(一部異なる)、私小説、創作ホラー、恋愛ものなどを
織り交ぜた短編集である。
会社を辞めたことで、手に入れたやすらぎの日々、
取材や日常を通して出会った人々、
作家なりの苦労、自己の恋愛などを描く。
「ウエイトレスの天才」
お客様の注文したメニューを、数万単位で覚えていられる
(顔を見ると思い出すらしい)という天才に出会った著者は、
さっそく彼女を取材し、御飯をおごることにした。
無邪気な様子の彼女が胸に残る作品。
「タクシー」
愛想のよいタクシー運転手に乗り合わせた著者の逸話を収録。
一方的な会話形式でありながら、なかなか含蓄のある話である。
「イン・ザ・カラオケボックス」
彼女は片道3時間かけて、渋谷に訪れる。左右で色の違う
カラーコンタクトをつけて、奇抜な格好をした彼女であったが、
その姿は堂々としていて、清々しささえ漂う。
「黒い髪をして、しっかりした服装をしていた時、
私は生きた心地がしなかった。服装変えて、渋谷に来るように
なったら、人と同じにしなくていい、自由でいいって思えた」
「I氏の生活と意見」
人よりもずっとたくさんの給料をもらいながら、
仕事に対して俯瞰的に、生きる手段としてしか考えられなった
I氏は会社を辞めた。そして、作家の道を踏み出すのだった。
I氏は、基本的に楽天家だった。
読書と音楽に関しては、仕事にはない情熱を注いでいたが、
実際に文章を書いたことはなかった。I氏はとりあえず、
ジャンルを決めずに賞と名のつくものに片っ端から応募した。
文章を書くのは楽しかった。