2018年03月23日

『怖い絵』中野京子

名画に隠された謎、秘密、暗喩、画家が意図した
怖い部分を解き明かしていくエッセイ。
当時の歴史的背景や社会情勢、死生観、倫理観。
画家が絵に託した想いを鋭く考察する。
絵を鑑賞することで画家、人間の本質が見えてくる。

観る者をうっとりさせる美しい名画がある。
絢爛豪華、威風堂々とした人物画、風景画。
しかしそこに隠された「悪意」や「寓意」に
気づいた時、全く違った絵として解釈できる。
自然豊かで穏やかな風景画の中にある絞首台。
絵の片隅にある小道具が類推される不吉な未来。
しあわせと富の象徴とされる4人の子供たちにも
「死」がつきまとう。そう、餓死、ペストや細菌、
恐怖政治や他国からの進攻、魔女狩りにより
当時の人々にとって死は身近な存在だった。

観る者におぞましさを感じさせる名画がある。
主題とされた人物がおぞましい姿で描かれていたり、
殺人現場を描いた作品。一つ目の怪物が描かれ、
巨大な鷲が子供をさらっていく。
観る者の心を不安にさせ、ざわつかせるよう絵。
わかりやすい恐怖ばかりではない。
日常・非日常、死が常に隣り合わせの残酷な世界。
将来への漠然とした不安から命を絶つ者もいる。
王族として君臨していた者が逆賊として処刑される。
マリーアントワネットを貶めるために悪意を持って
描かれたスケッチ。時の為政者に迎合しようと
描かれた作品。狂気の中で産声をあげたと思われる作品。

それらを鑑賞、アプローチ、考察していく中で
観えてくる新たな視点に触れるとき、知的欲求は刺激され、
安全な場所からの無責任で愉悦的な「怖いものみたさ」、
人間が本質的に持つ謎(恐怖)を探求する快感に気付く。
同時に名画によってもたらされる教訓や
地獄のような環境を生き抜いてきた人類の歴史を
垣間見える名エッセイである。
大学講師(教授)の文章はうまくない場合が多いが、
非常に読みやすく、かつ内容も優れていた。
角川文庫
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:03| Comment(0) | おすすめのエッセイ・私小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする