2018年08月11日

小説『青の炎』貴志祐介

平穏な生活は闖入者によって台無しに。
高校生の櫛森秀一は昏い情熱を燃やし、
完全犯罪を目論むのだが…。
現代版『罪と罰』開幕。

母と妹と暮らす秀一は湘南の高校に自転車で通う。
十年も前に母と離婚した三拍子揃ったダメな元父親が
強引に居座り恐怖を感じていた。
酒を飲み勝手に振る舞い目障り極まりない。
特に妹に危害を加えないかと危惧する秀一は
離婚の際にお世話になった弁護士に相談する。
しかし母の態度が定まらずいらだちを募らせる。

現状では警察も弁護士も事態を解決してくれない。
精神的に追い詰められ苦悩。
あんな人間のクズいっそ処刑してしまえば。
自分は『罪と罰』の主人公のように罪悪感に
とらわれず、疑われなければ捕らわれない。
不審を抱かれないような自然死に見える殺人。
計画を練り、少しずつ見えていく解決の手段。
もう後戻りできない…。

しあわせを守るために
犯罪に手を染める孤独で悲しい戦い。
手の中にあったはずの確かなしあわせが
こぼれ落ちていく。
彼を想う家族や同級生の気持ちを偽りながら
廻り始めた車輪はノンストップで止まらない。
物語は回転数を上げ続け終末へ。
角川文庫 
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:03| Comment(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月04日

小説『ひらいて』綿矢りさ

おかえり。
『インストール』、『蹴りたい背中』以降物足りなさを
感じていた綿矢りさファンとしてはこの作品は
そう言いたくなる傑作長編だ。主人公である
女子高生愛がエゴむき出しの恋愛感情によって
突き進み壊れていく様は狂気そのもの。
主人公愛の必死さ、ダメさに心を揺さぶられる。
先の名作2つと比肩する作品に仕上がっている。

綿矢りさ先生は『夢を与える』で正攻法でない
やり方でかりそめの愛を獲得した人物を描いている。
本作でもアンフェアの誹りを免れない主人公が登場し、
身勝手な言動を繰り返す。
主人公に共感できない部分も多々あるが、
恋は盲目であり、作中に登場する聖書に隠喩される
ように有史以来人間は罪深い存在。
あがき、もがき苦しむ姿は青春そのもの。

モテ女子愛はクラスメイトで地味男子である
たとえに惹かれ、人知れず注目している。
彼が机に忍ばせている手紙に興味を抱き、
同級生たちと共に深夜の学校に忍び込む。
手紙を盗み見た愛は、たとえが同級生の
美雪とやりとりしている事実に驚愕する。
糖尿病であることを公言し、注射する姿を
披露したかつてのクラスメイト美雪。
その行為から疎遠になり、教室でも浮いた
存在となった彼女とたとえが付き合っている?

合理的なリアリストだったはずの愛は
恋愛感情をこじらせてしまう。
修行僧のような男子高校生たとえ、
健気な薄幸の美少女美雪。
正しい、正しくないかはさておき、
精神的なつながりを重視する恋人たちに対し、
主人公はアンフェアなアプローチで対抗する。
エゴが表のテーマで贖罪と許しが裏のテーマ。
新潮文庫
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 08:00| Comment(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする