2017年06月28日

小説『公開処刑人 森のくまさん』堀内公太郎

「森のくまさん」は私刑による死刑執行人。
犯行声明をネット上で公開し世間に話題を提供。
被害者は生前に悪い行いをしていた悪党や小悪党であり
生前は加害者。よって世間では彼を支持する者も多い。
「正義の味方」、世直し的ヒーロー的立場を得た
森のくまさんこと連続殺人犯の正体は?

自殺をしようとしていた女子高生たちの前に現れたのは
救いの神だったのか?それとも悪魔だったのか?
最も解きやすい推理小説のひとつであり、
ツッコミどころも多いがやはり設定のインパクト、
森のくまさんの不気味さ、魅力、
サクサク読める平易な文章を評価したい。
単なるサイコパス的な連続殺人犯モノで終わらず、
犯人が悪意の種や社会不安をばらまいていく過程は
目をみはるものがある。宝島社文庫 このミス大賞
ラベル:推理小説
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2017年06月25日

小説『船上にて』若竹七海

未成年という立場を悪用する橋爪は同級生の姉に惚れ、
拒絶されたことから凶行に及ぼうとするが撃退される。
残念な男は残念ながら意識を取り戻し、逆恨み。
再び犯行を企てるのであった。【タッチアウト】

手紙を書くのももらうのも大嫌いという主人公。
これはきっと厳格でありながら冗談好きでもあった
はた迷惑な祖父の影響に違いない。
そんな彼女がどうしても手紙を書かねばならない
状況に追い込まれた。追い詰められた彼女は
手紙の書き方を記した一冊の本にたどりつき…【手紙嫌い】

言葉で、手紙で想いはどこまで届けられるのか?
5つの手紙に隠された秘密を追う【かさねことのは】

ナポレオンの頭蓋骨というインチキ臭い代物を
手に入れた苦労知らずのおぼっちゃんだったが紛失。
盗まれたと騒ぎ出し、居合わせた者を疑う。
巨大なダイヤモンドが忽然と姿を消した昔の事件を
解決した男の推理とは?【表題作 船上にて】
など8編を収録した短編集。講談社文庫
ラベル:若竹七海 短編集
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2017年06月21日

小説『穴』原宏一

富士樹海に死ぬためにやってきた男はロクじいと
名乗る仙人のような男と出会う。素直な男は
説き伏せられてしまい、同居して生きることに。
カズヒロという他人の名前を拝借し、洞穴の中で
縄文時代のような狩猟採集生活を営んでいたら、
不思議と楽しい。生きている感覚を肌で実感する。

そして新たな住人が。政治家秘書をしていた男は
裏切りに遭い、いけにえとして罪をすべて被せられ、
地検や刺客から逃亡を図っていた。疑心暗鬼に
かられる男はコタニと名乗る。
警戒心を持ちながらロクじいとカズヒロに接する。

温泉で出会った女はタツコと名乗り、いっしょに
生活を送ることになった。したたかで、男を利用
することで生き延びてきたタツコは平気で人を
裏切る峰不二子のような悪女。
カズヒロと親しくなったタツコは彼から綺麗な石を
プレゼントされる。妙に博識なロクじいから
モリブデンと言われるレアメタルだと教えられる。
もし鉱脈だとしたら莫大な富を得られるかも…
欲にかられたタツコによりサバイバル生活に
亀裂が生まれ、各自の思惑が交差する…。

不思議な老人ロクじい、素直で単純なカズヒロ、
計算高いクスブリコタニ、きままな女王様タツコ。
彼らがそれぞれめざし、掲げた理想郷、国とは?
現代の穴に落ち込み、竪穴式洞窟での生活の彼らが
思い描いた青写真とは? 実業之日本社
ラベル:原宏一 おすすめ
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2017年06月17日

小説『母恋旅烏』荻原浩

花菱家は出鱈目な父のせいでサイコロ的バクチ生活を
余儀なくされている。元々大衆演劇の役者であった父、
彼のファンだった母。兄、姉、そして僕。姉の子6人の
花菱家はけったいな仕事をしていた。
レンタル家族派遣業である。リクエストされた家族として
3時間数万円などの報酬を得ることで生活をしていた。

安定しない仕事なので家計は火の車であり、
ケンカは絶えず、借金取りから逃げる日々…。
それなのにあまり悲壮感が漂わないのは、
語り手であることが多いお調子者の僕の存在が大きい。
父に振り回される日々にいい加減うんざりした兄は
自立をめざし、姉は家を飛び出し夢を追いかける。
そして僕や母は…。笑いあり、涙ありの珍道中は
大団円を迎えるのか?双葉文庫
ラベル:荻原浩
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2017年06月13日

小説『わるいやつら』松本清張

病院を営む医者戸谷信一。複数の愛人を持ち
彼女たちを利用し金を巻き上げ、
手前勝手な理論で生きている冷酷な男である。
経営能力がなく毎月のように赤字を計上する病院。
その赤字は経済力を持つ愛人から引き出す。
不仲な妻とは離婚したいが、それにもまとまった
慰謝料が必要であり、現在の婚姻関係ですら
愛人への歓心、カンフル剤に用いている気すらする。
愛人たちとの関係、病院経営の圧迫から犯罪に
手を染め悪党に堕ちた戸谷。戸谷は医者という立場、
とりわけ死亡診断書を作成できる能力をフル活用。

自己の欲望の為なら平気で他人を利用する戸谷。
だが、経営者槙村隆子と出会い強く惹きつけられる。
彼女と結婚するには自分が経済力に優れた男である
ことをアピールする必要がある。友であり弁護士
下見沢に相談し、隆子の歓心を買おうとする戸谷。
しかし隆子は一筋縄でいかない女性であった。
更に、過去の悪事の捜査が進展しはじめ…。

物語は1960年頃描かれたが、この作品自体は
とにかくすごいの一言。主人公である戸谷は
清々しいくらいのわるいやつである。いわゆる
ピカレスク小説であり、読者を飽きさせない展開、
ミステリーとしても一級品である。
人がモンスターに変化していく過程、心理描写、
逆転劇に思わず鳥肌が立った。主要人物たちが
果たす役割を考えた時、無駄のなさに感嘆した。
新潮文庫 上・下巻 
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2017年06月10日

小説『犯人に告ぐ』雫井脩介

児童誘拐事件が発生し、身代金を要求する犯人を追う
神奈川県警は警視庁との合同捜査を決行。
しかし、手柄をめざす巻島史彦警視を提言により
神奈川県警が主導をめぐる捜査となった。
事件性及び注目の集まるこの事件は、最悪の結果に終わる。
記者会見で矢面に立たされた巻島は裕次郎の兄ばりの
大失態を演じ、非難を浴び事件は後味の悪い幕引きとなる。
事件後犯人と思しき「ワシ」を名乗る者から手紙が届き、
自己を弁護し、責任を転嫁する身勝手な内容だった。
この事件以降神奈川県警の不祥事が相次ぎ、
それから6年の歳月が流れた。

バッドマンを名乗る児童連続殺人事件が川崎で発生。
捜査は難航し住民の不安と不満は募る一方だった。
人を喰ったかのような犯行声明文に歯噛みする捜査陣。
曽根本部長は低迷する県内での犯罪検挙率に着目。
検挙率を上げている地域に着目し、巻島の名を思い出す。
劇薬とばかりに白羽の矢を立てた巻島を利用。
テレビニュースに現役捜査官として登場させることで
事件の解決を図るという劇場型捜査に乗り出した。
住民から情報を呼びかけることはもちろん、
犯人をあぶり出すことが主たる目的である。

マスコミを利用したこの捜査は一定の効果をあげるが
同時にその手法から警察内部や世間から非難を浴びる。
しかも公私混同に走る獅子身中の虫が捜査情報を漏らす
暴挙に出る始末。バッドマンを騙る模倣犯やいたずらも
相次ぎ、捜査本部を惑わすが思わぬ形で犯人に肉薄する。
この事件は絶対に自分が解決すると闘志を燃やす巻島は
犯人に「勝利宣言」を突きつけた。

過去の過ちとの対峙や警察官のジレンマ。
捜査陣の中に足を引っ張る存在を配置したこと。
報道が捜査の妨害になる可能性の示唆。
被害者家族への配慮。謝罪の難しさ。
多くの要素を内包した警察小説の名作。双葉文庫上下巻
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2017年06月07日

小説『月と雷』角田光代

親切な人の家を転々とするというでたらめな生き方の
母親に育てられた東原智。如才なく女性にモテる悟。
だがいざ結婚しようとしても、相手からはあっさり
断られ、首をかしげながら30代半ばを迎えた。
飯は外食ばかり、お菓子で済ませることも多い自分。
金が尽きればバイトするという根無し草体質。
女性の母性本能をくすぐるも、結婚相手とは捉えられない。
原因は生い立ちか…。

智はかうて母と共に転がり込んだ家庭で、
小学校にも行かず、裸になって自堕落に自由に
すごした同世代の女の子(泰子)のことを思い出す。
その子のことが運命の相手かもと思い込んで
会いに行くことに。泰子は智、そしてその母直子が
家に転がり込んだことがきっかけで父と母の関係が悪化。
家庭が崩壊したと思っていた。しかし、思い返すと
その怠惰で不思議な生活は幸せだったような気すらする。

仕事を通じて知り合った太郎と婚約も決まり、
しあわせをつかむはずだった泰子。
でもどうやら過去の不幸が追いかけてきたと直感した。
屈託なく話す智を泊める羽目になり…。

智の母親は60を過ぎても、未だに親切な人に
捨て猫のように拾われて面倒を見てもらっている。
究極の才能かもしれない。しかし、放浪の民のように
ひとところに留まらず思い出したように家をなくす。

泰子は音信不通となってしまった自分の母の消息を
捜してほしいと智に依頼した。智はテレビの
失踪人捜索番組の手を借りることを思いつく。

ある種の腐れ縁が、そして偶然の選択が関わる人の
人生を大きく変えてしまう。しかし不思議と人と
いうものは納まる所に落ち着くものなのかもしれない。
中公文庫
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2017年06月03日

小説『漁港の肉子ちゃん』西加奈子

悪い男にだまされ続ける肉子ちゃんと
漁港の街に流れ着いた私。無邪気で憎めない
太っちょ肉子ちゃんは他人に警戒心を与えない。
全然似ていない母娘と言われる肉子ちゃんとスリムな私。
この漁港の街で温かい人たちに支えられ生きている。

私ことキクりんは小学生の女の子。
子供っぽい肉子ちゃんのせいなのか大人びた少女で
本を読むのとバスケが好き。
才色兼備で周囲の評価も上々。
動物がしゃべっているのがわかったり、
三つ子のおじいさんの幽霊が見られる。
一方、肉子ちゃんは言うと…。娘からも心配される
脳天気で明るくだらしない性格で体型もだらしない。
この地域の有名人でゆるキャラ的人気がある。
キクりんは気恥ずかしいと感じてしまうこともある。

漁港の街で成長を遂げるキクりんは肉子ちゃんから
強い愛情を感じながら、日々を送っている。
女子同士の内紛、対立に巻き込まれうんざりし、
同級生二宮の奇態を目撃し、
水族館内を我が物顔で歩くペンギンカンコに注目。
淡い初恋を経験し、友情を取り戻す。
やさしさに包まれた瞬間に触れた時思わずこぼれる涙。
こういう作品に出会えた時は素直に快哉を叫びたい。
幻冬舎文庫
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 06:51| Comment(0) | TrackBack(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする