2017年04月28日

小説『ロック母』角田光代

【ゆうべの神様】
まるでビッグダディ的な両親の喧嘩が絶えず、
近隣の住人もろくな奴がいない。
閉鎖的な村に住む私は大学受験を控えた女子高生。
胸の中に殺意を隠しながら日々を送っていた。
とにかくこの街から出ていきたいと思いながら
恋人との逢瀬を重ね、勉強に身が入らない。
日々のもやもやは、いよいよ爆発し…。

【ロック母】
瀬戸内海の片田舎の島育ちの私は都会への
あこがれから大学進学を機に故郷を飛び出した。
思い通りにいかず、妊娠させた相手からは
堕胎を勧められ、結局ずるずる引き伸ばした結論は
島に戻りシングルマザーになることだった。
せめて家族や島の人々が祝福してほしい。
甘えたい彼女であったが両親はそのことに触れず
淡々とすごす日々。熟年離婚こそ断念した母だったが
私が高校時代日常を遮断するために聴いていたロックに
逃げ道を発見したらしい。何?この負の連鎖…。
生まれてくる子もきっと…。

【父のボール】
不幸は坂を転がるボールのようにやってくる。
近所で不幸が起きたら下に向かって不幸が起こる。
父の呪詛の言葉は大人になった今でも心に影をさす。
権力者として君臨した父もこどもの成長につれて
恥ずかしい父となり、母への仕打ち、そして死を通して
憎しむべき父と変わっていった。

父の死を見届けることで父とのつながりという
不幸の終焉を実感したい私は入院している父を見舞う。
最期の最期まで卑しく情けない父親の存在により
不幸をたまわる私が父の死を通して受ける感慨とは?

など7編を収録した短編集。この作品に流れる
テーマは怒りであり悪意である。海外に出かければ
異文化交流と言う名の理不尽な差別的扱いを受ける。
民族間同士の小競り合いに出くわす。
住民から嫌がらせを受け、怪文書が出回る。
爽やかさとは無縁の悪臭すら漂ってきそうな日常。
いがみ合いながら、でも人々は寄り添い合い、
結果傷つけ合うというハリネズミのジレンマ的恋。
壊れた世界でも生きていかなきゃいけない。ふぅ。
講談社文庫。
ラベル:短編集 角田光代
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2017年04月22日

小説『死亡フラグが立ちました!』七尾与史

都市伝説「死神」(殺し屋)を追う下っ端ライター陣内。
死神を記事にしないと干上がるので必死で捜索。
どうやら死神は実在するようで…。
知り合いのヤクザ松重と超人本宮の助力を乞うことにした
陣内は、松重の親分が死神に殺されたという情報を得る。
但し、事件性はない偶然が重なった事故死としか思えない状況。
入手した映像を必死で調べた結果思わぬ意図に気付き…。

一方、同じように事故として処理された事件があった。
疑惑の渦中にあった某政治家の秘書が交通事故により死亡。
目撃者の証言などから事件性はないと判断された。
しかし妄想刑事とあだ名される板橋、相棒の御室は
事件に疑問を持ち同僚に笑われながら独自に捜査を進める。
17年前に発生した一家が皆殺しにされた田中事件。
捜査官の一人として事件に関わり突飛な推理を披露し、
失笑を買った板橋。事件の被害者少年と同級生の御室は
過去の記憶から、大胆な容疑者を連想し推理を展開。

死神に魅入られた者、そして死神を追う者には、
死神のワナが張り巡らされ、死がつきまとう。
荒唐無稽かと思われる都市伝説ではじまった物語は
思わぬ展開と広がりを見せる。登場人物たちの発言、
死神の手によって立ちまくる死亡フラグ。
死に抗う者たちの戦いを描いたエンターテインメント小説。
本来恐怖を感じるはずの予告殺人を笑いの要素である
緊張と緩和を用いバカバカしさを演出しまとめている。
宝島社文庫このミス大賞シリーズ。
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2017年04月19日

小説『虚報』堂場瞬一

自殺教唆を疑われる大学教授のサイトをめぐり
新聞記者たちがその真相に迫っていく社会派作品。
なぜ上山は自殺を勧めるかのような記事を書き、
質問者に答えていたのか?
特ダネをめざすやり手の市川、記者経験の浅い長妻は
この事件を追ううちに窮地に立たされ…。

相次ぐビニール袋集団自殺の被害者たちは、
上山教授が運営するサイトを閲覧していた。
その内容は自殺教唆と受けとられるような記事で
自殺の決め手になったのではないかと疑われた。
サイトは封鎖され、上山教授は会見により
自殺ではなく自死であり、直接自殺を促したことを否定。
マスコミは上山に論破され
ネット上では彼を支持する者も多い。しかし新聞社、
雑誌系は上山の言動に懐疑的であり追跡取材。
また警察官も自殺教唆(自殺ほう助)などをめぐり
彼をマークしていた。

市川は上山と知り合いでその言動に首をひねる。
彼らしくない言動であり疑問が尽きないので
直接取材に乗り出した。自殺や尊厳死、安楽死
をめぐる問題に切り込んだ社会派ミステリー。
新聞社内で発生するぎすぎすした関係、
まさに生き馬の目を抜く報道合戦。
生き死にを懸けた人々の戦いを鋭く描く。文春文庫
ラベル:堂場瞬一
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2017年04月15日

小説『古書店アゼリアの死体』若竹七海

不幸続きの相澤真琴は念願だった海でバカヤローと
叫ぶために神奈川県葉崎市に来たのだが死体が…。
なんてついてない日なんだ。
と叫びたくなる日々だが、古書店アゼリアの女主人
前田紅子から店番を任された。
ロマンス小説という昔取った杵柄的知識が生きてきた。

莫大な財産を持つという紅子は名門前田家の出身で
ここ葉崎で権力者として知られているひとかどの人物。
恩義を感じている者も多いのだ。意外に忙しい店番を
こなしていた真琴だったが新たな死体との遭遇…。
数多くの秘密と問題を抱える前田家の因縁が噴出し…。
入り組んだ内容と演出が心憎い推理小説。
皮肉のきいたオチが印象的。光文社文庫
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2017年04月11日

エッセイ『養老孟司の旅する脳』養老孟司

世界中に旅する理由は昆虫採集でありライフワーク。
解剖学教授でありながら、脳に関する権威とされる
養老先生による語りおろしエッセイは
目から鱗が落ちる発想も多く読んでいて楽しい。

なぜアフリカ人は8頭身のカッコイイ体型なのか?
体表面積を増やすことで熱を逃がすため。

十人並の顔はたいしたことないが、
百人の顔を平均化すると美形になる?

日本人の脳が漢字とかなを読む場所は違う?

東大医学部に合格する人間は血圧に換算すると
300という異常値であり、これを正常値に戻す。
つまり凡人に完治させまともな感覚を持つ医者に
する必要がある。など2〜3ページごとに語られる
エッセイなのでサクサク読める。小学館
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2017年04月08日

小説『この国。』石持浅海

一党独裁の管理国家を誇るこの国は繁栄をたどり
管理体制側は最高の国を自負する。しかし、
反政府を掲げる反対勢力による妨害を受け…。

200年にわたる鎖国を解禁し、欧米列強の魔の手から
なんとか植民地化を避けてきたこの国。
第一次戦争、第二次戦争に介入せず、それ以降も
平和主義を貫き現在に至っている。

主な特徴としては、公開処刑(死刑執行)が娯楽化し、
小学校卒業までの結果で職業などの将来が決定される。
士官学校は形骸化し、実質的に公務員を作り出す組織。
エイズの蔓延を防ぐ目的で環境が整えられた売春宿は
政府が管理する。(表向きは売春を認めていない)
世界に類を見ないほど街はキレイで治安はよく、
失業率は1%以下、世界からの評価も高く老後を
この国ですごす海外からの永住者も多い。
しかし不満は募るもの。
そして同時にどんな集合体においても水面下、意識下では
歪でエゴが蔓延する危険を多分にはらんでいる。
国家転覆、政権打倒を掲げる反政府組織松浦らは
治安警察官番匠に戦いを挑み続ける。

この国のため、この国のあり方をめぐり
頭脳戦を繰り広げる二人は、好敵手にして
不倶戴天の敵であるお互いに殺意をぶつけ合う。
国レベルのマクロな問題でありながら、
個人レベルのミクロな私情をはさんだ頭脳ゲームを
制するのは果たして?光文社文庫
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2017年04月05日

小説『きりこについて』西加奈子

きりこと賢い猫ラムセス2世による強い絆と
再生の物語を描いた心温まる物語。
この一冊で多くの人が救われますように。

美男美女の両親であるパァパとマァマ、祖父や祖母の
悪い所ばかりが遺伝してしまったぶすのきりこ。
親から世界で一番かわいい子として育てられ、
うちって世界一かわいいこやねん!と自信満々。
周囲の大人も同情心と優しさからきりこを取り立てる
発言を繰り返したためこどもたちから尊敬を集める。
遊びにおいても「きりこルール」(彼女による鬼指名)や
きりこに都合のよいルールがまかり通っていた。
賢く超然とした存在として、こどもたちをうっとりと
陶酔させるきりこの快進撃は小学校でも通用。
そんなある日きりこは体育館裏で黒猫と出会う。
かわいいと言われることを嫌い、賢いと言われることを
望む黒猫はラムセス2世という立派な名前を頂戴した。
驚異的な知能を誇るラムセス2世は人語を解し、
きりこは猫に耳を傾ける度量の持ち主だった。
2人はお互いを尊重し、毎日を過ごすうちに会話できる
ようになっていった。

初恋の相手だったこうた君にラブレターを渡した結果
「ぶす」という言葉を投げつけられた。
強いショックを受けたきりこであったが、
なぜという疑問がぬぐえない。両親や猫たちから
容姿を褒められる自分がなぜぶすなのだろう?
魔法がとけたかのように周囲のきりこへの扱いは
変わっていった。11歳になった小学生たちは
かわいいという容姿に対して敏感となり、
おばさん化していた同級生だけがきりこの友達に。
でもきりこは自分がぶすだと思っていなかった。

中学生になり、ますますかわいい女子がモテる。
ある日、友達の書いていた少女漫画のヒロインから
きりこは自分の顔が彼女の顔と対極にあると気付く。
学年の美少女ともてはやされる子たちは、なるほど
漫画の美少女と呼ばれる容姿をしていた。
自分はぶすであり、心ない同級生からぶすと
呼ばれても仕方のない存在と打ちのめされたきりこ。
ひきこもって、彼女のことを強く尊重してくれる
猫にあこがれるようになり夜型の生活をするように。
きりこがひきこもっても、ただそこにいるだけでよいと
両親の愛情は揺るがなかった。

猫が至上の喜びと考える睡眠に没頭していたきりこ。
ある日夢の中で泣いている女の子と出会う。
きりこは自分にSOSを出している存在に気付き、
外の世界に歩み出す。ひとりの人間、一匹の猫の
運命的な出会いによって、助けられる者たち。
やさしさを忘れそうになったとき読んでほしい
極上の一冊。価値観は人の数だけあって
自分にとって大切なことは他人が決めることではない。
角川文庫
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 08:20| Comment(0) | TrackBack(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月01日

小説『仮面同窓会』雫井脩介

理不尽な体罰的指導を強制されていた高校時代を
思い出し、仕返しを企てることにした4人。
20代後半になりながら体育教師樫村から受けた傷は
洋輔の中に未だ尾を引いていた。

高校時代あこがれていた美郷をストーカーから守った
ことで親しくなり、パッとしない日々に潤いが生まれた。
同窓会にやってきた洋輔が見た者は、自らの行為に
何の疑問も反省もせず生きている樫村の姿だった。

樫村の健在をおもしろく思わない皆川、大村、八真人は
「仮面同窓会」を開き梶村に制裁を加えることを発案。
洋輔も断り切れず、4人で樫村を拉致して彼が自分たちに
強制させていた天突き体操をさせることにした。

溜飲を下げることに成功した彼らは意気揚々と引き揚げた。
しかし、樫村が死体で見つかったことから疑心暗鬼となり
自分たちの中に犯人がいるのではないかと思い出す。
過去の事件が引き起こした因果応報的ミステリー。
関係者は皆沼に引きずり込まれていく。
姿は見えないが声だけはする不思議な兄の存在。
そして物語に隠された伏線回収が見事だ。幻冬舎
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:54| Comment(0) | TrackBack(0) | おすすめの長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする