2010年08月24日

小説『水の中のふたつの月』乃南アサ

亜理子はスケジュールを埋めたがり「忙しい」が

口癖のOL。恋人は二人つくり、一週間先まで

スケジュールを埋め尽くし、ありのように

ちょこまかと動き回る。意外としたたか。

そんな亜理子は、少女時代に仲良しトリオだった

恵美と再会した。それは望まれぬ邂逅。

まさに運命のいたずらだった。


亜理子はある事件を機に、少女時代の引っ越しを

早め、二人から離れた。

事件によって恵美と梨紗も話す機会は少なくなり

恵美が私立中学に行ったことで疎遠になった。

しかしそれは、ある意味でよかったのかもしれぬ。

だが再び大人になった三人は会うことになった。


恵美は、トリオだったもう一人の梨紗も誘い

三人で会うことを一方的に決めてしまった。

亜理子は不安だった。様変わりしてしまった

恵美は誰もがわかるような嘘を吐きまわる

虚言癖になっていた。

かつての約束、三人の誓いを破り、秘密を

しゃべってしまうかもしれない。

そこには、なにかしらの企みがあるのではないか。


一見大人しそうに見えて、その反面で男をだまし

高級マンションを手に入れていた梨紗は潔癖症。

すぐに手を洗わなくてはいられない。

亜理子と共に恵美に不審を抱きながらも

三人は何かと連絡をとり、交友が復活。


そこには一人の男の存在が大きい。

恵美の恋人であり、テレビ局でアルバイトをし

バンドに明け暮れる軽佻浮薄のバカ男哲士。

それはかつて夢見がちで、占いやこっくりさん、

魔法などが大好きだった少女時代に三人が

好きだった乾君を連想させる弱弱しさを持つ男。

乾君は「神かくし」に遭い、ある日突然会えなく

なってしまったのだ。

三人は、不当ないじめに遭う乾君と仲良くなり

彼を助けようとがんばっていたのに……。


一人の軽薄な男の浮気心によって、

三人は切れることなく密接な結びつきを強める。


現代と過去を描きながら、三人がそれぞれ持つ

性癖(クセ)はやはり少女時代が落とした

暗い影なのか?そして三人を待ちうける運命は?


角川文庫 350ページ。

水の中のふたつの月 (角川文庫)

水の中のふたつの月 (角川文庫)

  • 作者: 乃南 アサ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1996/09
  • メディア: 文庫



posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:19| Comment(0) | TrackBack(0) | おすすめの長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月20日

【永訣の朝】

今日の内に遠くへ行ってしまう私の妹よ
みぞれが降って 表は変に明るいのだ
雨雪をとってきてください
薄赤く一層陰惨な雲から
みぞれはびちょびちょ降ってくる
雨雪をとってきてください

青いじゅんさいのもようのついた
これら二つの欠けた陶椀に
おまえが食べる雨雪をとろうとして
私は曲がった鉄砲玉のように
このくらいみぞれの中に跳び出した
雨雪をとってください

二切れの御影石材に
みぞれは淋しくたまっている
私はその上に危なく立ち
雪と水とのまっ白な二相系を保ち
透き通る冷たいしずくに満ちた
このつややかな松の枝から
私のやさしい妹の
最期の食べ物をもらっていこう
私たちがいっしょに育ってきた間
見慣れた茶碗のこの藍のもようにも
もう今日 おまえは別れてしまう

蒼鉛色の暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる
ああとし子
死ぬという今頃になって
私を一生明るくするために
こんなさっぱりした雪の一椀を
おまえは私に頼んだのだ
ありがとう 私のけなげな妹よ
私もまっすぐに進んでいくから
雨雪をとってきてください

激しい激しい熱やあえぎの間から
おまえは私に頼んだのだ
銀河や太陽 気圏などと呼ばれた世界の
そらから落ちた雪の最期の一椀を

本当に今日 おまえは別れてしまう
あぁ あの閉ざされた病室の
暗い屏風や蚊帳の中に
やさしく蒼白く燃えている
私の健気な妹よ
この雪はどこを選ぼうにも
あんまりどこも真っ白なのだ
あんなおそろしい乱れたそらから
この美しい雪が来たのだ

また人に産まれてくる時は
こんな自分のことばかりで苦しまないように
産まれてきます

おまえが食べるこの二椀の雪に
私は今 心から祈る
どうかこれが天上のアイスクリームになって
おまえとみんなとにきよい天の恵みをもたらすように
私のすべての幸を懸けて願う


宮沢賢治
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 児童書・絵本・はれぶた・バッテリー・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする