2017年06月25日

小説『船上にて』若竹七海

未成年という立場を悪用する橋爪は同級生の姉に惚れ、
拒絶されたことから凶行に及ぼうとするが撃退される。
残念な男は残念ながら意識を取り戻し、逆恨み。
再び犯行を企てるのであった。【タッチアウト】

手紙を書くのももらうのも大嫌いという主人公。
これはきっと厳格でありながら冗談好きでもあった
はた迷惑な祖父の影響に違いない。
そんな彼女がどうしても手紙を書かねばならない
状況に追い込まれた。追い詰められた彼女は
手紙の書き方を記した一冊の本にたどりつき…【手紙嫌い】

言葉で、手紙で想いはどこまで届けられるのか?
5つの手紙に隠された秘密を追う【かさねことのは】

ナポレオンの頭蓋骨というインチキ臭い代物を
手に入れた苦労知らずのおぼっちゃんだったが紛失。
盗まれたと騒ぎ出し、居合わせた者を疑う。
巨大なダイヤモンドが忽然と姿を消した昔の事件を
解決した男の推理とは?【表題作 船上にて】
など8編を収録した短編集。講談社文庫
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2017年06月21日

小説『穴』原宏一

富士樹海に死ぬためにやってきた男はロクじいと
名乗る仙人のような男と出会う。素直な男は
説き伏せられてしまい、同居して生きることに。
カズヒロという他人の名前を拝借し、洞穴の中で
縄文時代のような狩猟採集生活を営んでいたら、
不思議と楽しい。生きている感覚を肌で実感する。

そして新たな住人が。政治家秘書をしていた男は
裏切りに遭い、いけにえとして罪をすべて被せられ、
地検や刺客から逃亡を図っていた。疑心暗鬼に
かられる男はコタニと名乗る。
警戒心を持ちながらロクじいとカズヒロに接する。

温泉で出会った女はタツコと名乗り、いっしょに
生活を送ることになった。したたかで、男を利用
することで生き延びてきたタツコは平気で人を
裏切る峰不二子のような悪女。
カズヒロと親しくなったタツコは彼から綺麗な石を
プレゼントされる。妙に博識なロクじいから
モリブデンと言われるレアメタルだと教えられる。
もし鉱脈だとしたら莫大な富を得られるかも…
欲にかられたタツコによりサバイバル生活に
亀裂が生まれ、各自の思惑が交差する…。

不思議な老人ロクじい、素直で単純なカズヒロ、
計算高いクスブリコタニ、きままな女王様タツコ。
彼らがそれぞれめざし、掲げた理想郷、国とは?
現代の穴に落ち込み、竪穴式洞窟での生活の彼らが
思い描いた青写真とは? 実業之日本社
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2017年06月17日

小説『母恋旅烏』荻原浩

花菱家は出鱈目な父のせいでサイコロ的バクチ生活を
余儀なくされている。元々大衆演劇の役者であった父、
彼のファンだった母。兄、姉、そして僕。姉の子6人の
花菱家はけったいな仕事をしていた。
レンタル家族派遣業である。リクエストされた家族として
3時間数万円などの報酬を得ることで生活をしていた。

安定しない仕事なので家計は火の車であり、
ケンカは絶えず、借金取りから逃げる日々…。
それなのにあまり悲壮感が漂わないのは、
語り手であることが多いお調子者の僕の存在が大きい。
父に振り回される日々にいい加減うんざりした兄は
自立をめざし、姉は家を飛び出し夢を追いかける。
そして僕や母は…。笑いあり、涙ありの珍道中は
大団円を迎えるのか?双葉文庫
タグ:荻原浩
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2017年06月13日

小説『わるいやつら』松本清張

病院を営む医者戸谷信一。複数の愛人を持ち
彼女たちを利用し金を巻き上げ、
手前勝手な理論で生きている冷酷な男である。
経営能力がなく毎月のように赤字を計上する病院。
その赤字は経済力を持つ愛人から引き出す。
不仲な妻とは離婚したいが、それにもまとまった
慰謝料が必要であり、現在の婚姻関係ですら
愛人への歓心、カンフル剤に用いている気すらする。
愛人たちとの関係、病院経営の圧迫から犯罪に
手を染め悪党に堕ちた戸谷。戸谷は医者という立場、
とりわけ死亡診断書を作成できる能力をフル活用。

自己の欲望の為なら平気で他人を利用する戸谷。
だが、経営者槙村隆子と出会い強く惹きつけられる。
彼女と結婚するには自分が経済力に優れた男である
ことをアピールする必要がある。友であり弁護士
下見沢に相談し、隆子の歓心を買おうとする戸谷。
しかし隆子は一筋縄でいかない女性であった。
更に、過去の悪事の捜査が進展しはじめ…。

物語は1960年頃描かれたが、この作品自体は
とにかくすごいの一言。主人公である戸谷は
清々しいくらいのわるいやつである。いわゆる
ピカレスク小説であり、読者を飽きさせない展開、
ミステリーとしても一級品である。
人がモンスターに変化していく過程、心理描写、
逆転劇に思わず鳥肌が立った。主要人物たちが
果たす役割を考えた時、無駄のなさに感嘆した。
新潮文庫 上・下巻 
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2017年06月10日

小説『犯人に告ぐ』雫井脩介

児童誘拐事件が発生し、身代金を要求する犯人を追う
神奈川県警は警視庁との合同捜査を決行。
しかし、手柄をめざす巻島史彦警視を提言により
神奈川県警が主導をめぐる捜査となった。
事件性及び注目の集まるこの事件は、最悪の結果に終わる。
記者会見で矢面に立たされた巻島は裕次郎の兄ばりの
大失態を演じ、非難を浴び事件は後味の悪い幕引きとなる。
事件後犯人と思しき「ワシ」を名乗る者から手紙が届き、
自己を弁護し、責任を転嫁する身勝手な内容だった。
この事件以降神奈川県警の不祥事が相次ぎ、
それから6年の歳月が流れた。

バッドマンを名乗る児童連続殺人事件が川崎で発生。
捜査は難航し住民の不安と不満は募る一方だった。
人を喰ったかのような犯行声明文に歯噛みする捜査陣。
曽根本部長は低迷する県内での犯罪検挙率に着目。
検挙率を上げている地域に着目し、巻島の名を思い出す。
劇薬とばかりに白羽の矢を立てた巻島を利用。
テレビニュースに現役捜査官として登場させることで
事件の解決を図るという劇場型捜査に乗り出した。
住民から情報を呼びかけることはもちろん、
犯人をあぶり出すことが主たる目的である。

マスコミを利用したこの捜査は一定の効果をあげるが
同時にその手法から警察内部や世間から非難を浴びる。
しかも公私混同に走る獅子身中の虫が捜査情報を漏らす
暴挙に出る始末。バッドマンを騙る模倣犯やいたずらも
相次ぎ、捜査本部を惑わすが思わぬ形で犯人に肉薄する。
この事件は絶対に自分が解決すると闘志を燃やす巻島は
犯人に「勝利宣言」を突きつけた。

過去の過ちとの対峙や警察官のジレンマ。
捜査陣の中に足を引っ張る存在を配置したこと。
報道が捜査の妨害になる可能性の示唆。
被害者家族への配慮。謝罪の難しさ。
多くの要素を内包した警察小説の名作。双葉文庫上下巻
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2017年06月07日

小説『月と雷』角田光代

親切な人の家を転々とするというでたらめな生き方の
母親に育てられた東原智。如才なく女性にモテる悟。
だがいざ結婚しようとしても、相手からはあっさり
断られ、首をかしげながら30代半ばを迎えた。
飯は外食ばかり、お菓子で済ませることも多い自分。
金が尽きればバイトするという根無し草体質。
女性の母性本能をくすぐるも、結婚相手とは捉えられない。
原因は生い立ちか…。

智はかうて母と共に転がり込んだ家庭で、
小学校にも行かず、裸になって自堕落に自由に
すごした同世代の女の子(泰子)のことを思い出す。
その子のことが運命の相手かもと思い込んで
会いに行くことに。泰子は智、そしてその母直子が
家に転がり込んだことがきっかけで父と母の関係が悪化。
家庭が崩壊したと思っていた。しかし、思い返すと
その怠惰で不思議な生活は幸せだったような気すらする。

仕事を通じて知り合った太郎と婚約も決まり、
しあわせをつかむはずだった泰子。
でもどうやら過去の不幸が追いかけてきたと直感した。
屈託なく話す智を泊める羽目になり…。

智の母親は60を過ぎても、未だに親切な人に
捨て猫のように拾われて面倒を見てもらっている。
究極の才能かもしれない。しかし、放浪の民のように
ひとところに留まらず思い出したように家をなくす。

泰子は音信不通となってしまった自分の母の消息を
捜してほしいと智に依頼した。智はテレビの
失踪人捜索番組の手を借りることを思いつく。

ある種の腐れ縁が、そして偶然の選択が関わる人の
人生を大きく変えてしまう。しかし不思議と人と
いうものは納まる所に落ち着くものなのかもしれない。
中公文庫
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2017年06月03日

小説『漁港の肉子ちゃん』西加奈子

悪い男にだまされ続ける肉子ちゃんと
漁港の街に流れ着いた私。無邪気で憎めない
太っちょ肉子ちゃんは他人に警戒心を与えない。
全然似ていない母娘と言われる肉子ちゃんとスリムな私。
この漁港の街で温かい人たちに支えられ生きている。

私ことキクりんは小学生の女の子。
子供っぽい肉子ちゃんのせいなのか大人びた少女で
本を読むのとバスケが好き。
才色兼備で周囲の評価も上々。
動物がしゃべっているのがわかったり、
三つ子のおじいさんの幽霊が見られる。
一方、肉子ちゃんは言うと…。娘からも心配される
脳天気で明るくだらしない性格で体型もだらしない。
この地域の有名人でゆるキャラ的人気がある。
キクりんは気恥ずかしいと感じてしまうこともある。

漁港の街で成長を遂げるキクりんは肉子ちゃんから
強い愛情を感じながら、日々を送っている。
女子同士の内紛、対立に巻き込まれうんざりし、
同級生二宮の奇態を目撃し、
水族館内を我が物顔で歩くペンギンカンコに注目。
淡い初恋を経験し、友情を取り戻す。
やさしさに包まれた瞬間に触れた時思わずこぼれる涙。
こういう作品に出会えた時は素直に快哉を叫びたい。
幻冬舎文庫
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2017年05月27日

小説『本日は大安なり』辻村深月

11月22日大安吉日。
結婚式場に集まった訳ありの面々により、
予想外の事態が次々と巻き起こる。
正直、作者がこじらせたのかと心配になったが
読み進めると山積みかと思われた課題が解決されていく。
辻村先生の作品は読者の心をざわつかせるなぁ。

老舗として評判も高いが値段も高い結婚式場。
本日は大安ということもあり4組の新郎新婦が
華燭の典を挙げる。大金を支払うこともあってか
わがままなクレーマー新婦を担当することになった
プランナーの多香子は、私情を押し殺し式に臨む。
最悪の相手さえ乗り切ればこの先もずっとこの仕事を
全うできるはず…。がんばれ多香子応援だけしてるぞ。
また厄介事を押し付けられるけど、
きっと君を見守ってくれる人もいる…はず。

さて、別の新郎新婦に目を転じようか。
おや、一卵性双生児の美人双子姉妹の一方が
本日めでたく結婚するらしいぞ。でもこの二人、
とんだ食わせ物だぞ。双子という立場や生い立ちも
関係してか、お互いに複雑な感情を抱いているみたい。
厄介な双子に振り回される新郎はついつい本音を。
勘弁してよ、と。

おや、こちらは結婚前に散々揉めた新郎新婦だ。
薬剤師の新婦りえさんと結婚するのは同じ職場で
アルバイトのまことさんかぁ。いわゆる格差婚。
新婦側の親御さんの反対押し切った結婚だ。
結婚しちゃって大丈夫かしら。
りえを心配するオレこと小学生の真空君は
まことの秘密を知ってしまった。
なんとかこの結婚式をやめさせたいと考えている。
小学生の健気な想いは通じるのか?

そして最後は結婚式場をうろつく不審な男。
自分の普段の行いの悪さから墓穴を掘り、
いよいよ切羽詰まった状態に追い込まれた男。
犯罪者メンタルに陥った男が余計なことを
しでかしてしまいそう。不穏な空気が漂っている。
角川文庫
タグ:辻村深月
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2017年05月24日

小説『あの日にドライブ』荻原浩

上司に反目したことで銀行を辞めた牧村は
腰掛けのつもりでタクシー運転手になった。
銀行というクソみたいな職場、カス上司のせいで
割をくってきた家族。その報いからか、
家では肩身が狭くなり、会話も弾まない。

あの日あのときに戻ってあの道、あの選択をしていたら…
あのときああしていればの「タラレバオヤジ」と化した
牧村は妄想という現実逃避に走る。
銀行員として出世を続ける自分。
思わぬ出会いにより大会社にスカウトされる自分。
プロ野球選手になっていたかも。
大学時代夢見た出版関係の仕事。
そしてかつての恋人と結婚していたら…。
あの時もしも違う選択をし、あのカーブを曲がれば、
それこそすばらしい道を歩めていたかも…。

営業成績が上がらない彼は営業部長に罵られ、
ストレスと不規則な生活がたたり円形脱毛症に。
運が悪いから成績上がらないとギリギリプライドを保つ。
しかし、戦時中飛行機乗りだった隊長さんの営業努力や、
意外な過去を持つ山城たち同僚の姿、
かつての恋人の現在などを知るうちにはたと気付く。
青春を追うかのように自分にゆかりの場所や
人を求め出した牧村が行き着いた答えとは?
かっこ悪すぎる主人公に我慢を強いられるが、
最後まで読むと納得できるかなぁ。光文社文庫
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2017年05月20日

小説『ザビエルの首』柳広司

教科書に載る位有名な人物宣教師ザビエルを追う
超常現象の物書き修平。奇跡体験を通じて
生前ザビエルが遭遇した謎を秘めた殺人現場に遭遇。
不思議な力により事件を目撃した修平は、
事件に居合わせた人物の中に憑依し真相を暴く。

死後ザビエルの遺体は腐敗せず、生きているかのような
状態を保っていたという。この「奇跡」は認められ、
彼の遺体は厳重に保護されているという。
(死後2回以上の奇跡を起こし、遺体が腐敗しないと
「聖人」として認定され手厚く保護される)

ザビエルの首が鹿児島で発見されたといううさんくさい
情報を記事にするために辺境の村にやってきた修平。
どう見ても村おこしのためのでっち上げと思われたが、
ザビエルの首と、不思議な目を見た修平は
過去の世界に飛ばされていた。

自身が体験したアフガニスタンでの地獄のような日々。
大国アメリカの誤爆により結婚会場に集まった人々は
無残な最期を迎えた。戦場で修平は生死をさまよい、
一命をとりとめ帰国。当たり前のように平和な日常をすごす
日本の中で、傷は癒えたかのように思われていたが
意識下の中に「なぜ」という疑問が渦巻いていたのだろう。

なぜ何の罪もない人が殺されるのだろうか?
なぜいつの時代も人は争い合うのだろうか?
なぜ人は安易に悪意をまき散らすのか?
なぜ人は神にすがり、神は人を本質的な意味で助けないのか?
矛盾をはらんだ宗教。場合によっては犯罪にも加担し援護する。
ちんけな奇跡起こしている暇などないはずなのに。
意識下に潜んでいた「怒り」のような感情とやるせなさが
数奇な人生をすごしたザビエルと共鳴したのかもしれない。
講談社文庫
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2017年05月17日

小説『炎上する君』西加奈子

【炎上する君】
学徒動員、火垂るの墓というひどいあだ名を
つけられ灰色の学生時代をすごした二人の女性。
恋愛にうつつをぬかさず、強い意志で学業に打ち込み、
豊かなで盤石の暮らしを手に入れた。
あえて、自分たちのキャラクターと真逆のことを
してみないか?と勇ましくロックバンドを結成。
たくましい才女たちは銭湯で不思議な話をはじめる。
足元が炎上する男がいて目撃した者は幸運に恵まれる。
ロックな自分たちを演じることに疲れていた二人は
この不思議な男と出会い、二人とも燃え上がる。

【私のお尻】
容姿こそ恵まれなかった私だが、お尻だけは一級品。
お尻のパーツモデルとして大活躍し称賛を浴びる。
報酬も破格の待遇でぜいたくな暮らしも手に入れた。
でも心は満たされない。人は私のお尻ばかり見て、
お尻ばかり評価している。お尻が人格を有している。
愛しかったお尻に嫌悪感すら覚えた私は、
自分のお尻を「置いていく」ことにした。
芥川の『鼻』では主人公が自らの醜い鼻を切り離したが
この作品では誇るべき部分を切り離す。人って不思議。

【ある風船の落下】
自分の身体が浮かび上がり、最終的に空高く
舞い上がってしまう「風船病」が世界中で発生。
原因はストレスを抱え込み、この世に絶望した者が
地球の重力から解き放たれるとされる。
つまり形を変えた「自殺」であると言われている。
家で、学校で迫害され、愛を信じられない私も
風船病にかかり、母の心ない言葉で悲しみのない空に。
そこには地上に絶望し、このやさしい空にただよう
世界中の人たちが浮かんでいた。

など8編を収録した短編集。ずば抜けた発想力、
作品に流れるユーモアと愛情、
苦界で戦うことを辞さない潔さなどが光る。角川文庫
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2017年05月13日

小説『円卓』西加奈子

三つ子の姉を含む8人家族と暮らすこっこ。
孤独にあこがれ、フツーとは違う自分を気取り
こじらせてしまっている変わり者の小学三年生。
家族すらもバカにしながら、やはり変わり者である
祖父石太とだけは認め合う存在だ。
家族から深い愛情を受けながら…、困ったものだ。
家族は中華料理屋にある自動式円卓で食事をしながら
楽しい時間をすごしていたが、自分の世界に入り込む
こっこはうわの空で別のことを考えていた。
ああ、みんなの注目を集めたいものだ。

賢い同級生ぽっさん、朴、おませなセルゲイ、
大人びた香田めぐみさんらと共にすごすこっこ。
日々新鮮な驚きを感じ、自分が認める一部の者以外の
平凡ぶりに不満を覚え、心の中で、口に出して罵倒する。
しかし自分が考えているほど賢くないので
ぼっさんからの忠告を忘れ、暴走し失敗してしまう。
子供なりの万能感、全能感で好き勝手に振る舞える
ある種の黄金時代だった。

だが、ねずみ男との出会い、
新しい家族(命)の誕生、
同級生の奇矯な振る舞いを目撃し、悩むことに。
自分の価値観と他人や世間の価値観の違いに
とまどうこっこ。親友ぽっさん、祖父石太と共に
自らの言葉にできない想いをひも解いていく。
キャラクターたちに覚えるいとしさ。
あふれ出す文才とユーモア。文春文庫。
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2017年05月10日

小説『見えない復讐』石持浅海

田島、坂元、中西の学生三人はある目的から
ベンチャー企業を立ち上げた。東京産業大学院生
(口の悪い者は倒産大と呼ぶ、さいたま市にある)
の彼らは卒業生でありエンジェル投資家小池を頼る。
強い熱意と情熱を見せる田島であったが、
小池は彼のゲーム企画を断ることにした。
母校を訪れた小池は田島たちの不思議な行動を目撃。
「謎の行動」という疑問から「答え」を導き出した
小池はスポンサーを表明。小池の裏の目的とは?

某大学ではかねてから自殺者が後を絶たない。
しかし大学当局は具体的な措置、
対策を講じないまま、いたずらに時が流れていた。
大切な人物を自殺という形で失った主要人物の4人。
その胸に去来する想いはタイトルが示す通り
見えない復讐である。

法人である大学をなくすことが最終目標。
実行するには莫大な資金が必要と結論付けた学生たち。
そのための起業。資金集めである。資金を持たない
彼らにできる大学当局へのテロとは嫌がらせレベル。
しかし秘められた悪意は確実に大学にダメージを与える。
田島、小池は本心を隠した二人の天才は
頭脳を駆使し、提示された謎の真相、核心に迫っていく。
暗喩、明示される事象を読み解く楽しさに
興奮が止まらない極上ミステリー。角川文庫
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2017年05月07日

小説『或る「小倉日記」伝』松本清張

森鷗外の研究を生涯の目標とした身体が不自由な耕作。
鷗外全集を編纂する際に見つからなかった「小倉日記」
に代わる研究をしようと苦労しながら鷗外の足跡を辿る。
表題作、芥川賞受賞作

結婚相手の父親が失踪宣告により除籍されていた。
頼子は秦雄から事の顛末を告白される。
そこに隠されていた謎を解くのは妹頼子から
このことを相談された兄貞一だった。「火の記憶」

戦地で繰り広げられる恋のさや当て。
魂までも敗北者となり果てた二人の男は
浅ましい事件をきっかけに暴走し…「赤いくじ」

浮気をしていた北沢は旅館で盗難に遭い途方に暮れる。
そして小役人北沢が思い浮かべたのは赤堀という
男の顔であった。事なきを北沢であったが、
大方の予想通りただでは済まないのだった。「弱味」

など12編を収録した傑作短編集。新潮文庫
人の転落、狂気、業、思考、心理描写、人生…
時代は変わっても共感、納得できる名作ずらり。
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2017年05月04日

小説『白いしるし』西加奈子

32歳。失恋を繰り返す夏目は恋に溺れぬように
絵を描きながら日々を送る。それだけでは
食べられないのでバーテンダーをしている。
写真家の男友達瀬田の紹介により、かねてから
心を奪われるような絵を描く間島と出会う。
本人が危惧していたように、超然とした間島に
強く惹きつけられ恋に溺れてしまう夏目。
自分の絵を、自分のことを好きだと言ってくれる
間島だったが、暗い影のような存在が見え隠れ。
彼には自分が踏み込めない聖域のようなものがある。
かつて体験した失恋の痛みがかさぶたに変わる日は
来るのか?全身全霊をかけた恋の行方は。新潮文庫
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2017年05月01日

小説『ダークゾーン』貴志祐介

プロ棋士をめざす3段塚田20歳。異世界の中で
キングとなった彼は将棋とチェス、カードゲームを
混ぜたようなゲームを興じることになった。
仮想現実の世界は空腹や生理的欲求を覚えないが、
肉体的・精神的苦痛はプレイヤーに連動する。
あいまいな記憶の中でプレイヤーたちは塚田の記憶の
中で存在する者たち。自分の教授であったり、
大学の友であったり、恋人である理沙もいる。
理沙たちはゲーム特有の変化(化け物化)しており
それぞれのキャラクターに応じた強大な能力を有する。
キングとなった塚田は、現実の世界で将棋のライバルの
立場にある奥本(キング)と七番勝負をすることに。
状況を把握していない塚田に対し、奥本は先制攻撃を
繰り出し、生死を懸けた頭脳戦が繰り広げられる。

キングをとるまで続くこのゲームは凄惨を極める
非常な殺し合い。まるで地獄のような…。
相手の駒を倒すと、復活し今度は自分の駒となり
味方になるが、それは相手も同じ。将棋同様に
持ち駒は有効であり強力。しかも相手の駒になると
情報をもたらしてしまう危険因子となってしまう。
壮大な戦いを終えるたびに、「現実世界」での出来事が
語られていき、なぜこのような悪夢が引き起こされたかが
明らかになっていく。一読した感想としては
地獄かと思われた世界に一縷の望みがあるようなラスト。
また貴志先生が新たなホラー小説の分野を開拓した。
祥伝社文庫 上・下巻
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2017年04月28日

小説『ロック母』角田光代

【ゆうべの神様】
まるでビッグダディ的な両親の喧嘩が絶えず、
近隣の住人もろくな奴がいない。
閉鎖的な村に住む私は大学受験を控えた女子高生。
胸の中に殺意を隠しながら日々を送っていた。
とにかくこの街から出ていきたいと思いながら
恋人との逢瀬を重ね、勉強に身が入らない。
日々のもやもやは、いよいよ爆発し…。

【ロック母】
瀬戸内海の片田舎の島育ちの私は都会への
あこがれから大学進学を機に故郷を飛び出した。
思い通りにいかず、妊娠させた相手からは
堕胎を勧められ、結局ずるずる引き伸ばした結論は
島に戻りシングルマザーになることだった。
せめて家族や島の人々が祝福してほしい。
甘えたい彼女であったが両親はそのことに触れず
淡々とすごす日々。熟年離婚こそ断念した母だったが
私が高校時代日常を遮断するために聴いていたロックに
逃げ道を発見したらしい。何?この負の連鎖…。
生まれてくる子もきっと…。

【父のボール】
不幸は坂を転がるボールのようにやってくる。
近所で不幸が起きたら下に向かって不幸が起こる。
父の呪詛の言葉は大人になった今でも心に影をさす。
権力者として君臨した父もこどもの成長につれて
恥ずかしい父となり、母への仕打ち、そして死を通して
憎しむべき父と変わっていった。

父の死を見届けることで父とのつながりという
不幸の終焉を実感したい私は入院している父を見舞う。
最期の最期まで卑しく情けない父親の存在により
不幸をたまわる私が父の死を通して受ける感慨とは?

など7編を収録した短編集。この作品に流れる
テーマは怒りであり悪意である。海外に出かければ
異文化交流と言う名の理不尽な差別的扱いを受ける。
民族間同士の小競り合いに出くわす。
住民から嫌がらせを受け、怪文書が出回る。
爽やかさとは無縁の悪臭すら漂ってきそうな日常。
いがみ合いながら、でも人々は寄り添い合い、
結果傷つけ合うというハリネズミのジレンマ的恋。
壊れた世界でも生きていかなきゃいけない。ふぅ。
講談社文庫。
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2017年04月22日

小説『死亡フラグが立ちました!』七尾与史

都市伝説「死神」(殺し屋)を追う下っ端ライター陣内。
死神を記事にしないと干上がるので必死で捜索。
どうやら死神は実在するようで…。
知り合いのヤクザ松重と超人本宮の助力を乞うことにした
陣内は、松重の親分が死神に殺されたという情報を得る。
但し、事件性はない偶然が重なった事故死としか思えない状況。
入手した映像を必死で調べた結果思わぬ意図に気付き…。

一方、同じように事故として処理された事件があった。
疑惑の渦中にあった某政治家の秘書が交通事故により死亡。
目撃者の証言などから事件性はないと判断された。
しかし妄想刑事とあだ名される板橋、相棒の御室は
事件に疑問を持ち同僚に笑われながら独自に捜査を進める。
17年前に発生した一家が皆殺しにされた田中事件。
捜査官の一人として事件に関わり突飛な推理を披露し、
失笑を買った板橋。事件の被害者少年と同級生の御室は
過去の記憶から、大胆な容疑者を連想し推理を展開。

死神に魅入られた者、そして死神を追う者には、
死神のワナが張り巡らされ、死がつきまとう。
荒唐無稽かと思われる都市伝説ではじまった物語は
思わぬ展開と広がりを見せる。登場人物たちの発言、
死神の手によって立ちまくる死亡フラグ。
死に抗う者たちの戦いを描いたエンターテインメント小説。
本来恐怖を感じるはずの予告殺人を笑いの要素である
緊張と緩和を用いバカバカしさを演出しまとめている。
宝島社文庫このミス大賞シリーズ。
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2017年04月19日

小説『虚報』堂場瞬一

自殺教唆を疑われる大学教授のサイトをめぐり
新聞記者たちがその真相に迫っていく社会派作品。
なぜ上山は自殺を勧めるかのような記事を書き、
質問者に答えていたのか?
特ダネをめざすやり手の市川、記者経験の浅い長妻は
この事件を追ううちに窮地に立たされ…。

相次ぐビニール袋集団自殺の被害者たちは、
上山教授が運営するサイトを閲覧していた。
その内容は自殺教唆と受けとられるような記事で
自殺の決め手になったのではないかと疑われた。
サイトは封鎖され、上山教授は会見により
自殺ではなく自死であり、直接自殺を促したことを否定。
マスコミは上山に論破され
ネット上では彼を支持する者も多い。しかし新聞社、
雑誌系は上山の言動に懐疑的であり追跡取材。
また警察官も自殺教唆(自殺ほう助)などをめぐり
彼をマークしていた。

市川は上山と知り合いでその言動に首をひねる。
彼らしくない言動であり疑問が尽きないので
直接取材に乗り出した。自殺や尊厳死、安楽死
をめぐる問題に切り込んだ社会派ミステリー。
新聞社内で発生するぎすぎすした関係、
まさに生き馬の目を抜く報道合戦。
生き死にを懸けた人々の戦いを鋭く描く。文春文庫
タグ:堂場瞬一
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2017年04月15日

小説『古書店アゼリアの死体』若竹七海

不幸続きの相澤真琴は念願だった海でバカヤローと
叫ぶために神奈川県葉崎市に来たのだが死体が…。
なんてついてない日なんだ。
と叫びたくなる日々だが、古書店アゼリアの女主人
前田紅子から店番を任された。
ロマンス小説という昔取った杵柄的知識が生きてきた。

莫大な財産を持つという紅子は名門前田家の出身で
ここ葉崎で権力者として知られているひとかどの人物。
恩義を感じている者も多いのだ。意外に忙しい店番を
こなしていた真琴だったが新たな死体との遭遇…。
数多くの秘密と問題を抱える前田家の因縁が噴出し…。
入り組んだ内容と演出が心憎い推理小説。
皮肉のきいたオチが印象的。光文社文庫
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