2017年05月20日

小説『ザビエルの首』柳広司

教科書に載る位有名な人物宣教師ザビエルを追う
超常現象の物書き修平。奇跡体験を通じて
生前ザビエルが遭遇した謎を秘めた殺人現場に遭遇。
不思議な力により事件を目撃した修平は、
事件に居合わせた人物の中に憑依し真相を暴く。

死後ザビエルの遺体は腐敗せず、生きているかのような
状態を保っていたという。この「奇跡」は認められ、
彼の遺体は厳重に保護されているという。
(死後2回以上の奇跡を起こし、遺体が腐敗しないと
「聖人」として認定され手厚く保護される)

ザビエルの首が鹿児島で発見されたといううさんくさい
情報を記事にするために辺境の村にやってきた修平。
どう見ても村おこしのためのでっち上げと思われたが、
ザビエルの首と、不思議な目を見た修平は
過去の世界に飛ばされていた。

自身が体験したアフガニスタンでの地獄のような日々。
大国アメリカの誤爆により結婚会場に集まった人々は
無残な最期を迎えた。戦場で修平は生死をさまよい、
一命をとりとめ帰国。当たり前のように平和な日常をすごす
日本の中で、傷は癒えたかのように思われていたが
意識下の中に「なぜ」という疑問が渦巻いていたのだろう。

なぜ何の罪もない人が殺されるのだろうか?
なぜいつの時代も人は争い合うのだろうか?
なぜ人は安易に悪意をまき散らすのか?
なぜ人は神にすがり、神は人を本質的な意味で助けないのか?
矛盾をはらんだ宗教。場合によっては犯罪にも加担し援護する。
ちんけな奇跡起こしている暇などないはずなのに。
意識下に潜んでいた「怒り」のような感情とやるせなさが
数奇な人生をすごしたザビエルと共鳴したのかもしれない。
講談社文庫
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2017年05月17日

小説『炎上する君』西加奈子

【炎上する君】
学徒動員、火垂るの墓というひどいあだ名を
つけられ灰色の学生時代をすごした二人の女性。
恋愛にうつつをぬかさず、強い意志で学業に打ち込み、
豊かなで盤石の暮らしを手に入れた。
あえて、自分たちのキャラクターと真逆のことを
してみないか?と勇ましくロックバンドを結成。
たくましい才女たちは銭湯で不思議な話をはじめる。
足元が炎上する男がいて目撃した者は幸運に恵まれる。
ロックな自分たちを演じることに疲れていた二人は
この不思議な男と出会い、二人とも燃え上がる。

【私のお尻】
容姿こそ恵まれなかった私だが、お尻だけは一級品。
お尻のパーツモデルとして大活躍し称賛を浴びる。
報酬も破格の待遇でぜいたくな暮らしも手に入れた。
でも心は満たされない。人は私のお尻ばかり見て、
お尻ばかり評価している。お尻が人格を有している。
愛しかったお尻に嫌悪感すら覚えた私は、
自分のお尻を「置いていく」ことにした。
芥川の『鼻』では主人公が自らの醜い鼻を切り離したが
この作品では誇るべき部分を切り離す。人って不思議。

【ある風船の落下】
自分の身体が浮かび上がり、最終的に空高く
舞い上がってしまう「風船病」が世界中で発生。
原因はストレスを抱え込み、この世に絶望した者が
地球の重力から解き放たれるとされる。
つまり形を変えた「自殺」であると言われている。
家で、学校で迫害され、愛を信じられない私も
風船病にかかり、母の心ない言葉で悲しみのない空に。
そこには地上に絶望し、このやさしい空にただよう
世界中の人たちが浮かんでいた。

など8編を収録した短編集。ずば抜けた発想力、
作品に流れるユーモアと愛情、
苦界で戦うことを辞さない潔さなどが光る。角川文庫
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2017年05月13日

小説『円卓』西加奈子

三つ子の姉を含む8人家族と暮らすこっこ。
孤独にあこがれ、フツーとは違う自分を気取り
こじらせてしまっている変わり者の小学三年生。
家族すらもバカにしながら、やはり変わり者である
祖父石太とだけは認め合う存在だ。
家族から深い愛情を受けながら…、困ったものだ。
家族は中華料理屋にある自動式円卓で食事をしながら
楽しい時間をすごしていたが、自分の世界に入り込む
こっこはうわの空で別のことを考えていた。
ああ、みんなの注目を集めたいものだ。

賢い同級生ぽっさん、朴、おませなセルゲイ、
大人びた香田めぐみさんらと共にすごすこっこ。
日々新鮮な驚きを感じ、自分が認める一部の者以外の
平凡ぶりに不満を覚え、心の中で、口に出して罵倒する。
しかし自分が考えているほど賢くないので
ぼっさんからの忠告を忘れ、暴走し失敗してしまう。
子供なりの万能感、全能感で好き勝手に振る舞える
ある種の黄金時代だった。

だが、ねずみ男との出会い、
新しい家族(命)の誕生、
同級生の奇矯な振る舞いを目撃し、悩むことに。
自分の価値観と他人や世間の価値観の違いに
とまどうこっこ。親友ぽっさん、祖父石太と共に
自らの言葉にできない想いをひも解いていく。
キャラクターたちに覚えるいとしさ。
あふれ出す文才とユーモア。文春文庫。
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2017年05月10日

小説『見えない復讐』石持浅海

田島、坂元、中西の学生三人はある目的から
ベンチャー企業を立ち上げた。東京産業大学院生
(口の悪い者は倒産大と呼ぶ、さいたま市にある)
の彼らは卒業生でありエンジェル投資家小池を頼る。
強い熱意と情熱を見せる田島であったが、
小池は彼のゲーム企画を断ることにした。
母校を訪れた小池は田島たちの不思議な行動を目撃。
「謎の行動」という疑問から「答え」を導き出した
小池はスポンサーを表明。小池の裏の目的とは?

某大学ではかねてから自殺者が後を絶たない。
しかし大学当局は具体的な措置、
対策を講じないまま、いたずらに時が流れていた。
大切な人物を自殺という形で失った主要人物の4人。
その胸に去来する想いはタイトルが示す通り
見えない復讐である。

法人である大学をなくすことが最終目標。
実行するには莫大な資金が必要と結論付けた学生たち。
そのための起業。資金集めである。資金を持たない
彼らにできる大学当局へのテロとは嫌がらせレベル。
しかし秘められた悪意は確実に大学にダメージを与える。
田島、小池は本心を隠した二人の天才は
頭脳を駆使し、提示された謎の真相、核心に迫っていく。
暗喩、明示される事象を読み解く楽しさに
興奮が止まらない極上ミステリー。角川文庫
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2017年05月07日

小説『或る「小倉日記」伝』松本清張

森鷗外の研究を生涯の目標とした身体が不自由な耕作。
鷗外全集を編纂する際に見つからなかった「小倉日記」
に代わる研究をしようと苦労しながら鷗外の足跡を辿る。
表題作、芥川賞受賞作

結婚相手の父親が失踪宣告により除籍されていた。
頼子は秦雄から事の顛末を告白される。
そこに隠されていた謎を解くのは妹頼子から
このことを相談された兄貞一だった。「火の記憶」

戦地で繰り広げられる恋のさや当て。
魂までも敗北者となり果てた二人の男は
浅ましい事件をきっかけに暴走し…「赤いくじ」

浮気をしていた北沢は旅館で盗難に遭い途方に暮れる。
そして小役人北沢が思い浮かべたのは赤堀という
男の顔であった。事なきを北沢であったが、
大方の予想通りただでは済まないのだった。「弱味」

など12編を収録した傑作短編集。新潮文庫
人の転落、狂気、業、思考、心理描写、人生…
時代は変わっても共感、納得できる名作ずらり。
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2017年05月04日

小説『白いしるし』西加奈子

32歳。失恋を繰り返す夏目は恋に溺れぬように
絵を描きながら日々を送る。それだけでは
食べられないのでバーテンダーをしている。
写真家の男友達瀬田の紹介により、かねてから
心を奪われるような絵を描く間島と出会う。
本人が危惧していたように、超然とした間島に
強く惹きつけられ恋に溺れてしまう夏目。
自分の絵を、自分のことを好きだと言ってくれる
間島だったが、暗い影のような存在が見え隠れ。
彼には自分が踏み込めない聖域のようなものがある。
かつて体験した失恋の痛みがかさぶたに変わる日は
来るのか?全身全霊をかけた恋の行方は。新潮文庫
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2017年05月01日

小説『ダークゾーン』貴志祐介

プロ棋士をめざす3段塚田20歳。異世界の中で
キングとなった彼は将棋とチェス、カードゲームを
混ぜたようなゲームを興じることになった。
仮想現実の世界は空腹や生理的欲求を覚えないが、
肉体的・精神的苦痛はプレイヤーに連動する。
あいまいな記憶の中でプレイヤーたちは塚田の記憶の
中で存在する者たち。自分の教授であったり、
大学の友であったり、恋人である理沙もいる。
理沙たちはゲーム特有の変化(化け物化)しており
それぞれのキャラクターに応じた強大な能力を有する。
キングとなった塚田は、現実の世界で将棋のライバルの
立場にある奥本(キング)と七番勝負をすることに。
状況を把握していない塚田に対し、奥本は先制攻撃を
繰り出し、生死を懸けた頭脳戦が繰り広げられる。

キングをとるまで続くこのゲームは凄惨を極める
非常な殺し合い。まるで地獄のような…。
相手の駒を倒すと、復活し今度は自分の駒となり
味方になるが、それは相手も同じ。将棋同様に
持ち駒は有効であり強力。しかも相手の駒になると
情報をもたらしてしまう危険因子となってしまう。
壮大な戦いを終えるたびに、「現実世界」での出来事が
語られていき、なぜこのような悪夢が引き起こされたかが
明らかになっていく。一読した感想としては
地獄かと思われた世界に一縷の望みがあるようなラスト。
また貴志先生が新たなホラー小説の分野を開拓した。
祥伝社文庫 上・下巻
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2017年04月28日

小説『ロック母』角田光代

【ゆうべの神様】
まるでビッグダディ的な両親の喧嘩が絶えず、
近隣の住人もろくな奴がいない。
閉鎖的な村に住む私は大学受験を控えた女子高生。
胸の中に殺意を隠しながら日々を送っていた。
とにかくこの街から出ていきたいと思いながら
恋人との逢瀬を重ね、勉強に身が入らない。
日々のもやもやは、いよいよ爆発し…。

【ロック母】
瀬戸内海の片田舎の島育ちの私は都会への
あこがれから大学進学を機に故郷を飛び出した。
思い通りにいかず、妊娠させた相手からは
堕胎を勧められ、結局ずるずる引き伸ばした結論は
島に戻りシングルマザーになることだった。
せめて家族や島の人々が祝福してほしい。
甘えたい彼女であったが両親はそのことに触れず
淡々とすごす日々。熟年離婚こそ断念した母だったが
私が高校時代日常を遮断するために聴いていたロックに
逃げ道を発見したらしい。何?この負の連鎖…。
生まれてくる子もきっと…。

【父のボール】
不幸は坂を転がるボールのようにやってくる。
近所で不幸が起きたら下に向かって不幸が起こる。
父の呪詛の言葉は大人になった今でも心に影をさす。
権力者として君臨した父もこどもの成長につれて
恥ずかしい父となり、母への仕打ち、そして死を通して
憎しむべき父と変わっていった。

父の死を見届けることで父とのつながりという
不幸の終焉を実感したい私は入院している父を見舞う。
最期の最期まで卑しく情けない父親の存在により
不幸をたまわる私が父の死を通して受ける感慨とは?

など7編を収録した短編集。この作品に流れる
テーマは怒りであり悪意である。海外に出かければ
異文化交流と言う名の理不尽な差別的扱いを受ける。
民族間同士の小競り合いに出くわす。
住民から嫌がらせを受け、怪文書が出回る。
爽やかさとは無縁の悪臭すら漂ってきそうな日常。
いがみ合いながら、でも人々は寄り添い合い、
結果傷つけ合うというハリネズミのジレンマ的恋。
壊れた世界でも生きていかなきゃいけない。ふぅ。
講談社文庫。
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2017年04月22日

小説『死亡フラグが立ちました!』七尾与史

都市伝説「死神」(殺し屋)を追う下っ端ライター陣内。
死神を記事にしないと干上がるので必死で捜索。
どうやら死神は実在するようで…。
知り合いのヤクザ松重と超人本宮の助力を乞うことにした
陣内は、松重の親分が死神に殺されたという情報を得る。
但し、事件性はない偶然が重なった事故死としか思えない状況。
入手した映像を必死で調べた結果思わぬ意図に気付き…。

一方、同じように事故として処理された事件があった。
疑惑の渦中にあった某政治家の秘書が交通事故により死亡。
目撃者の証言などから事件性はないと判断された。
しかし妄想刑事とあだ名される板橋、相棒の御室は
事件に疑問を持ち同僚に笑われながら独自に捜査を進める。
17年前に発生した一家が皆殺しにされた田中事件。
捜査官の一人として事件に関わり突飛な推理を披露し、
失笑を買った板橋。事件の被害者少年と同級生の御室は
過去の記憶から、大胆な容疑者を連想し推理を展開。

死神に魅入られた者、そして死神を追う者には、
死神のワナが張り巡らされ、死がつきまとう。
荒唐無稽かと思われる都市伝説ではじまった物語は
思わぬ展開と広がりを見せる。登場人物たちの発言、
死神の手によって立ちまくる死亡フラグ。
死に抗う者たちの戦いを描いたエンターテインメント小説。
本来恐怖を感じるはずの予告殺人を笑いの要素である
緊張と緩和を用いバカバカしさを演出しまとめている。
宝島社文庫このミス大賞シリーズ。
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2017年04月19日

小説『虚報』堂場瞬一

自殺教唆を疑われる大学教授のサイトをめぐり
新聞記者たちがその真相に迫っていく社会派作品。
なぜ上山は自殺を勧めるかのような記事を書き、
質問者に答えていたのか?
特ダネをめざすやり手の市川、記者経験の浅い長妻は
この事件を追ううちに窮地に立たされ…。

相次ぐビニール袋集団自殺の被害者たちは、
上山教授が運営するサイトを閲覧していた。
その内容は自殺教唆と受けとられるような記事で
自殺の決め手になったのではないかと疑われた。
サイトは封鎖され、上山教授は会見により
自殺ではなく自死であり、直接自殺を促したことを否定。
マスコミは上山に論破され
ネット上では彼を支持する者も多い。しかし新聞社、
雑誌系は上山の言動に懐疑的であり追跡取材。
また警察官も自殺教唆(自殺ほう助)などをめぐり
彼をマークしていた。

市川は上山と知り合いでその言動に首をひねる。
彼らしくない言動であり疑問が尽きないので
直接取材に乗り出した。自殺や尊厳死、安楽死
をめぐる問題に切り込んだ社会派ミステリー。
新聞社内で発生するぎすぎすした関係、
まさに生き馬の目を抜く報道合戦。
生き死にを懸けた人々の戦いを鋭く描く。文春文庫
タグ:堂場瞬一
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2017年04月15日

小説『古書店アゼリアの死体』若竹七海

不幸続きの相澤真琴は念願だった海でバカヤローと
叫ぶために神奈川県葉崎市に来たのだが死体が…。
なんてついてない日なんだ。
と叫びたくなる日々だが、古書店アゼリアの女主人
前田紅子から店番を任された。
ロマンス小説という昔取った杵柄的知識が生きてきた。

莫大な財産を持つという紅子は名門前田家の出身で
ここ葉崎で権力者として知られているひとかどの人物。
恩義を感じている者も多いのだ。意外に忙しい店番を
こなしていた真琴だったが新たな死体との遭遇…。
数多くの秘密と問題を抱える前田家の因縁が噴出し…。
入り組んだ内容と演出が心憎い推理小説。
皮肉のきいたオチが印象的。光文社文庫
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2017年04月11日

エッセイ『養老孟司の旅する脳』養老孟司

世界中に旅する理由は昆虫採集でありライフワーク。
解剖学教授でありながら、脳に関する権威とされる
養老先生による語りおろしエッセイは
目から鱗が落ちる発想も多く読んでいて楽しい。

なぜアフリカ人は8頭身のカッコイイ体型なのか?
体表面積を増やすことで熱を逃がすため。

十人並の顔はたいしたことないが、
百人の顔を平均化すると美形になる?

日本人の脳が漢字とかなを読む場所は違う?

東大医学部に合格する人間は血圧に換算すると
300という異常値であり、これを正常値に戻す。
つまり凡人に完治させまともな感覚を持つ医者に
する必要がある。など2〜3ページごとに語られる
エッセイなのでサクサク読める。小学館
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2017年04月08日

小説『この国。』石持浅海

一党独裁の管理国家を誇るこの国は繁栄をたどり
管理体制側は最高の国を自負する。しかし、
反政府を掲げる反対勢力による妨害を受け…。

200年にわたる鎖国を解禁し、欧米列強の魔の手から
なんとか植民地化を避けてきたこの国。
第一次戦争、第二次戦争に介入せず、それ以降も
平和主義を貫き現在に至っている。

主な特徴としては、公開処刑(死刑執行)が娯楽化し、
小学校卒業までの結果で職業などの将来が決定される。
士官学校は形骸化し、実質的に公務員を作り出す組織。
エイズの蔓延を防ぐ目的で環境が整えられた売春宿は
政府が管理する。(表向きは売春を認めていない)
世界に類を見ないほど街はキレイで治安はよく、
失業率は1%以下、世界からの評価も高く老後を
この国ですごす海外からの永住者も多い。
しかし不満は募るもの。
そして同時にどんな集合体においても水面下、意識下では
歪でエゴが蔓延する危険を多分にはらんでいる。
国家転覆、政権打倒を掲げる反政府組織松浦らは
治安警察官番匠に戦いを挑み続ける。

この国のため、この国のあり方をめぐり
頭脳戦を繰り広げる二人は、好敵手にして
不倶戴天の敵であるお互いに殺意をぶつけ合う。
国レベルのマクロな問題でありながら、
個人レベルのミクロな私情をはさんだ頭脳ゲームを
制するのは果たして?光文社文庫
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2017年04月05日

小説『きりこについて』西加奈子

きりこと賢い猫ラムセス2世による強い絆と
再生の物語を描いた心温まる物語。
この一冊で多くの人が救われますように。

美男美女の両親であるパァパとマァマ、祖父や祖母の
悪い所ばかりが遺伝してしまったぶすのきりこ。
親から世界で一番かわいい子として育てられ、
うちって世界一かわいいこやねん!と自信満々。
周囲の大人も同情心と優しさからきりこを取り立てる
発言を繰り返したためこどもたちから尊敬を集める。
遊びにおいても「きりこルール」(彼女による鬼指名)や
きりこに都合のよいルールがまかり通っていた。
賢く超然とした存在として、こどもたちをうっとりと
陶酔させるきりこの快進撃は小学校でも通用。
そんなある日きりこは体育館裏で黒猫と出会う。
かわいいと言われることを嫌い、賢いと言われることを
望む黒猫はラムセス2世という立派な名前を頂戴した。
驚異的な知能を誇るラムセス2世は人語を解し、
きりこは猫に耳を傾ける度量の持ち主だった。
2人はお互いを尊重し、毎日を過ごすうちに会話できる
ようになっていった。

初恋の相手だったこうた君にラブレターを渡した結果
「ぶす」という言葉を投げつけられた。
強いショックを受けたきりこであったが、
なぜという疑問がぬぐえない。両親や猫たちから
容姿を褒められる自分がなぜぶすなのだろう?
魔法がとけたかのように周囲のきりこへの扱いは
変わっていった。11歳になった小学生たちは
かわいいという容姿に対して敏感となり、
おばさん化していた同級生だけがきりこの友達に。
でもきりこは自分がぶすだと思っていなかった。

中学生になり、ますますかわいい女子がモテる。
ある日、友達の書いていた少女漫画のヒロインから
きりこは自分の顔が彼女の顔と対極にあると気付く。
学年の美少女ともてはやされる子たちは、なるほど
漫画の美少女と呼ばれる容姿をしていた。
自分はぶすであり、心ない同級生からぶすと
呼ばれても仕方のない存在と打ちのめされたきりこ。
ひきこもって、彼女のことを強く尊重してくれる
猫にあこがれるようになり夜型の生活をするように。
きりこがひきこもっても、ただそこにいるだけでよいと
両親の愛情は揺るがなかった。

猫が至上の喜びと考える睡眠に没頭していたきりこ。
ある日夢の中で泣いている女の子と出会う。
きりこは自分にSOSを出している存在に気付き、
外の世界に歩み出す。ひとりの人間、一匹の猫の
運命的な出会いによって、助けられる者たち。
やさしさを忘れそうになったとき読んでほしい
極上の一冊。価値観は人の数だけあって
自分にとって大切なことは他人が決めることではない。
角川文庫
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2017年04月01日

小説『仮面同窓会』雫井脩介

理不尽な体罰的指導を強制されていた高校時代を
思い出し、仕返しを企てることにした4人。
20代後半になりながら体育教師樫村から受けた傷は
洋輔の中に未だ尾を引いていた。

高校時代あこがれていた美郷をストーカーから守った
ことで親しくなり、パッとしない日々に潤いが生まれた。
同窓会にやってきた洋輔が見た者は、自らの行為に
何の疑問も反省もせず生きている樫村の姿だった。

樫村の健在をおもしろく思わない皆川、大村、八真人は
「仮面同窓会」を開き梶村に制裁を加えることを発案。
洋輔も断り切れず、4人で樫村を拉致して彼が自分たちに
強制させていた天突き体操をさせることにした。

溜飲を下げることに成功した彼らは意気揚々と引き揚げた。
しかし、樫村が死体で見つかったことから疑心暗鬼となり
自分たちの中に犯人がいるのではないかと思い出す。
過去の事件が引き起こした因果応報的ミステリー。
関係者は皆沼に引きずり込まれていく。
姿は見えないが声だけはする不思議な兄の存在。
そして物語に隠された伏線回収が見事だ。幻冬舎
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2017年03月29日

小説『御不浄バトル』羽田圭介

電通ではなく電信に入社。ブラック企業だった。
教材を法外な値段で売る詐欺会社の事務職の僕は
徐々にこの会社の実態に気付いていく。
まともな精神の者は半年で会社を去り、
精神が麻痺した社員はインチキ教材を売りさばき
報酬を得て、ぜいたくな暮らしに走る。
人の嫌がることを進んでやれる(悪い意味で)。
そんな鈍感な者だけがいられる場所。
それが電通。おっと間違えた電信だ。

主人公の僕が心を落ち着けられる場所はトイレだ。
駅のホームにある比較的綺麗な個室を確保したいと
今日も僕は速足で歩く。常連メンバーと出くわす。
緊張感漂う会社の中で僕にとって安寧の場所。
トイレの中だ。食事もここで行う位だ。
欲求不満すらもここで処理する。
絶対不可侵の聖域。それはトイレである。
それにしても排泄物の描写がリアルすぎる。

僕は何とか詐欺的勧誘に関わらないように
お茶を濁してきたが、上司から暴力的な制裁を受ける。
本格的に会社を辞めたいが、会社都合による退職を
めざす僕は証拠集めに乗り出す。恋人や友人の支え、
トイレの中でこっそり発揮されるバカバカしい戦い、
ブラック企業の実態、サラリーマンの苦悩を描いた問題作。
短編「荒野のサクセスも収録」 集英社文庫
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2017年03月27日

小説『黒い福音』松本清張

戦後の日本で暗躍したキリスト教団体の腐敗、隠蔽体質。
そして及び腰になってしまった捜査関係者の哀愁を
見事に描いたミステリー。実際の事件ベルギー人神父を
容疑者とする日本人スチュワーデス殺人事件を題材に、
迷宮入りした未解決事件のアンサーを投げかける。

戦前から日本に布教目的で存在したバジリオ会は
表向きは敬虔で戒律を重んじる清貧な宗教団体。
だがその裏では海外からの救援物資である砂糖などを
横流ししたり、麻薬の密輸に手を染める邪心団体である。
穏やかで明るい笑顔に隠された神父たちは裏では
日本人を侮り、汚い言葉を吐く悪魔たちである。
悪魔たちは勢力拡大のために悪事の限りを尽くし、
豊富な資金を作り、破戒僧となり愛人を囲う。

物語は、某宗教の信者でありかつての英雄的行為から
物資の貧しい時代でありながら贅沢な暮らしをしている
ヤス子という女性。そこに足しげく通うビリエ神父の
秘密の暮らしを描くところからはじまる。その家には
人目を忍ぶかのように自動車が次々と止まるのである。
穏やかで尊敬を集める神父の裏の顔は悪徳商人。
彼は信者であり優秀で素直な少年トルベックに目をかける。
期待通り好青年に成長したトルベックは女性信者たちの
中でアイドル的存在になる。そうすると自然の摂理で
トルベックは女性と親しくなり、戒律を破るようになる。
それこそ神に祈ることを忘れ、女性に溺れる。
しかしそのしあわせは長くは続かなかったのです。
そう教会は裏の顔を持っていて、トルベック神父に
会計係という教会の暗部とも言える悪の片棒を担がせる。
トルベックは自分の恋人を麻薬の運び屋にするように
圧力をかけられる。
閉鎖的な組織の中で絶対的な権威主義がまかり通る世界。
その中で悪魔のささやきにより犯罪に手を染めてしまう。

事件を追う警察関係者、事件記者たちは宗教団体が
事件の鍵を握ることに行き着く。
容疑者が宗教団体の神父だったことから捜査は難航。
犯罪集団は宗教的立場や、日本での強い立場を悪用。
また政治的駆け引きから彼らを追う警察に上(外部)
から強い圧力がかかる。必死の捜査は実を結ぶのか?
新潮文庫 
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2017年03月24日

小説『ふる』西加奈子

他人からやさしいと評される池井戸花しすは、
AVのモザイクがけの仕事をしながら、
いろんな場面で音声の隠し録りをすることである。
花しすは人に見えない不思議な白いわたのような
ものが見えるのである。(まっくろくろすけの
白バージョンのようなもの)。ふわっと現れる。
人を傷つけず、周囲の空気が悪くなることを
極端に怖がる花しすは気遣いの日々を送る。
そしてこっそり隠し録りした人々の会話を聞き
安心したいのである。自分がいじられキャラであり
常にオチのような存在でありたいと願う花しす。
そんな彼女にも転機が訪れ…。

彼女の過去と現在が語られる過程で、謎の人物
新田人生が現れる。姿形を変えて次々と…。
でも主人公である私は全く気がついていないのだ。
他者に対するやさしさは同時に他者に対する無関心。
傷つけないようにする他者への過剰な気遣いは
本当は自己防衛だった。クライマックスで彼女に
「ふる」ものとは?まさに読ませる、ひきこませる。
言葉と表現の魔術師による傑作。河出文庫
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2017年03月20日

小説『そして誰もいなくなった』アガサクリスティー

インディアン島に集まった10人は童謡見立て殺人の
犠牲となり次々と命を落としていく。

集まった10人の人の生死に関わる過去の犯罪が暴かれ、
彼らの中に強い動揺が走る。
招待者U・N・オーエン(unknown)を名乗る
謎の人物の仕業なのか?悪趣味な演出に憤る彼女たち。
招待者の一人が毒殺されてしまう…。マザーグースの
「10人のインディアン人形」になぞらえた殺人だった。
犠牲者が続いたことから、第三者の存在を疑った彼らは
捜索に繰り出すのだが…。

明確な意思に基づいて殺人を続けていく犯人。
その中で疑心暗鬼に陥っていく招待者たち。
童謡のように誰もいなくなってしまうのか?
1億冊発行された世界的大ベストセラーであり
ミステリの女王、推理小説の最高傑作と言っても
過言ではない。15年ぶりに読んでもやはり名作。
感動は色あせない。早川書房
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2017年03月18日

小説『ファイヤーボール』原宏一

商社マンとして猛烈社員的働きをしていた咲本。
スペインのミゲル社長との大きな取引をまとめ
意気揚々と帰国した咲本。
しかし社内抗争が勃発し、閑職に追いやられてしまう。
暇なら町内会の仕事やってよと妻から言われ、
しぶしぶ会議に赴く咲本。

だがこの町内会大きな問題をはらんでいた。
元校長、元町内会長武村が院政をしくこの町内会では
横領、使い込み、業者への恫喝と政治的腐敗が進んでいた。
小規模な祭りとは思えないような予算が組まれるという
オリンピック的な腐敗に首をかしげた咲本は
「今より十倍盛り上がる祭り」を生み出すと豪語。

世界の祭りを調べた咲本は火の玉祭りの存在を知る。
まぁこんな危険な祭り無理だけど、本命のペット祭りを
選ばせるために提案する(捨て案)と思っていた。
しかし、武村の卑怯な策略により可決されてしまう。
どうせ泣きつくだろうとバカにされているのだ。

数少ない味方である役員と共に本気で火の玉祭りを
開催することにした咲本。オラ祭りするぞ!
家族や地域住民と共に祭りを盛り上げる決意を固めるが
既得権益保持に回る武村一味による妨害もあり苦戦。
やりたいからやる。
ファイヤーボールのように燃え上がった想いは
人々の心に伝播していき…。PHP文芸文庫
タグ:原宏一 小説
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