2017年03月29日

小説『御不浄バトル』羽田圭介

電通ではなく電信に入社。ブラック企業だった。
教材を法外な値段で売る詐欺会社の事務職の僕は
徐々にこの会社の実態に気付いていく。
まともな精神の者は半年で会社を去り、
精神が麻痺した社員はインチキ教材を売りさばき
報酬を得て、ぜいたくな暮らしに走る。
人の嫌がることを進んでやれる(悪い意味で)。
そんな鈍感な者だけがいられる場所。
それが電通。おっと間違えた電信だ。

主人公の僕が心を落ち着けられる場所はトイレだ。
駅のホームにある比較的綺麗な個室を確保したいと
今日も僕は速足で歩く。常連メンバーと出くわす。
緊張感漂う会社の中で僕にとって安寧の場所。
トイレの中だ。食事もここで行う位だ。
欲求不満すらもここで処理する。
絶対不可侵の聖域。それはトイレである。
それにしても排泄物の描写がリアルすぎる。

僕は何とか詐欺的勧誘に関わらないように
お茶を濁してきたが、上司から暴力的な制裁を受ける。
本格的に会社を辞めたいが、会社都合による退職を
めざす僕は証拠集めに乗り出す。恋人や友人の支え、
トイレの中でこっそり発揮されるバカバカしい戦い、
ブラック企業の実態、サラリーマンの苦悩を描いた問題作。
短編「荒野のサクセスも収録」 集英社文庫
ラベル:小説 羽田圭介
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2017年03月27日

小説『黒い福音』松本清張

戦後の日本で暗躍したキリスト教団体の腐敗、隠蔽体質。
そして及び腰になってしまった捜査関係者の哀愁を
見事に描いたミステリー。実際の事件ベルギー人神父を
容疑者とする日本人スチュワーデス殺人事件を題材に、
迷宮入りした未解決事件のアンサーを投げかける。

戦前から日本に布教目的で存在したバジリオ会は
表向きは敬虔で戒律を重んじる清貧な宗教団体。
だがその裏では海外からの救援物資である砂糖などを
横流ししたり、麻薬の密輸に手を染める邪心団体である。
穏やかで明るい笑顔に隠された神父たちは裏では
日本人を侮り、汚い言葉を吐く悪魔たちである。
悪魔たちは勢力拡大のために悪事の限りを尽くし、
豊富な資金を作り、破戒僧となり愛人を囲う。

物語は、某宗教の信者でありかつての英雄的行為から
物資の貧しい時代でありながら贅沢な暮らしをしている
ヤス子という女性。そこに足しげく通うビリエ神父の
秘密の暮らしを描くところからはじまる。その家には
人目を忍ぶかのように自動車が次々と止まるのである。
穏やかで尊敬を集める神父の裏の顔は悪徳商人。
彼は信者であり優秀で素直な少年トルベックに目をかける。
期待通り好青年に成長したトルベックは女性信者たちの
中でアイドル的存在になる。そうすると自然の摂理で
トルベックは女性と親しくなり、戒律を破るようになる。
それこそ神に祈ることを忘れ、女性に溺れる。
しかしそのしあわせは長くは続かなかったのです。
そう教会は裏の顔を持っていて、トルベック神父に
会計係という教会の暗部とも言える悪の片棒を担がせる。
トルベックは自分の恋人を麻薬の運び屋にするように
圧力をかけられる。
閉鎖的な組織の中で絶対的な権威主義がまかり通る世界。
その中で悪魔のささやきにより犯罪に手を染めてしまう。

事件を追う警察関係者、事件記者たちは宗教団体が
事件の鍵を握ることに行き着く。
容疑者が宗教団体の神父だったことから捜査は難航。
犯罪集団は宗教的立場や、日本での強い立場を悪用。
また政治的駆け引きから彼らを追う警察に上(外部)
から強い圧力がかかる。必死の捜査は実を結ぶのか?
新潮文庫 
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2017年03月24日

小説『ふる』西加奈子

他人からやさしいと評される池井戸花しすは、
AVのモザイクがけの仕事をしながら、
いろんな場面で音声の隠し録りをすることである。
花しすは人に見えない不思議な白いわたのような
ものが見えるのである。(まっくろくろすけの
白バージョンのようなもの)。ふわっと現れる。
人を傷つけず、周囲の空気が悪くなることを
極端に怖がる花しすは気遣いの日々を送る。
そしてこっそり隠し録りした人々の会話を聞き
安心したいのである。自分がいじられキャラであり
常にオチのような存在でありたいと願う花しす。
そんな彼女にも転機が訪れ…。

彼女の過去と現在が語られる過程で、謎の人物
新田人生が現れる。姿形を変えて次々と…。
でも主人公である私は全く気がついていないのだ。
他者に対するやさしさは同時に他者に対する無関心。
傷つけないようにする他者への過剰な気遣いは
本当は自己防衛だった。クライマックスで彼女に
「ふる」ものとは?まさに読ませる、ひきこませる。
言葉と表現の魔術師による傑作。河出文庫
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2017年03月20日

小説『そして誰もいなくなった』アガサクリスティー

インディアン島に集まった10人は童謡見立て殺人の
犠牲となり次々と命を落としていく。

集まった10人の人の生死に関わる過去の犯罪が暴かれ、
彼らの中に強い動揺が走る。
招待者U・N・オーエン(unknown)を名乗る
謎の人物の仕業なのか?悪趣味な演出に憤る彼女たち。
招待者の一人が毒殺されてしまう…。マザーグースの
「10人のインディアン人形」になぞらえた殺人だった。
犠牲者が続いたことから、第三者の存在を疑った彼らは
捜索に繰り出すのだが…。

明確な意思に基づいて殺人を続けていく犯人。
その中で疑心暗鬼に陥っていく招待者たち。
童謡のように誰もいなくなってしまうのか?
1億冊発行された世界的大ベストセラーであり
ミステリの女王、推理小説の最高傑作と言っても
過言ではない。15年ぶりに読んでもやはり名作。
感動は色あせない。早川書房
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2017年03月18日

小説『ファイヤーボール』原宏一

商社マンとして猛烈社員的働きをしていた咲本。
スペインのミゲル社長との大きな取引をまとめ
意気揚々と帰国した咲本。
しかし社内抗争が勃発し、閑職に追いやられてしまう。
暇なら町内会の仕事やってよと妻から言われ、
しぶしぶ会議に赴く咲本。

だがこの町内会大きな問題をはらんでいた。
元校長、元町内会長武村が院政をしくこの町内会では
横領、使い込み、業者への恫喝と政治的腐敗が進んでいた。
小規模な祭りとは思えないような予算が組まれるという
オリンピック的な腐敗に首をかしげた咲本は
「今より十倍盛り上がる祭り」を生み出すと豪語。

世界の祭りを調べた咲本は火の玉祭りの存在を知る。
まぁこんな危険な祭り無理だけど、本命のペット祭りを
選ばせるために提案する(捨て案)と思っていた。
しかし、武村の卑怯な策略により可決されてしまう。
どうせ泣きつくだろうとバカにされているのだ。

数少ない味方である役員と共に本気で火の玉祭りを
開催することにした咲本。オラ祭りするぞ!
家族や地域住民と共に祭りを盛り上げる決意を固めるが
既得権益保持に回る武村一味による妨害もあり苦戦。
やりたいからやる。
ファイヤーボールのように燃え上がった想いは
人々の心に伝播していき…。PHP文芸文庫
ラベル:原宏一 小説
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2017年03月15日

小説『私のなかの彼女』角田光代

祖母の書いたと思しき小説の発見。
書きたいという気持ちが生まれたことで
変わっていく自分の気持ちと人生。
離れていく恋人仙太郎との距離。
そして自分を縛り付ける母、仙太郎の言葉。
それでも私は書く…。

バブル期に大学卒業を迎えることになった和歌は
同棲相手仙太郎との結婚を望んでいた。
宇都宮からやってきた特別自信もない自分は
出版の世界でちょっと名の知れた存在である仙太郎に
強い影響を受けながらなんとなく生きていた。
保守的な母は和歌の社会進出や進学にいい顔をせず、
常にプレッシャーをかけてくる。
特に母の母である祖母の存在が大きい。
「男と張り合おうとするな」という言葉を残した
祖母は物書きを志し、家出した過去がある。
祖母の行為を恥と捉えていた母は、
祖母を醜女(しこめ)と呼び、忌み嫌っていた。

しかし、何の因果か和歌は祖母の過去を想像し
小説で賞をとってしまう。妄想と現実の中で生きる
和歌はときに心を乱し、ときに寝食を忘れ仕事に没頭。
かつて望んでいたはずの仙太郎との暮らしであったが、
徐々にほころびが見え始め…。

変わっていく自分と環境の中でもがきながら
舟をこぐ和歌。漕ぎ手は誰でもない自分。
失ったものもあるが手にしたものも必ずある。新潮文庫
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2017年03月10日

小説『太陽の坐る場所』辻村深月

高校卒業から10年。毎年開かれるクラス会に
女優キョウコの姿はなかった。
神話を題材とした映画の活躍により、
東京の看板にその姿を見せるほどの芸能人になった彼女。
同級生たちにとって話題に上らないことはない。
なぜ彼女が姿を見せないのかを考える同級生たちは
やはりあの恋愛がからんだ「革命事件」が関係している
と考えていた。かつて近い所にいながら、
現在は遥か高みに行ってしまった同級生の姿は
太陽のようにまぶしすぎて実体をつかめない。
登場人物たちは本音を隠しながら、彼女に呼びかける。
キョウコに出てきてほしい、と。
徐々に明かされていくキョウコの高校時代の姿。
そこで描かれるのは女王が君臨する学園ヒエラルキー。
恋愛のためにこの高校を選び、自分を輝かせるために
選ばれた臣下としての女友達。女王の顔色を窺い、
苦汁をなめさせられていた者たちにより信頼を失った
女王は、ある事件をきっかけに…。

この物語は読んでいると違和感を覚える。
それは徐々に明かされていくのだが、伏線の張り方、
凝り方は小説じゃないとできない手法である。
登場人物たちの中には歪んだ性格の者も多く、
勘違いが引き起こす長年の葛藤も描かれている。
登場人物の心情の変化、選んだ行為、
高校における立ち位置と現在の立ち位置の変化を
描いたのは流石のひとこと。イヤミスと思わせて
うまく消化させてくれるうまさがある。文春文庫
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2017年03月07日

小説『D坂の殺人事件』江戸川乱歩

夢遊病に苦しむ男の苦悩、
退屈に苦しむ男は悪魔的頭脳で連続殺人を犯すが捕まらず、
堕胎を促す植物を知った妊婦は、
妻に裏切られた男の苦悩、
戦火の街で出会った美女、
顔を柘榴のように潰された死体から類推される真相、
人間嫌いの男が愛した女に抱いた憎しみと情念は
グロテスクで酸鼻を極める物語を作り出す。

密室状況下に起こった事件。目撃者二人の証言は
真っ二つに分かれ、犯人像が見えてこない。
名探偵明智小五郎は思わぬ視点から真相をあぶり出す。
挿絵を交えた本格派推理短編集。暗い時代背景、
人の持つ暗部や弱さを描かせたら随一。創元推理文庫
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2017年03月04日

小説『ふむふむ おしえて、お仕事』三浦しをん

16人の女性プロ仕事人との対談を収録した
インタビュー集。仕事と向き合い、人の生き方を
学ぶことで思わぬ発想や視点を持つことができる。
タイトル見ただけで興味を覚える職業がずらり。
【靴職人、ビール職人、染織家、活版技師
女流義太夫三味線、漫画アシスタント、
フラワーデザイナー、コーディネーター、
動物園飼育係、大学研究員、フィギュア企画開発、
現場監督、ウエイトリフティング選手、
お土産屋(2人)、編集者】である。

有名漫画家から引っ張りだこの萩原さん、
某芸能人や某社長と知り合いのオカマイさん、
ペンギン好きが高じて飼育係になった高橋さん、
エヴァ、ハガレンなどのフィギュアも制作澤山さん、
トンネルの現場監督を務める亀田さん、
著者もあこがれていた編集の仕事に携わる国田さん
など思わずふむふむと楽しんでしまう一冊。
人を喜ばせたい、人の生活の役に立ちたいプロたちの
言葉に思わず頭が下がります。新潮文庫
ラベル:三浦しをん
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:30| Comment(0) | TrackBack(0) | おすすめのエッセイ・私小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする