2016年10月29日

小説『紙の月』角田光代

評判の良い銀行員梅澤梨花が1億の横領によって得たものとは?

バンコクに逃げた梅澤梨花は現実感のない逃亡の日々を送っていた。
回想するのは自らの激動の日々。いつから壊れていったのか?
理想を追求するうちに彼女の根幹にあったはずの「正義感」は抜け
かりそめの華やかな「現実」を当たり前のこととして享受する。
育ちもよく、多くを望まなかったはずの梨花であったが、
新しい恋のはじまりと結婚生活の潤いのなさが彼女を犯行に
走らせたのか。彼女と関わりのある人間による回想とヒロイン
梨花の回想によって明らかにされていくひとつの真実。

何気ない日常の言葉によって摩耗していくヒロインたち。
てのひらからすべり落ちていくしあわせは砂のよう。
多くの喜びを与えてくれる「お金」はときに正常な判断を狂わせる。
お金を得やすい立場にいた梨花は不当なやり方で次々とお金を得る。
登場人物たちの正当化、合理化による言動や心理描写を鑑みるとき、
あまりにも脆弱で頼りない人間関係だったことに気付かされる。
同時に、犯罪者という「向こう側」に飛び越えてしまう危険性は
日常に潜んでいるのだと痛感させられた。また、意図的にしろ
無自覚にしろ、金を集る(たかる)人間の感覚が麻痺していく過程、
当然のこととして受け入れてしまう不気味さも見事に描いている。
ハルキ文庫
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2016年10月24日

小説『さよなら妖精』米澤穂信

1991年4月。人口10万人ほどの街に異国の地から
同年代の少女がやってきた。マーヤとなのる少女は
頼りにしていた人物が亡くなっていたことから、
居住地を探していた。行きがかり上、マーヤが住める場所を
提供したおれこと守屋は同級生たちと共に彼女に
日本のことを教えていく。
彼女の住むユーゴスラヴィアは6つの国による共和国。
不安な政情を抱えており、マーヤは政治家となることを
目標にしていた。楽しかった日々はあっという間に過ぎ
いよいよマーヤが帰国するとき、おれは動いた。
妖精が去った街で、悲しみに暮れるおれたちの下に
開戦のニュースが舞い込んだ。
マーヤとの再会とその無事を祈るおれたちは、
そもそも彼女がどこに住んでいるのか?という謎を解く
ために記憶を探っていく。正統派青春群像小説。
創元推理文庫
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2016年10月19日

小説『なかよし小鳩組』荻原浩

頼みの綱だった取引先の社長が捕まり、いよいよ
倒産も秒読みかと思われた広告会社に大きな仕事が舞い込む。
これで危機を免れたと喜ぶ社長。紹介相手が評判の悪いあいつ、
しかもなんでこんな零細企業に依頼するのかといぶかしむ杉山。
杉山の不安は的中。小鳩組は暴対法によりイメージアップはかる
ヤクザ集団だった。我々のイメージは悪い。どうにかしろ。

強面に脅されながら、あやしげな仕事ばかりのこの連中の報酬により
倒産こそしないで済んだが、戦々恐々としながら仕事をするはめに。
変に肝が据わった同僚の村崎、猪熊は淡々としているが自分は違う。
職場に乱入し、我が物顔をする万年ヒラ構成員河田にイラつく杉山。
そんな彼の唯一のしあわせは別居中の元気印娘早苗の存在。
束の間、嫌なことを忘れる杉山であったが小鳩組の頭脳役である
鷺沢の策略により大ピンチが訪れる。
こどもの一挙一動に左右されてしまう大の大人たちは
親のメンツなのか意地なのか走り出すことに。
愉快痛快なユーモア小説。満足の一冊。集英社文庫
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2016年10月15日

小説『オロロ畑でつかまえて』荻原浩

日本一のド田舎と紹介されたこともある過疎化の
牛穴村は起死回生をかけて村おこしを考える。
村民の方言はきつくて、慣れない者には外国語にしか
聞こえない。村一番のインテリで大卒の慎一は
純朴な村の男悟と共に東京にやってきた。
大学の知り合いで広告代理店で働く男に依頼するが
いいかげんな対応をされ、肩を落としていた。
倒産寸前のプロダクションユニバーサル広告社に
依頼した結果、一も二もなく快諾。
村に訪問し、村おこしを手掛けることは即決定した。

栃木県の秘境の地牛穴村に訪れた広告社の杉山ら三人は
セールスポイントがない村に四苦八苦。
意外においしいオロロ豆こそあるものの、
不思議な花だの見かけない鳥だのではパンチが弱い。
困りきった杉山は、この村にある龍神沼に注目した。
ネーミングがいい。これはなんとかなるかもしれない。
やらせをすることにした。
一体どうなってしまうのか?(ガチンコ的ナレーションで)

家の庭探して見つからない幸せはどこに行ってもない。
村に住む人たちや杉山たちは本当の幸せを見つけるのか。
集英社文庫
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2016年10月08日

小説『犬はどこだ』米澤穂信



皮膚アトピーにより休職を余儀なくされた私はリハビリを兼ね
探偵事務所をはじめた。犬探し専門にする予定だったのに
友人の紹介でやってきた依頼は人探しだった。
これは荷が重いのではないかと心配する私だったが
結局引き受けることになった。
都会から謎の失踪を遂げた女性を追う私の下に、弱小剣道部の後輩
はんぺーが現れ、助手にしてほしいと頼まれた。
フリーターをしているのだが、私立探偵というものに
強いあこがれを抱いていた。さりとて自分で起業するほどの
器量はない子分体質だからぜひ雇ってほしい。困った。
ためしに舞い込んだ古文書の由来調べをするか尋ねたら
やると言うのでやらせてみることにした。

依頼主により失踪した女性の痕跡を追う私は
彼女の残した足跡を見つける。徐々に事の真相に迫る私。
一方、古文書を調べていたはんぺーも、名著を残していた
歴史研究家の本の中身を知る算段を得る。
着実に成果をあげるはんぺーに脅しをかける謎の男。
狂犬に襲われる私。失踪した女性を追う私は、失踪の原因と
なったトラブルを知り、関係者に迫る死の危険を感じる。
タイトルが暗喩していた内容や古代の人々の戦いを知る時
物語により強い厚みが加わり、結末も納得の傑作。創元推理文庫
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2016年10月01日

小説『ヤッさん』原宏一

若くしてホームレスになってしまった男タカオを救ったのは
誇り高き食通のホームレスヤッさんであった。
彼の叱咤激励により身体と心を鍛えられたタカオは
銀座を拠点に築地の名店で歓迎され食を振る舞われる
この謎の男に弟子入りし大切なものを教えられていく。
しかし、人を良くすると書く「食」の世界にも仁義を通さず
自己の利益に執着した輩ははびこっていた。
自分によくしてくれた人々に迷惑をかけてしまったタカオは猛省し
一旦は姿をくらます。
温情により、復帰したタカオは仁義を通さぬ輩に対抗しようと
策をめぐらした。そば職人をめざす少女ミサキ、
韋駄天トラック龍次さん、口は悪いが人情家なオモニらに
支えられながら、事件を解決していく人情グルメ小説。双葉文庫
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