。
三堀は必ずしも感謝してくれなかったが、信夫は誰よりも
他者に対して親切で己の信念に基づき生きる。
身体の悪いふじ子を一途に愛し続けた札幌の鉄道職員
永野信夫の生き様に涙を禁じ得ない愛と感動の長編小説。
新潮文庫 
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 17:40| Comment(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月06日

小説『月と六ペンス』モーム

口証や想像を交えて画家ゴーギャンの波乱万丈の人生を
描いたおすすめのサマセット・モームの名作にして代表作。

平凡だがまともな生活をしていたストリックランドは、
40歳の朝ふらりと家を出て、そのまま戻ってこなかった。
よき妻、二人の子供を残して。語り手であるぼくは、
ゴーガンの奥さんらに頼まれて、さして親しくない
彼に家に帰るように説得を試みるのだが取り付くしまがない。

彼の絵は、おせじにもうまいと言えるような代物でなかった。
何よりも、何を書いた絵かさえわからない拙いものだった。

ものすごく貧しい生活をしながら、「ずっと絵書きになりたかった」
と告白するゴーガン。「絵を描かずにはいられない」と豪語し、
その為には、元家族や他人の目なんて全く気にならないらしい。
偏屈で天邪鬼で、傲慢で、わがままな典型的な「ひとでなし」だが
その精神力や野性味あふれる姿には目を瞠るものがある。

ストリックランドは作家であるぼくや、おひとよし画家ダークと
交友を深める。ダークは、唯一彼をは天才だと見抜いており、
彼のことを大きく買っていた。しかし彼自身からは、辛らつな
言葉ばかり投げつけられていたのだが……。

トラブルを起こしタヒチに訪れたストリックランドは、
そこで出会った自然や人々と馬が合い生き生きと絵を描く。
しかしある日、ゴーガンが重体に陥り人のよいダークは、
彼を自分の家に泊めてやることにするのだが……。

生前全く認められなかった有名な画家というのは、驚くほど多い。
ゴーガンもその一人である。物語の中で、例えば200フランで
ゴーガンが半ば強引に「お礼」にと押し付けた絵が、後に
30000フランの値をつけた。物を捨てられない家の奥さんが、
屋根裏部屋に放り込まなければ、この絵は日の目を見なかった。

関わった人に多大なる迷惑をかけたこの天才は、時に人々を感動させ
時に「ひとでなし」となじられ、時に人に愛された。

後半に将来を嘱望されながら、あっさりその約束された
地位を捨てて、全く別の人生を歩んだ男の話がされる。
彼の生き方を笑う者もあるが、彼自身は幸せなのだ。
他人の人生が幸せだとか不幸だとか決めること自体傲慢だ。
伝記には描かれないその人物のあれこれこそが
その人を形作っているのかもしれないのだから。
「完全燃焼」。この作品を読んだとき、全く別の人生を
歩み始めたこの男はそんな人生を選択したんだと感じた。
新潮文庫
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 17:49| Comment(0) | 日本の 世界の名作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする