2017年01月27日

小説『砂の王国』荻原浩

どん底を味わった山崎は起死回生をかけ
2人の天才と共に新興宗教を立ち上げた。
自分を見捨てた世間を見返すために、かつて
自らが積み上げた砂の城をあえて壊すために。
そう、これは復讐の物語だ。

一流証券会社で数億円の金を動かし、高額報酬を受け
裕福な暮らしをしていた山崎遼一。
酒により病気となり職を失い、妻に離婚を切り出され、
住居費が払えなくなり、住み家も失った。
なけなしの金は心許した人間に持ち逃げされた。
40歳過ぎの山崎は持ち金3円というどん底の状態で
ホームレスとなった。そんな彼に対し世間は冷たかった。
まともな食べ物も得られず、お役所の対応はずさんで冷酷。
住所のない山崎はまともな職につくこともままならない。
絶望感にさいなまれる彼に救いの手を差し伸べてくれたのは
神に愛された容姿と美声を持つホームレス仲村。
仲村は優れた容姿によりファンから手厚い施しを受けていた。
惜しげもなく食料をわけてくれた仲村により山崎は救われ
なんとか命を長らえた。

生まれて初めて本当の感謝の念を持った山崎は
うさん臭い辻占い師龍斎の下でサクラをし、少額の報酬を得る。
コールドリーティングとはったりを駆使する60過ぎの
この男は酒とバクチに目のないどうしようもない男。
しかし門前の小僧習わぬ経を読む。40の手習いで山崎は
龍斎のやり方をヒントに詐欺的手法でお金を得る。
競馬狂いの龍斎と共に競馬場にやってきた山崎は
自分の命運を馬に託し、一発逆転を図る。

もう人に使われるのではなく、自分は使う側に回りたい。
山崎は仲村、龍斎と共に新興宗教団体「大地の会」を立ち上げた。
超然としたカリスマ性と美声を持つ仲村は教祖様大城に
祭り上げた。山崎はナンバー2の事務局長木島と名乗ることに。
表向きは大城を立てるが計画や実権を握るプロデューサー。
龍斎は小山内師範代と名乗らせ、教義の文書を書かせ
信者の相談に乗るセラピスト的役割を担わせる。
手探りで始めた大地の会であったが、仲村の持つ
圧倒的存在感や山崎、龍斎の手腕により信者を獲得。
救いの手を求める者たちは次々と現れた。
三人はそれぞれの持つ人間力により信者たちの心を掴み
熱狂の渦に落とし、勢力を拡大していく。

絵空事かと思われた山崎の青写真であったが、
幸運も舞い込み、大地の会の信者は飛躍的に増えていく。
桁違いのお金を信者たちの「寄進」により得るようになる。
人々はこの「祭り」に酔い、宴はつらい現実を忘れさせる。
しかし、山崎につきまとうのは過去から続く悪夢。
父の浮気性と言葉の暴力により、母は宗教に走った。
まともな家庭で育てず、狂信的な振る舞いの母のせいで
友達もつくれず孤独で不遇なこども時代を過ごした

山崎はこどもを不幸にするからと家庭でもこどもを作らず、
そして未だに偏頭痛と悪夢に苛まれていた。
おまけに宗教団体というややこしい商売をはじめたことで
内部対立、外圧はひっきりなしに起こり悩みは尽きない。
面倒なことは自分がやらなければ気が済まない性格の上、
どこかで悪に徹しきれない所がある。
そもそも悪の片棒を担がせるのに選んだ相手も危うい。
龍斎は父の失踪によりまともに就学できず退廃的な生き方を
選ぶしかなかったアウトロー。仲村は難病が原因で、
自己を確立できずドロップアウトしていた。
砂のように危うい関係、そして砂のように危うい組織。
こどものときに、そしておとなになってから
積み上げている砂のお城はもろく、はかないものだった。
しかも最後の拠り所、神様はいないという皮肉。
自分自身を欺いている内は助けなんて得られないという真理。
魂揺さぶられる驚愕の傑作長編。上・下巻。
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:55| Comment(0) | TrackBack(0) | すごくおすすめ長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする