2016年08月27日

小説『新世界より』貴志祐介

人類は呪術(超能力)を手に入れ、新世界に突入した。
1600年後の日本を舞台に、こどもたちは大事なことを
隠された世界で大人たちの庇護の下、生きていた。
美しい世界に隠された様々な歪(ひずみ)、秘密と負の歴史。
新人類が支配するバケネズミは高い知能を有し醜く
こどもたちが生きる世界では目に触れないようにされている。

主人公にしてこの物語の語り手である早季は、幼なじみである
瞬、覚、真理亜と共に過ごした日々を回想する。
美しく輝いていて、責任を負うこともなかった青春時代。
呪術を身に付け、切磋琢磨していく学校での思い出。
ルールを破ったことで生じた身の危険と喪失した力。
垣間見えてきた社会の歪みと大人たちが隠している真実。
恋愛感情に似た友情、あどけない愛情。
掴んだ砂のように掌から消え落ちていく記憶たち。

人類はかつて起こった忌まわしい大虐殺事件を引き起こした
悪鬼、業魔の誕生及び暴走を危惧、反省した。
戒めをこめて、自らの超能力を
人間への攻撃ができないようにブレーキをかけた。
そして、戦闘能力に長けた猫などを作り有事に備え、
彼ら自身も超能力の向上に努めていた。

この美しくもグロテスクな世界では危険因子になりそうな
こどもはいつの間にかいなくなってしまう。そして、
彼、彼女を知るこどもたちもその記憶をなくしてしまう。
早季たちはあるとき、この世界に隠された不都合な真実、
かつて人類が行ってきた業の深い歴史を断片的であるが知る。
都合の悪いことは隠され、望まれぬ存在は消される。
人でありながら家畜のようなはかない立場。
必ずしもこの世界は美しく、未来永劫続くような堅牢で
豊かな世界ではないのではないか。
たとえさよならばかりの人生であっても生き続けなくてはいけない。
それが生物という種に課せられた宿命。
業を背負いながら人類はふたたび新世界を生きる。
日本が誇る戦慄のSF傑作。講談社文庫 上・中・下巻
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2016年08月20日

小説『笹の舟で海をわたる』角田光代

戦争中に疎開先で知り合った左織と風美子。
激動の時代を生きた性格の全く異なる二人が
どのように出会い、どのように生き、老後を見据えるのかを
時代背景や当時の流行、事件を織り交ぜながら描く。

戦争が終わり、左織は22歳の時風美子と再会した。
思い出深く懐かしがる彼女に対し、左織には彼女に対する
はっきりとした記憶がない。聞けば疎開先で苦しんでいた
自分に左織がとても優しくしてくれたのだと言うが。
保守的で常識的な左織は、進歩的で派手な風美子と
長い付き合いをすることになる。

大学教授の夫と結婚した左織はこどもを授かり主婦となり、
夫の弟と結婚した風美子は仕事に才覚を発揮し、
新聞やテレビに登場し活躍。場を明るくし、歯に衣着せぬ
発言の彼女は話題の中心になることも多く、人気者。
母親の左織になつかず気難しい娘百々子も彼女には心を開く。
清濁併せ呑む彼女のメンタルの強さ、度胸のよさは、
すべてを失った戦争孤児という不幸の産物だったのだろうか。
そして、一見しあわせな家庭を築き、子宝にも恵まれた左織。
だが家族との関わりの中で、強く満たされぬものを感じる。
風美子の持つ圧倒的なパワー、吸引力はときに左織を脅かし、
新鮮な体験を与えるが、同時に心をざわつかせる。
そんな左織は彼女に出会わなかった自分を想像してしまう。
あのとき出会わなけば…。 毎日新聞社
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2016年08月14日

小説『満願』米澤穂信

刑事に向かない者がいる。川藤はそんな男だった。
殉職により二階級特進。勇敢にも刃物を振り回す男に立ち向かい
発砲により加害者を射殺したが命を落とした。
彼を指導していた柳岡は違和感を感じていた。
臆病でつまらないミスをし、それを隠そうとする川藤は
かつて自分が罵倒し、辞めさせた男同様にあやうさを感じさせた。
「夜警」

この宿に泊まった者は自殺することが多い。
二年ぶりに見つけ出した恋人佐和子が勤めていたのは「死人宿」と
呼ばれる縁起でもない場所だった。
二年前自分を助けてくれなかった男に出されたのは、
自殺が疑われる宿泊客を見つけ出し、説得することだった。

容姿に自信のある女は、稀代の女たらしを獲得し、結婚。
あいつはやめておけという父の忠告を聞かなかった女は
ろくに家にも寄り付かず、生活費にも困る日々。
そんな彼女の心の支えは、月子と夕子、二人の愛娘だったのだが…
「柘榴」

バングラデシュに赴任し、資源獲得をめざす私。
賄賂、熱波によって失明をもたらすサイクロン、洪水、
現地の人間による暴力。
苦境にめげず、私の前に立ちはだかったのは理想に燃える男だった。
そんな私は、恐ろしい提案を受け…。「万灯」

先輩によってもたらされた都市伝説を調べにやってきたルポライター。
毎年のように人が命を落とす「死を呼ぶ峠」の聞き込みをしようと
ドライブインのおばあさんに話を聞く内に本当の恐怖が…「関守」

かつて大変お世話になった下宿先のおかみさんが殺人を犯した。
弁護士になった私は、彼女の刑を軽くしようと奮闘。
過去を回想しながら、この事件を検証するうちに「真実」が
見えてきて…「満願」

新潮社 ホラーミステリー 珠玉の短編集
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2016年08月04日

小説『断絶』堂場瞬一

地方都市夕灘で権力を誇る大物代議士剱持隆太郎は引退後、
後継者として息子一郎を考えてい。
だが権力の椅子に執着する輩たちから横槍が入る。
代々受け継がれてきた剱持家の政治力は、新党勢力の台頭により
衰えとほころびを見せ、隆太郎は強い危機感を覚えていた。
保守政党として長期政権を実現してきた某政党だが、閉塞感漂う
夕灘では、烏合の衆の寄せ集め素人集団がなぜか支持を集める。
(この辺は、くだんの民主党(現民進党)を連想させる)
政治家なのに高潔として知られる隆太郎は強い信念を持ち
未だかつて体験したことがない逆風が吹き、更に厄介事が舞い込んだ…。

心許せる盟友石上は、十年前のワイロ事件の際に
当時の県知事を諭し、潔く隠居の道を選んでいた。
その息子石上謙は刑事となり、職務を全うしていた。
ある日、女性の死体が見つかり自殺として処理されそうだった。
石上、坂東は殺人事件の可能性を捨てきれず捜査を開始したが
上司から「自殺」として事件の終了を告げられた。
明らかに何らかの力(政治的圧力)が加わったと感じた二人は、
独自に捜査を開始。石上は政治が大嫌いなのである。
女性の身元を調べる二人は、被害者を特定し事件の真相に迫る。

政治の腐敗、不可思議な政治論理、価値観や人間関係。
それに立ち向かう警察官石上と剱持隆太郎には大きな溝、断絶がある。
「正義」を信じ、邁進したはずの「彼」の転機はどこだったのか。
中央文庫 
ラベル:堂場瞬一 小説
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2016年08月01日

絵本『はれときどきあまのじゃく』矢玉四郎

一日で三回も「あまのじゃく」と言われてしまった
ぼく、はたけやまのりやす、あだなは十円安は
パソコンで「あまのじゃく」を調べてみた。

人のいうことや、することに、なんでもはんたいする人
という意味らしい。すなおじゃないってことだ。
あまのじゃくの写真もあり、毘沙門天(びしゃもんてん)に
ふまれている、いたずらこぞうのような鬼(おに)だった。
マウスでつついてみたら、なぜかあまのじゃくがとびでた。

アマノジャクは、ぼくのおかげで動けるようになったとよろこび
ぜひアマノジャク王子として、その力を使ってほしいと言い出した。
物や人をあまのじゃくにしてしまう力を手に入れたぼくは
次々とその力を使った。いろいろな物があべこべになった。
これはおもしろいことになってきた。
いたずら心がうずき、つぎつぎと町をあまのじゃくにかえていく。
しかし、やりすぎだと思うようになって…。

はれぶたシリーズ第9だん。株式会社岩崎書店
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