平和な街に突如起こった原因不明の奇病によって巻き起こった
バイオハザード。伝染病である奇病の感染防止と原因を究明しよう
と立ち上がった市の保健センター職員たちだったが、
行政システムの弊害によって、有効な対策が立てられない。
同時に、権利だけを主張する無責任な住民や崩壊した地域社会の
希薄な人間関係も加わって、巻き起こる悲劇の数々。
そういったごたごたの中で、「日本脳炎」の新型ウイルスは
着実に街の人々の身体と心を蝕んでいき、パニックや自殺、
暴力的な衝動を誘発し、更なる悲劇を生んでいく。
設定は、埼玉県の昭川市、都心から50キロ、人口は86000人。
農林業が盛んな、ベットタウンという架空の市だ。
物語で特に印象的なのは、日本脳炎を媒介するある生物を駆除
しようと農薬散布が行われるのだが、地域の人間関係の希薄化、
核家族化によって、情報が行き届かずに、こどもがモロに農薬を受け
絶命する描写である。あらかじめ、地域には放送で農薬散布を
する放送や、回覧や散布する旨の書類が伝達され、同時に
悲劇が起こる数分前におばあさんがこどもたちに家に入るように
促す場面がある。だが、「知らない人の意見は聞かないように」
という親から教えられたこどもたちは、それを無視してしまう。
そこには、地域の相互扶助(助け合い)をしてこなかった人間関係の
希薄化が如実に現われている。
「漠然としたものに対する恐怖」によるパニックなどによって、
正常な判断が取れずに起こる異常な行動を読むにつけ、本当に怖い
のはウイルスもそうだが、人間の心なんだとひとりごちた。585ページ