2017年08月15日

小説『紅い白描』松本清張

葉子は日本を代表するデザイナー葛山の下で
働けることになり、期待に胸を膨らませていた。
戦後間もないこのご時世、日本のデザイナーは
海外の模倣ばかりで独創性がないと言われていた。
しかし、葛山はその独特の感性から鬼才として知られ、
作中海外からも評価されるような異彩を放っていた。

この場所で勉強すれば多くの物が得られると思い、
働き始めた葉子だったが、早々に疑問を抱く。
葛山のすばらしい作品と葛山自身の持つ俗物的で
ビジネスライクな言動が一致せず違和感を覚えた。
特に名古屋に旅行に出かけた際に、不信を抱いた葉子は
葛山という人物そのものに疑念を持つようになった。

近所で出会った人懐こい少年と仲良くなった葉子は
不思議と彼に対して関心を持つ。
それはある種のひらめきだったのか。
少年と葛山とは何らかのつながりがあるはず。
葉子はキーパーソンと思われる少年を追う内に
意外な真相にたどり着き、自らの道に悩む。角川文庫
ラベル:松本清張
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2017年08月12日

小説『花のさくら通り』荻原浩

経営悪化に伴い都心部から離れることになった
ユニバーサル広告社は移転も自分たちで行い、
経費を賄うことにした。石井社長の決断に
三人の社員は不満たらたら。通勤時間もひどいことに。
民家のようなオフィスでの仕事はブレーカーが
簡単に飛んでしまい、都落ちしたことを実感させる。

さて彼らがやってきた本来の意味でヤバいさくら通り商店街。
シャッター商店街10選に挙げられる経営不振に陥っていた。
店主たちはこの状況を直視したくなくて、
ただただ威張っていたい長の磯村は会議のたびに
古い因習に従い、若手店主の意見をはね返す。
6月に行われる「さくら祭り」の頃には桜が咲いていないし、
そもそも害虫問題の解決策として桜を切ってしまっていた。
名ばかりのさくら祭りは毎年盛り上がるわけもなく、
係の癒着もあり形骸化した催しに成り下がっていた。

脱サラし和菓子店で家族と共に働く無口な男守は
ユニバーサル広告社に仕事を依頼。
12万円という破格の値段で仕事を引き受けた杉山は
愉快な社員たちと共に商店街を活性化させようと尽力。
しかし、一国一城の主として土地に根差しがんばってきた
面々は新参者である杉山たちを信用していない。
新旧、年代も異なる店主たちを相手に苦戦を強いられ、
半ば意地もあり奮闘する杉山たちは奇策を打ち出した。
この土地で彼らは受け入れてもらえるのか?

離婚し、愛娘早苗と離れて暮らすことになった杉山。
元妻が再婚したこともあり娘から届く手紙に喜ぶが
返事を書くかどうか逡巡し葛藤する。
娘や元妻、再婚相手の気持ちを考えた結果、
クラウチ君という謎の人物からの手紙を送ることにした。
父の想いは、娘に届くのか?
シリーズ第3弾。集英社文庫
ラベル:荻原浩
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2017年08月08日

小説『賢者の贈り物』石持浅海

提示された謎をはらんだ問題から最適解をめざす
おすすめ知的パズル的短編集。
人が死なない極上ミステリー。
作者からのとっておきの10個のプレゼント。
PHP文芸文庫

伝統的にカンニングを推奨しているかのような
不思議な校風を持つ高校。カンニングの用意
(テスト範囲の要点をコンパクトにまとめる作業)
自体が既に勉強につながっているからか。
カンニングペーパーにオブラートを使うことを
思いついたが、思わぬ形で手紙を受け取り、
読まずに飲み込んでしまい…。「可食性手紙」

ワインにはまり、多額の出費を繰り返す後輩を心配した
磯風は元上司と共に一計を案じる。頭から否定しても
かえって意固地になる。奇策を思いついた二人だったが…
「経文を書く」

失恋をしたことからやけ食いに走るわたし。
彼のいる漫画研究会から足は遠のき、体重は増える一方。
そんな私を心配する磯風はなぜか居酒屋に私を誘う。
「最後のひと目盛り」

自分の所有する会社の株がやばいかもしれない。
そんな情報を入手した僕は早々に売り抜けることにした。
しかし自分はいいとして、同期で気心の知れた村田も
僕以上に大量の株を所有している。教えてやりたいが
ボリビア(時差12時間)にいてすぐ連絡が取れない。
奔走する僕だったが…「気に登る」
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2017年08月03日

小説『仙台ぐらし』伊坂幸太郎

コンパクトな都市仙台に暮らす心配性の著者による
エッセイ集。タクシーの運転手さんや猫との思い出、
自身の作品が映画化されたこと、作家になって
ファンと思しき人に話しかけられたら…違った。
自身の作品を買う人を見かけたり、
街でファンと出会ったり、温泉地に出かけたり、
パソコンのデータ復旧を依頼する。
東北では200年に6度大地震があり、
つまり37年周期でやってくる。と不安を抱く。
実際に地震を体験したが、
街並みだけ見たら被害が少なく見える仙台。
でもそこには言葉では言い現わせない想いを抱えて
いる人や心の傷を抱えている人もいて…。
被災地にボランティアにやってきていた人たちとの
出会いから生まれた「ブックモビール」も収録。
集英社文庫。
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2017年07月23日

小説『悪人』吉田修一

九州で殺人事件が発生。殺人者と被害者が提示され、
その事件に至った経緯、そして現在が描かれていく。
悲しい過去を持つ殺人者。事件に関わる人々が
描かれていく過程で読者に疑問を投げかけるのは
タイトル「悪人」の意味。どうやら殺人者清水祐一
そのひとを指しているわけではなさそうだと気付く。

被害者でありながら、貶められる人権。
無罪放免こそされても決して人道的に許せないヒト。
大切な人の命を奪われた家族の失意。
予期せぬ形で人を殺めてしまった好青年
だったはずの犯人が取っていた謎の行為と真意。
彼に寄り添う人々…。
事件をめぐり、人々の心がどのように動き、
行動に駆り立てられたのかを描く。後半よい。
朝日新聞出版 上・下巻
ラベル:吉田修一
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2017年07月17日

小説『ドS刑事 風が吹けば桶屋が儲かる事件』七尾与史

静岡県浜松市で発生した連続放火殺人事件を追う
猟奇的な美魔女黒井マヤと代官山はコンビを組み事件を追う。
美しいが毒ばかり吐くマヤに翻弄される部下の代官山。
通常と異なる精神回路を持つマヤは殺人現場に漂う
酸鼻な状況を心から愉しんでいる。病んでいる…。
しかも彼女、たちの悪いことに警察のおエライさん
(ナンバーツー)を父に持つ。
家族におエライさんがいるなんて浅見光彦みたいだ。
彼女の機嫌を損ない僻地に飛ばされた者もいるという。

絶対的な権力の庇護の下、やる気を見せず仕事を
サボろうとする彼女であったが抜群の推理力を持つ。
事件を追ううちにコンビを組む代官山は疑問を抱く。
彼女すでに事件の真相にたどりついてないか?
でもなぜか捜査に対して積極的な進言しないし、
推理を披露してもくれない。
代官山はクセのあるアニメオタクの先輩の助言などから
彼女の推理を推理することを選択した。

殺人の動機を持つ容疑者が次々と出てくるが
その容疑者たちが次々と焼死体となり発見される。
負の連鎖、悪意のバトン渡しのリレー。
犯行の動機(因果関係)を追っていくこのミステリーは
設定上一見イロモノ感があるが緻密に計算されていて
エンターテインメントとしては一級品。幻冬舎文庫
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2017年07月11日

小説「ラスト・コード」堂場瞬一

渡米した天才少女美咲が告げられたのは唯一の肉親である
父が殺人事件に巻き込まれたというものだった。
羽田空港に来てほしいと言われた彼女は
数学オリンピック金メダルの理系女子でまだ14歳だった。
2年前の母の死により、元々うまくいっていなかった
親子の仲は余計にこじれ、心は離れてしまっていた。

過去の「事件」をきっかけに警察内部で腫れ物に触るように
扱われている刑事筒井は被害者の娘である美咲を迎えに行く。
父の死を悲しんでいないような少女に当惑する筒井は
署をめざすのだが、何者かから襲撃を受ける。
戸惑う筒井、なぜか冷静な美咲。
応援を要請する筒井であったが、上層部の思惑、
謎の圧力がかかり、人手不足を理由に援助を受けられない。
移動する度に襲撃を受け、おまけに警察内部で
誰が味方かわからない筒井は元警察官の探偵小野寺冴
に助けを求めることにした。

徐々に明らかになっていく美咲の父の行動。
警察内部で発生した政治的駆け引き。大義なき行動。
刑事である筒井、そして警察内部の核弾頭鳴沢了、
小野寺冴が抱える正義感の功罪。
孤高の存在であることの難しさと、
組織で生きることのジレンマ。
人間の心は数字化できるものじゃないから
解き明かせない。決して…。中央文庫
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2017年07月04日

小説『逸脱 捜査一課・沢村慶司』堂場瞬一

県警捜査一課澤村は優秀だがスタンドプレーが
めだつ男で上司と対立を繰り返す。
過去に目の前で人質にされたこどもを刺殺された
過ちを償うために自らに課したのは完璧な刑事。
澤村をかばう課長谷口、コンビを組んだ初美、
プロファイリングを駆使する変人橋詰らと共に
連続殺人事件を追う。捜査陣をあざ笑うかのような
大胆かつ冷静な犯行の手口から警察関係者が疑われる。
自分の犯行、行動に関して絶対的な自信をのぞかせる
犯人は尻尾を掴ませない。ねじまがった正義感から
犯行を繰り返す犯人を追ううちに澤村はある一人の
人物に行き着く。性質の悪いことにその姿は自分を
映す鏡のような人物。悪(悪人)に近い位置に立つ
人間は悪に毒されやすい。皮肉にも犯人は…。
角川文庫
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2017年06月28日

小説『公開処刑人 森のくまさん』堀内公太郎

「森のくまさん」は私刑による死刑執行人。
犯行声明をネット上で公開し世間に話題を提供。
被害者は生前に悪い行いをしていた悪党や小悪党であり
生前は加害者。よって世間では彼を支持する者も多い。
「正義の味方」、世直し的ヒーロー的立場を得た
森のくまさんこと連続殺人犯の正体は?

自殺をしようとしていた女子高生たちの前に現れたのは
救いの神だったのか?それとも悪魔だったのか?
最も解きやすい推理小説のひとつであり、
ツッコミどころも多いがやはり設定のインパクト、
森のくまさんの不気味さ、魅力、
サクサク読める平易な文章を評価したい。
単なるサイコパス的な連続殺人犯モノで終わらず、
犯人が悪意の種や社会不安をばらまいていく過程は
目をみはるものがある。宝島社文庫 このミス大賞
ラベル:推理小説
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2017年06月25日

小説『船上にて』若竹七海

未成年という立場を悪用する橋爪は同級生の姉に惚れ、
拒絶されたことから凶行に及ぼうとするが撃退される。
残念な男は残念ながら意識を取り戻し、逆恨み。
再び犯行を企てるのであった。【タッチアウト】

手紙を書くのももらうのも大嫌いという主人公。
これはきっと厳格でありながら冗談好きでもあった
はた迷惑な祖父の影響に違いない。
そんな彼女がどうしても手紙を書かねばならない
状況に追い込まれた。追い詰められた彼女は
手紙の書き方を記した一冊の本にたどりつき…【手紙嫌い】

言葉で、手紙で想いはどこまで届けられるのか?
5つの手紙に隠された秘密を追う【かさねことのは】

ナポレオンの頭蓋骨というインチキ臭い代物を
手に入れた苦労知らずのおぼっちゃんだったが紛失。
盗まれたと騒ぎ出し、居合わせた者を疑う。
巨大なダイヤモンドが忽然と姿を消した昔の事件を
解決した男の推理とは?【表題作 船上にて】
など8編を収録した短編集。講談社文庫
ラベル:若竹七海 短編集
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2017年06月21日

小説『穴』原宏一

富士樹海に死ぬためにやってきた男はロクじいと
名乗る仙人のような男と出会う。素直な男は
説き伏せられてしまい、同居して生きることに。
カズヒロという他人の名前を拝借し、洞穴の中で
縄文時代のような狩猟採集生活を営んでいたら、
不思議と楽しい。生きている感覚を肌で実感する。

そして新たな住人が。政治家秘書をしていた男は
裏切りに遭い、いけにえとして罪をすべて被せられ、
地検や刺客から逃亡を図っていた。疑心暗鬼に
かられる男はコタニと名乗る。
警戒心を持ちながらロクじいとカズヒロに接する。

温泉で出会った女はタツコと名乗り、いっしょに
生活を送ることになった。したたかで、男を利用
することで生き延びてきたタツコは平気で人を
裏切る峰不二子のような悪女。
カズヒロと親しくなったタツコは彼から綺麗な石を
プレゼントされる。妙に博識なロクじいから
モリブデンと言われるレアメタルだと教えられる。
もし鉱脈だとしたら莫大な富を得られるかも…
欲にかられたタツコによりサバイバル生活に
亀裂が生まれ、各自の思惑が交差する…。

不思議な老人ロクじい、素直で単純なカズヒロ、
計算高いクスブリコタニ、きままな女王様タツコ。
彼らがそれぞれめざし、掲げた理想郷、国とは?
現代の穴に落ち込み、竪穴式洞窟での生活の彼らが
思い描いた青写真とは? 実業之日本社
ラベル:原宏一 おすすめ
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2017年06月17日

小説『母恋旅烏』荻原浩

花菱家は出鱈目な父のせいでサイコロ的バクチ生活を
余儀なくされている。元々大衆演劇の役者であった父、
彼のファンだった母。兄、姉、そして僕。姉の子6人の
花菱家はけったいな仕事をしていた。
レンタル家族派遣業である。リクエストされた家族として
3時間数万円などの報酬を得ることで生活をしていた。

安定しない仕事なので家計は火の車であり、
ケンカは絶えず、借金取りから逃げる日々…。
それなのにあまり悲壮感が漂わないのは、
語り手であることが多いお調子者の僕の存在が大きい。
父に振り回される日々にいい加減うんざりした兄は
自立をめざし、姉は家を飛び出し夢を追いかける。
そして僕や母は…。笑いあり、涙ありの珍道中は
大団円を迎えるのか?双葉文庫
ラベル:荻原浩
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2017年06月13日

小説『わるいやつら』松本清張

病院を営む医者戸谷信一。複数の愛人を持ち
彼女たちを利用し金を巻き上げ、
手前勝手な理論で生きている冷酷な男である。
経営能力がなく毎月のように赤字を計上する病院。
その赤字は経済力を持つ愛人から引き出す。
不仲な妻とは離婚したいが、それにもまとまった
慰謝料が必要であり、現在の婚姻関係ですら
愛人への歓心、カンフル剤に用いている気すらする。
愛人たちとの関係、病院経営の圧迫から犯罪に
手を染め悪党に堕ちた戸谷。戸谷は医者という立場、
とりわけ死亡診断書を作成できる能力をフル活用。

自己の欲望の為なら平気で他人を利用する戸谷。
だが、経営者槙村隆子と出会い強く惹きつけられる。
彼女と結婚するには自分が経済力に優れた男である
ことをアピールする必要がある。友であり弁護士
下見沢に相談し、隆子の歓心を買おうとする戸谷。
しかし隆子は一筋縄でいかない女性であった。
更に、過去の悪事の捜査が進展しはじめ…。

物語は1960年頃描かれたが、この作品自体は
とにかくすごいの一言。主人公である戸谷は
清々しいくらいのわるいやつである。いわゆる
ピカレスク小説であり、読者を飽きさせない展開、
ミステリーとしても一級品である。
人がモンスターに変化していく過程、心理描写、
逆転劇に思わず鳥肌が立った。主要人物たちが
果たす役割を考えた時、無駄のなさに感嘆した。
新潮文庫 上・下巻 
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2017年06月10日

小説『犯人に告ぐ』雫井脩介

児童誘拐事件が発生し、身代金を要求する犯人を追う
神奈川県警は警視庁との合同捜査を決行。
しかし、手柄をめざす巻島史彦警視を提言により
神奈川県警が主導をめぐる捜査となった。
事件性及び注目の集まるこの事件は、最悪の結果に終わる。
記者会見で矢面に立たされた巻島は裕次郎の兄ばりの
大失態を演じ、非難を浴び事件は後味の悪い幕引きとなる。
事件後犯人と思しき「ワシ」を名乗る者から手紙が届き、
自己を弁護し、責任を転嫁する身勝手な内容だった。
この事件以降神奈川県警の不祥事が相次ぎ、
それから6年の歳月が流れた。

バッドマンを名乗る児童連続殺人事件が川崎で発生。
捜査は難航し住民の不安と不満は募る一方だった。
人を喰ったかのような犯行声明文に歯噛みする捜査陣。
曽根本部長は低迷する県内での犯罪検挙率に着目。
検挙率を上げている地域に着目し、巻島の名を思い出す。
劇薬とばかりに白羽の矢を立てた巻島を利用。
テレビニュースに現役捜査官として登場させることで
事件の解決を図るという劇場型捜査に乗り出した。
住民から情報を呼びかけることはもちろん、
犯人をあぶり出すことが主たる目的である。

マスコミを利用したこの捜査は一定の効果をあげるが
同時にその手法から警察内部や世間から非難を浴びる。
しかも公私混同に走る獅子身中の虫が捜査情報を漏らす
暴挙に出る始末。バッドマンを騙る模倣犯やいたずらも
相次ぎ、捜査本部を惑わすが思わぬ形で犯人に肉薄する。
この事件は絶対に自分が解決すると闘志を燃やす巻島は
犯人に「勝利宣言」を突きつけた。

過去の過ちとの対峙や警察官のジレンマ。
捜査陣の中に足を引っ張る存在を配置したこと。
報道が捜査の妨害になる可能性の示唆。
被害者家族への配慮。謝罪の難しさ。
多くの要素を内包した警察小説の名作。双葉文庫上下巻
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2017年06月07日

小説『月と雷』角田光代

親切な人の家を転々とするというでたらめな生き方の
母親に育てられた東原智。如才なく女性にモテる悟。
だがいざ結婚しようとしても、相手からはあっさり
断られ、首をかしげながら30代半ばを迎えた。
飯は外食ばかり、お菓子で済ませることも多い自分。
金が尽きればバイトするという根無し草体質。
女性の母性本能をくすぐるも、結婚相手とは捉えられない。
原因は生い立ちか…。

智はかうて母と共に転がり込んだ家庭で、
小学校にも行かず、裸になって自堕落に自由に
すごした同世代の女の子(泰子)のことを思い出す。
その子のことが運命の相手かもと思い込んで
会いに行くことに。泰子は智、そしてその母直子が
家に転がり込んだことがきっかけで父と母の関係が悪化。
家庭が崩壊したと思っていた。しかし、思い返すと
その怠惰で不思議な生活は幸せだったような気すらする。

仕事を通じて知り合った太郎と婚約も決まり、
しあわせをつかむはずだった泰子。
でもどうやら過去の不幸が追いかけてきたと直感した。
屈託なく話す智を泊める羽目になり…。

智の母親は60を過ぎても、未だに親切な人に
捨て猫のように拾われて面倒を見てもらっている。
究極の才能かもしれない。しかし、放浪の民のように
ひとところに留まらず思い出したように家をなくす。

泰子は音信不通となってしまった自分の母の消息を
捜してほしいと智に依頼した。智はテレビの
失踪人捜索番組の手を借りることを思いつく。

ある種の腐れ縁が、そして偶然の選択が関わる人の
人生を大きく変えてしまう。しかし不思議と人と
いうものは納まる所に落ち着くものなのかもしれない。
中公文庫
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2017年06月03日

小説『漁港の肉子ちゃん』西加奈子

悪い男にだまされ続ける肉子ちゃんと
漁港の街に流れ着いた私。無邪気で憎めない
太っちょ肉子ちゃんは他人に警戒心を与えない。
全然似ていない母娘と言われる肉子ちゃんとスリムな私。
この漁港の街で温かい人たちに支えられ生きている。

私ことキクりんは小学生の女の子。
子供っぽい肉子ちゃんのせいなのか大人びた少女で
本を読むのとバスケが好き。
才色兼備で周囲の評価も上々。
動物がしゃべっているのがわかったり、
三つ子のおじいさんの幽霊が見られる。
一方、肉子ちゃんは言うと…。娘からも心配される
脳天気で明るくだらしない性格で体型もだらしない。
この地域の有名人でゆるキャラ的人気がある。
キクりんは気恥ずかしいと感じてしまうこともある。

漁港の街で成長を遂げるキクりんは肉子ちゃんから
強い愛情を感じながら、日々を送っている。
女子同士の内紛、対立に巻き込まれうんざりし、
同級生二宮の奇態を目撃し、
水族館内を我が物顔で歩くペンギンカンコに注目。
淡い初恋を経験し、友情を取り戻す。
やさしさに包まれた瞬間に触れた時思わずこぼれる涙。
こういう作品に出会えた時は素直に快哉を叫びたい。
幻冬舎文庫
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2017年05月27日

小説『本日は大安なり』辻村深月

11月22日大安吉日。
結婚式場に集まった訳ありの面々により、
予想外の事態が次々と巻き起こる。
正直、作者がこじらせたのかと心配になったが
読み進めると山積みかと思われた課題が解決されていく。
辻村先生の作品は読者の心をざわつかせるなぁ。

老舗として評判も高いが値段も高い結婚式場。
本日は大安ということもあり4組の新郎新婦が
華燭の典を挙げる。大金を支払うこともあってか
わがままなクレーマー新婦を担当することになった
プランナーの多香子は、私情を押し殺し式に臨む。
最悪の相手さえ乗り切ればこの先もずっとこの仕事を
全うできるはず…。がんばれ多香子応援だけしてるぞ。
また厄介事を押し付けられるけど、
きっと君を見守ってくれる人もいる…はず。

さて、別の新郎新婦に目を転じようか。
おや、一卵性双生児の美人双子姉妹の一方が
本日めでたく結婚するらしいぞ。でもこの二人、
とんだ食わせ物だぞ。双子という立場や生い立ちも
関係してか、お互いに複雑な感情を抱いているみたい。
厄介な双子に振り回される新郎はついつい本音を。
勘弁してよ、と。

おや、こちらは結婚前に散々揉めた新郎新婦だ。
薬剤師の新婦りえさんと結婚するのは同じ職場で
アルバイトのまことさんかぁ。いわゆる格差婚。
新婦側の親御さんの反対押し切った結婚だ。
結婚しちゃって大丈夫かしら。
りえを心配するオレこと小学生の真空君は
まことの秘密を知ってしまった。
なんとかこの結婚式をやめさせたいと考えている。
小学生の健気な想いは通じるのか?

そして最後は結婚式場をうろつく不審な男。
自分の普段の行いの悪さから墓穴を掘り、
いよいよ切羽詰まった状態に追い込まれた男。
犯罪者メンタルに陥った男が余計なことを
しでかしてしまいそう。不穏な空気が漂っている。
角川文庫
ラベル:辻村深月
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2017年05月24日

小説『あの日にドライブ』荻原浩

上司に反目したことで銀行を辞めた牧村は
腰掛けのつもりでタクシー運転手になった。
銀行というクソみたいな職場、カス上司のせいで
割をくってきた家族。その報いからか、
家では肩身が狭くなり、会話も弾まない。

あの日あのときに戻ってあの道、あの選択をしていたら…
あのときああしていればの「タラレバオヤジ」と化した
牧村は妄想という現実逃避に走る。
銀行員として出世を続ける自分。
思わぬ出会いにより大会社にスカウトされる自分。
プロ野球選手になっていたかも。
大学時代夢見た出版関係の仕事。
そしてかつての恋人と結婚していたら…。
あの時もしも違う選択をし、あのカーブを曲がれば、
それこそすばらしい道を歩めていたかも…。

営業成績が上がらない彼は営業部長に罵られ、
ストレスと不規則な生活がたたり円形脱毛症に。
運が悪いから成績上がらないとギリギリプライドを保つ。
しかし、戦時中飛行機乗りだった隊長さんの営業努力や、
意外な過去を持つ山城たち同僚の姿、
かつての恋人の現在などを知るうちにはたと気付く。
青春を追うかのように自分にゆかりの場所や
人を求め出した牧村が行き着いた答えとは?
かっこ悪すぎる主人公に我慢を強いられるが、
最後まで読むと納得できるかなぁ。光文社文庫
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2017年05月20日

小説『ザビエルの首』柳広司

教科書に載る位有名な人物宣教師ザビエルを追う
超常現象の物書き修平。奇跡体験を通じて
生前ザビエルが遭遇した謎を秘めた殺人現場に遭遇。
不思議な力により事件を目撃した修平は、
事件に居合わせた人物の中に憑依し真相を暴く。

死後ザビエルの遺体は腐敗せず、生きているかのような
状態を保っていたという。この「奇跡」は認められ、
彼の遺体は厳重に保護されているという。
(死後2回以上の奇跡を起こし、遺体が腐敗しないと
「聖人」として認定され手厚く保護される)

ザビエルの首が鹿児島で発見されたといううさんくさい
情報を記事にするために辺境の村にやってきた修平。
どう見ても村おこしのためのでっち上げと思われたが、
ザビエルの首と、不思議な目を見た修平は
過去の世界に飛ばされていた。

自身が体験したアフガニスタンでの地獄のような日々。
大国アメリカの誤爆により結婚会場に集まった人々は
無残な最期を迎えた。戦場で修平は生死をさまよい、
一命をとりとめ帰国。当たり前のように平和な日常をすごす
日本の中で、傷は癒えたかのように思われていたが
意識下の中に「なぜ」という疑問が渦巻いていたのだろう。

なぜ何の罪もない人が殺されるのだろうか?
なぜいつの時代も人は争い合うのだろうか?
なぜ人は安易に悪意をまき散らすのか?
なぜ人は神にすがり、神は人を本質的な意味で助けないのか?
矛盾をはらんだ宗教。場合によっては犯罪にも加担し援護する。
ちんけな奇跡起こしている暇などないはずなのに。
意識下に潜んでいた「怒り」のような感情とやるせなさが
数奇な人生をすごしたザビエルと共鳴したのかもしれない。
講談社文庫
ラベル:柳広司 推理小説
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 06:47| Comment(0) | TrackBack(0) | おすすめの長編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月17日

小説『炎上する君』西加奈子

【炎上する君】
学徒動員、火垂るの墓というひどいあだ名を
つけられ灰色の学生時代をすごした二人の女性。
恋愛にうつつをぬかさず、強い意志で学業に打ち込み、
豊かなで盤石の暮らしを手に入れた。
あえて、自分たちのキャラクターと真逆のことを
してみないか?と勇ましくロックバンドを結成。
たくましい才女たちは銭湯で不思議な話をはじめる。
足元が炎上する男がいて目撃した者は幸運に恵まれる。
ロックな自分たちを演じることに疲れていた二人は
この不思議な男と出会い、二人とも燃え上がる。

【私のお尻】
容姿こそ恵まれなかった私だが、お尻だけは一級品。
お尻のパーツモデルとして大活躍し称賛を浴びる。
報酬も破格の待遇でぜいたくな暮らしも手に入れた。
でも心は満たされない。人は私のお尻ばかり見て、
お尻ばかり評価している。お尻が人格を有している。
愛しかったお尻に嫌悪感すら覚えた私は、
自分のお尻を「置いていく」ことにした。
芥川の『鼻』では主人公が自らの醜い鼻を切り離したが
この作品では誇るべき部分を切り離す。人って不思議。

【ある風船の落下】
自分の身体が浮かび上がり、最終的に空高く
舞い上がってしまう「風船病」が世界中で発生。
原因はストレスを抱え込み、この世に絶望した者が
地球の重力から解き放たれるとされる。
つまり形を変えた「自殺」であると言われている。
家で、学校で迫害され、愛を信じられない私も
風船病にかかり、母の心ない言葉で悲しみのない空に。
そこには地上に絶望し、このやさしい空にただよう
世界中の人たちが浮かんでいた。

など8編を収録した短編集。ずば抜けた発想力、
作品に流れるユーモアと愛情、
苦界で戦うことを辞さない潔さなどが光る。角川文庫
posted by book0001,世界は誰にでも、読書初心者におすすめ at 07:25| Comment(0) | TrackBack(0) | すごくおすすめの短編・短編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする