2019年06月25日

小説『百瀬、こっちを向いて。』中田永一

「百瀬、こっちを向いて。」

人間レベル2の学校カースト底辺を自負する僕は、
百瀬陽という美少女とつきあうことに。
そこにはこんないきさつがあった。

幼なじみにして年上のヒーローイケメンの宮崎先輩は
学校を代表するご令嬢の神林先輩とつきあっている。
(資産家の神林先輩は県知事とも知り合いなのだ)
誰もがうらやむ美男美女のカップル。
しかし、宮崎先輩は百瀬というタイプの異なる美少女
ともつきあっていた。デートを目撃してしまった僕は、
神林先輩の疑念を晴らすために百瀬と恋人のフリを
してほしいと宮崎先輩から頼まれてしまう。
命の恩人である宮崎先輩の頼みは絶対に断れない。

豆電球のような学校生活を同レベルの親友田辺と
すごしていた僕だったがきら星のような恋人ができた。
そして先輩たちカップルとのダブルデート。
神林先輩への罪悪感と百瀬への切なく苦しい想いや
秘密を抱えきれなくなった僕は田辺に心情を吐露する。

作品において印象的なのはキャラクターたち
ひとりひとりの秘密や感受性豊かなセリフだ。
恋愛物語の蚊帳の外に置かれていた田辺が吐き出した
飾りのない主人公へのメッセージに心打たれた。

「なみうちぎわ」

5年間の間、意識を失っていた私の目の前に
現われたのは成長したかつての教え子だった。

海辺の田舎町の女子高生姫子は小学六年生の
灰谷小太郎の家庭教師になる。不登校になった
小太郎は生意気な口をたたくが徐々に打ち解ける。
そして事件が起こる。

溺れていた小太郎を助けようと海に飛び込んだ
姫子は重体となり遷延性意識障害と診断される。
意識を取り戻した姫子は徐々に回復し、
杖をつきながら大検をめざして歩き出した。
しかし自分のせいで姫子の人生を大きく変えて
しまったという自責の念にかられる小太郎は
まだあの日の波に翻弄されていたのだった。
寄せては返す波のように起こった恋愛感情、
ふたりの恋の行方は…

「キャベツ畑に彼の声」

本田先生は国語教師、発生がよく黒いセルフレームの
眼鏡がよく似合い女子生徒から人気がある。
わたしこと小林も心惹かれるひとりだが、
結婚間近な恋人がいるという噂。ざんねんである。

わたしは作家の「テープおこし」という高額バイトを
頼まれて録音素材から入力作業を行っていた。
あれ、この声どこかで聞いたような…。
覆面作家(正体、写真などを公にしていない作家)
北川誠二は本田先生なのではないか?

こうなると北川誠二の作品が俄然気になり
読んでみると、黒いセルフレームの国語教師が
登場する本大先生をモデルにしたような内容だ。
確信を強めた私は提出課題時のノートに
あの小説を書いたのは本田先生ですか?と問いかけた。

「小梅が通る」

引っ越しを機に私は周囲をあざむくブスメイクを
はじめた。女優をしていた母、その遺伝を強く受けた
わたしは自覚はないが美少女で周囲をザワつかせる。
頼まれて子役モデルの仕事をしていたことがあるが
ヤバイ自称ファンの出現に心配した親は
引っ越しを決めわたしはモデルを引退した。
誰もがうらやむ容姿は同性からの強いやっかみもあり
苦い過去をつくりもした。

めだたない方が穏やかな生活を送ることができる。
という強い人生訓を持つ母、いろいろ学んだわたしは
平素からブスメイクをし偽装をし日々を送る。
めだたないよう心の友である二人と共に教室の隅で
ひっそりと生きることを選択したわたし。
しかし、お調子者の山本寛太の出現によって
春日井柚木は架空の妹小梅を名乗ることに。
油断して焼き肉店で素顔をさらしてしまい、
とっさにモデル時代の名前を言ってしまったのだ。

小梅にひとめぼれした山本寛太は彼女に会わせろと
わたしをせっつく。めんどくさい奴だ、
数学70点取ったら会わせてやる、でもムリだろ。
と思っていたのだが…。
嘘からはじまる恋もあるんだね。いとしいね。

乙一先生別名義の傑作短編集。すさまじい完成度。
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2019年06月10日

小説『美しい星』三島由紀夫

円盤を目撃したことで自分たちは宇宙人である
と自覚した一家。水爆実験(核実験)をはじめた
アメリカ・ソ連の暴挙を憂い平和を熱望した。

埼玉県飯能市の裕福な大杉一家には秘密があった。
家族四人が個別にそれぞれUFOを見たことで
金星・火星・木星・水星人であると思い出す。
そして地球人の個体に精神(霊魂)が侵入し、
4人で生活する家族であった。
生まれ育った天体での記憶は全くないが、
それぞれ別の天体から飛来した宇宙人であり、
そう自称している。

もちろんそんなことを言う奴は、狂人扱いされ
この星では排斥されることは明白なので
一家はこのことを隠しながら生きている。
世界平和を憂う父重一郎は宗教的活動を行い、
長男一雄は政治活動に活路を見いだそうと
有力な政治家黒木に近づく。
地球人離れした美人の金星人暁子は
自称金星人の竹宮に会いに行く。
変人ばかりの家族の中で平凡な感受性を持つ
母伊余子は彼らに寄り添うように暮らす。

彼らの存在を妬む卑しい近隣の住人。
彼らの通報によってやってきた刑事。
そして円盤を見たことで宇宙人であることを
自覚した自称宇宙人たちも現われる。
彼らは地球人達を安楽死(人類を滅亡)させる
ことが衆生につながると物騒な考えに囚われた
厄介な存在であり、重一郎と対決することに。

物語に登場するのは自称宇宙人であり、
明確な形で宇宙人とする根拠や記述はない。
しかし重一郎や暁子がそれぞれ見た円盤が
実在するのかを論じるのはナンセンスだ。
この物語の主題は冷戦下にあった当時の
深刻な緊張状態の中、核実験を繰り返す
愚かな人類を宇宙人の視点で捉え、
痛切に批判、解決を模索した点である。

核という人間の手には余る科学技術を放棄するか
そもそも人類自体を滅亡させることで
魂を苦痛から解放する(安楽死させる)
という命題に挑んでいる。
作中重一郎は、個人の痛みが人類全体の痛みと
して共有されればこんなバカげた諸々の
失敗や過ちを繰り返さないはずだと糾弾する。
殴り合えばわかることが、爆弾を投下すれば
一方的な暴力となりボタン一つで可能となる。
しかも、それが命令であれば責任の所在は
あいまいとなり、取り返しのつかぬ惨劇を生む。

「人」が思いつくことはいいことでも悪いことでも
いつかは誰かが実行する。理想を掲げる重一郎、
政治家になることで人類を支配しようとする一雄、
金星人を身籠る暁子。そして自称三バカ宇宙人。
自己陶酔する者たちの運命、人類の運命は?

1962年(昭和37年)に描かれ8年後に著者は
亡くなったわけだが、その頃と今とでは世界の
あり方や緊張度全然違うのだろうなぁ。
それこそ宇宙人や広大な宇宙に救いを求めたくなる
気持ちもあるのだろうが、著者の持つ宇宙(脳)に
少し触れられるというだけでも一読の価値がある。
新潮文庫 355ページ
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2019年05月31日

小説『火花』又吉直樹

花火大会で出会ったお笑い芸人あほんだらの神谷さんに
惚れ込み弟子入りした徳永。
お笑いのために全身全霊をこめて邁進する師匠神谷さんと
僕との日々を描く。そんな愛しくも馬鹿馬鹿しい傑作小説。

平素の破天荒な言動や舞台での暴走などにより
お笑い芸人からも引かれる。
ヒモ的な生活をしながら借金を重ね、
誰よりも純粋にまじめに笑いを追求する探求者神谷。
彼の才能に魅せられたスパークスの徳永は
実生活やお笑いにおいて強い影響を受ける。
繰り広げられる漫才談義、独自の哲学。
お笑いに対する真摯な姿勢。

周囲からバカにされ、受け入れてもらえなくても
ただただ我武者羅にひたむきに我が道を行く。
そんな姿に感動させられ、強く勇気づけられる。
神谷と徳永の何気ない会話が無性におもしろい。
そして、やはり花火のシーンが印象的な作品。
文藝春秋
ラベル:おすすめ 小説
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2019年05月18日

小説『クラスルーム』折原一

教師の恐怖政治によって支配された教室。
生徒たちは革命を起こし、10年の歳月が流れた。
成長し日々の生活を送っていた栗橋北中卒業生たちに
長谷川達彦なる人物から同窓会の便りが届く。

しかし、長谷川達彦という名前に見覚えがない。
卒業アルバムを開いてもそんな同級生はいないし、
元クラスメイトたちの記憶にもない。
また、不審な形で手元に届くので不気味だ。

もしかしたら、10年前のあのことが原因かもしれない。
あのときの「きもだめし事件」には謎が多い。
3年B組の面々は竹刀を振り回す暴力教師桜木によって
息の詰まる学生時代をすごしていた。
桜木をこらしめるために企画されたあの催しが
今回の不可解な事態を招いている。

佐久間百合、秋葉、青野、松尾らかつての生徒たち、
そして桜木は夜の校舎にやってきた。
謎の人物長谷川達彦の正体とは?
現在と過去をリンクさせ巧みに構成された文章。
叙情トリックの名手によるバランス感覚の優れた
傑作推理小説。講談社文庫

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2019年04月12日

小説『通天閣』西加奈子

大阪ミナミの街で蠢く個性的でアクの強い
キャラクターたちが織りなす人間劇場をコミカルに描く。

不満ばかりの主人公俺の日常は、
変なオカマから熱い視線を浴びたり、
謎のジジイの行動に首をかしげたり、
しょうもない工場で黙々と作業をこなす日々。
行きつけの店大将で塩焼きそばばかり食しているが、
昔はコンビニのいなりそばセットばかり食べている。
これはグルメなのか、単なる偏食家なのか。

もう一人の主人公の女の子の日常はしんどい。
ニューヨークに行けば夢が叶うと思い込んでいる
愚かな彼氏マメを健気に待っているが、
けったいな人ばかりのぼったくりスナックで
心を痛めながらチーフとして働いている。
こんな悲惨な境遇に身を置くことで恋人が心配し
帰ってくることを願掛けしているのかもしれない。

下品であけすけだけど、印象に残るフレーズも多く
二人の主人公の物語がリンクする箇所や
店で働くママのセリフが好印象な作品である。
ちくま文庫
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2019年03月30日

エッセイ『焼きそばうえだ』さくらももこ

さくらももこと長尾さんはくだらないバカ話を
楽しんでいた。
仲間をつのろうとTBSの植田さんや小
学館社員の江上さん、山崎君を集めた。
こうして男子の会のメンバーが発足した。
名前の由来は小学生男子レベルのバカ話をし
大いに笑い、楽しもうというものだ。
この計画は当たり、メンバーはこの会を
定期的に開き、有意義なムダな時間をすごす。

長尾さんはバリのリゾート開発の仕事をしていた。
このバリに植田さんが焼きそば屋を開いたら
おもしろいのではないか?という話になった。
植田さんはドラえもんのような万博のような
味のあるいじられキャラ。
いたら特に役に立つわけでもないが
いないとやたらと気になるおかしな存在。

きっとバブル期に買った高級マンションの返済に
追われ、汲々としているに違いない。
TBSの出世の見込みもなく何があるかわからない。
(作品連載中に買収話もあったよ)
神奈川から職場の赤坂への移動は大変だろうし、
妻にも子にもなつかれず、いざという時役に立たない…
これはもう、バリで「焼きそば うえだ」を
始めるしかない。ということになった。

さくら先生が定期的に行うおもしろパーティーよりも
よほど焼きそばうえだの方が安くすみ、かつおもしろい。
この話はどんどん進み、看板もさくら先生が書くことに。
この変な情熱は現地の親切すぎる金持ちローランさんの
心を動かし、本当に開店することに。
友情とは名ばかりの単なるヒマつぶしのような
気もしないでもないが、営業開始。
しかしやってきた最初の客は最底辺の客だった!
明日はどっちだ?日常に疲れた人におすすめに一冊。
小学館文庫
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2019年02月25日

小説『少女地獄』夢野久作

飛び込み面接により看護婦となった姫草ユリ子は
虚構に生きる人たらしの天才美少女。
その天真爛漫な言動や献身的な態度は
老若男女問わず好意を抱かせ夢中にさせる。
しかしそんな彼女には全く別の裏の顔があった。
人並み外れた虚言癖である。
嘘を嘘で塗り固める…。現代のキラキラ女子のような
妄想、仮想、幻想に生きる儚い存在。
彼女の自尊心を満足させ、成立させるためには
もはや自殺し遺書を残すという手段しかなかったのか。

6つの手紙から構成された短編「殺人リレー」。

火星人と呼ばれた女学生甘川歌枝の戦いとは?
小学生の頃から飛び抜けた身長、身体能力を持ち
異彩を放つ歌枝は周囲から疎まれ生きてきた。
唯一無二の親友であるアイ子嬢を除けば味方はない。
物語はいわゆる暴投より新聞沙汰になった
不可思議な事件の謎が提示される。
歌枝がアイ子に向けた手紙により全容が語られていく
という書簡形式によって物語が展開される。
聖人君子として世間から高く評価されている
校長は真逆の裏の顔を持っていた。
彼もある意味、虚構に生きる二重人格者。
端的に言えば「ひとでなし」だった。

1934〜1936年に発表された3篇による
表題作『少女地獄』は書簡体による傑作集。
当時の女性が男性優位の社会において生きることの
息苦しさや難しさを描いている。

「地獄」と明言される現世の世界において
逃避的に自殺という道を選択する者もいるだろう。
作品としては、小娘ユリ子に手玉に取られる
子気味よさがあるのが第一部。
ユリ子に嘘をつかれ、だまされたとわかっても
仕方ないなぁと笑って許せてしまう。
憎みきれないキャラクターだ。
同時に彼女は自分が気に入っている今の立場を
守るために脅しをかける裏番的な怖い顔も見せる。

第三部の歌枝は基本的におひとよしの善人だが
両親からも疎まれ邪魔にされていることを知る。
信頼していた人物から裏切られる。
そういった人の持つ醜い部分を見てしまい
事件を起こす悲劇的なヒロインである。
この行動力に優れた全く異なる魅力的なヒロインが
登場する少女地獄。蓋し名作と言えよう。

上流階級の人間相手に恐喝を行う男が
的にかけた相手が告白する驚愕の事実とは?
「けむりを吐かぬ煙突」など4編を収録。角川文庫

同著代表作として名作『ドグラ・マグラ』があるが
難解でかつ長編なので、読みやすく理解しやすい。
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2019年01月06日

小説『羊と鋼の森』宮下奈都

山深い森で暮らす高校生の外村はピアノ調律師板鳥さんと
出会い、調律師をめざして歩み出す。
特別な才能など持ち合わせていない…
それでもひたむきにピアノの森をさまよう外村は
板鳥さんと同じ職場で柳や秋野といった先輩調律師と働く。

双子の和音・由仁姉妹に代表されるピアノ演奏者(お客様)を
サポートし、魅力的な音を引き出すために努力を惜しまない
外村だったが明確な正解のない音楽の世界に苦戦を強いられる。

確かな研ぎすまされた感性と豊かな表現に彩られた美しい文章が
醸し出す音楽の世界に酔いしれる。文藝春秋
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2018年12月14日

小説『病院坂の首縊りの家』横溝正史

複雑怪奇な五十嵐家、法眼家の過去と現在。
そして両家に起こった陰惨な事件の謎を追う
金田一耕助と刑事の20年による捜査と結末とは?

開業医の名士として知られる法眼家、
闇稼業によってのし上がった五十嵐家。
両家の成り立ちやご先祖、登場人物が紹介され、
かの両家の子である法眼由香利、五十嵐滋が
婚姻の運びとなり、写真館で写真が撮られた。
その際に不思議なエピソードが語られる。

一方、アングリーパイレーツなるジャズ集団に
おいても事件が勃発。中心人物であった敏ちゃんが
妹と目されていたメンバーと結婚するという。
メンバーの哲ちゃんは彼女への恋慕から敏ちゃんから
殴られ右目を失明。酔った勢いで二人の逢瀬を
邪魔しに出かけたが、彼が見た者は敏ちゃんの
変わり果てた姿だった。現場に残された手紙から
一応の決着がついた形となったが、金田一耕助と
等々力刑事にとって忘れられない事件となった。

それから20年の歳月が流れ未解決のまま時効が成立した。
(現行法では殺人事件に時効はない)
刑事を引退し探偵事務所所長となった等々力氏、
そしてかの名探偵が再び捜査に乗り出す。
かつての関係者たちを洗う金田一は、
事件に隠された真相に迫るのだが、
過去の事件が引き金となり新たな殺人事件が勃発。
更なる悲劇を防ごうと頭脳をしぼる名コンビと
金田一の選択とは?角川文庫 上・下巻
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2018年10月25日

小説『Wの悲劇』夏樹静子

雪に囲まれた別荘で正月をすごしていた和辻家で
殺人事件が発生。誰からも愛されていた摩子が
和辻製薬の会長を刺殺してしまったと告白した。
摩子に同情した面々は外部犯の仕業にしようと画策。
現場不在証明(アリバイ)作りのために
口裏を合わせて行動を開始した。
和辻家6人、そこに居合わせた外科医間崎、
摩子の家庭教師の春生は
中里、鶴見警部ら警察の目を欺けるか?
綿密と思われた工作であったが思わぬほころびが生じ…。

タイトルが示す通り、エラリークイーンの『Yの悲劇』
に挑んだミステリー小説である。クイーンもこの作品を
絶賛し解説に参加している。不朽の名作ミステリー。
角川文庫
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2018年10月18日

小説『握る男』原宏一

留置場の中で自分の人生を決定づけた男の死を知る。
人たらしの天才、稀代の悪党でもある盟友が自殺?
兄弟子でありながらゲソこと徳武光一郎によって
急所をつかまれた金森は激動の過去を想起する。

昭和56年。両国のよくある寿司屋で
一番の下っ端として働いていた金森。
小柄の少年ゲソがやってきて店で働くことに。
よく気が利き、人の懐に入るのがうまく、
努力を惜しまないことで金森を圧倒する。
特に金森を苦しめていた兄弟子をゲソの画策により
追い出したことにより頭が上がらなくなる。
また両国ということもあり、目をかけた力士と
懇意となりゲソはこの人気者も活用することに。

人なつっこい笑顔を浮かべながら時折顔をのぞかせる
野望を秘めた裏の顔。この国の食(食品業界)を牛耳る
という大言壮語かと思われたゲソの言葉。
ピンチをチャンスに変えてしまうこの男は
無謀と思われた夢をどんどん現実味を帯びていく。
ゲソは金森を自分の片腕、番頭にすると宣言した。
彼に掌握され反発しながらもどこかでゲソの夢を
手助けする道を選んでいた金森。

目的のためなら手段を選ばず巨大化していく野望。
そして組織の中で彼に振り回されながら、
時に違法行為に手を染める者も現れ…。
この権力構造は新興宗教組織を思わせるが
急成長を遂げた企業や既存の大企業にも通じる
ものがあるのだろうな。

権力の暴走の怖さもさることながら、この作品は
「人」をしっかり描ききっている所が特筆すべき点。
ゲソと金森の不思議な共存関係や彼らに関わる
人々との情や愛憎、意外な関係を知るとき
物語に厚み、深みが加わりより味わい深い作品に。
角川文庫 420ページ
ラベル:原宏一 おすすめ
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2018年10月13日

エッセイ『だからこうなるの 我が老後』佐藤愛子

交友の深いKに百万円貸したら返ってこない。
考えてみたら自動車もあげたのに…。
そんな折、違法駐車があったので罰金の催促が。
そういえば、税金払っているの私じゃないか…
さすがに腹を立てた私は夜逃げしたKの家に
赴くのだった。

気づけば自分の家の愛犬になっていたタロ。
無芸大食で鎖につながず奔放に飼っていたが、
十数年前からいたので遂に天寿を全うした。
と思ったら死んでいない。勘違いだった。
でも今までありがとうと娘といっしょに
涙を流すが、驚異的な回復を見せて…
元気なだけで、いや生きているだけで、
なんかもうそれだけで十分なんだよな…
と亡くなった愛犬のことを思い出す。

やたらしつこい迷惑電話の男。
番号を拒否するがわざわざ公衆電話を
はしごしてかけてくる。
なんてしつこくてめんどくさい奴なんだ。
その情熱を仕事にでも向けてほしいものだ。
こいつのせいで長電話大好きの友達サキサンが
電話に出てくれないと苦言を呈してきた。
彼女は彼女でちゃんと電話が通じるか
深夜に確認の電話をかけてくる。
なんてしつこくてめんどくさい友達なんだ。

など笑えてかつ泣ける佐藤節全快のエッセイ。
文藝春秋
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2018年10月08日

小説『砂の女』安部公房

平凡な教師が砂の多い海沿いの集落を訪れる。
昆虫採集が目的で、砂を研究する彼は
新種が発見されやすいハエやハンミョウに着目。
砂地という特異性のあるこの地域では
まだ未発見の生物が見つかるかもしれない。
砂の着眼点は当たり、男は美しいハンミョウを
発見するが逃げられてしまう。
彼は、近隣のおじさんに助言に従い、
集落の家に泊めてもらうことにした。
そこは妙齢の女性(寡婦)がひとりだけいる家。

一日だけ泊めてもらうつもりだった
その家は異常なほど砂まみれになる家だった。
砂を掻き出すために精力的に動かなければ
そのまま人間が埋まってしまうような。
家の中から脱出方法できない量の砂が
家の中に侵食してくる恐ろしい地獄のような場所。

まるで、アリじごくに捕らえられたアリのようだ。
男は、3日分の休暇して申告しておらず
ここから出たいと懇願する。
だが女や集落に住む人間はそれを許してくれない。
集落の者たちの協力ではしごをおろして
もらわなければ家の外にも出られない。
男同様に奸計にはまり、脱出を試みた者は失敗し
命を落とした者もいるという。
集落の民は彼をここに住まわせ住民にしようと
目論んでいた。

彼は女を説得したり、脅したり、時に暴力をふるったりし、
なんとか脱出を試みるのだが……。

どんな過酷な環境でも人は生きられる。
そこには妥協やある種の諦観があっても
人は希望を見いだしそれでも生きていける。

人間の精神性とか、社会に対する批判とか、
マイノリティーの悲哀とか、村社会のこととか、
人間の持つ生臭さとか、あきらめとか…。

もがいたり足掻いた所で足下から世界が崩れ
自分よりももっと巨大な存在にやりこめられる。
やるせなさと共にある種の開き直りによって
生きていこうとする生き物の強さを感じた。
哲学的で難解なので読むたびに新しい発見がある
タイプの名作 新潮文庫
ラベル:安部公房
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2018年10月02日

小説『ズッコケ中年組 44歳のズッコケ探検隊』那須正幹

山奥にやってきたズッコケ三人組はツチノコと
思われる不思議な生物を写真におさめて…。
ズッコケ中年組シリーズ第5弾。

飲み友達の誘いから趣味の一つも持とうと
山奥の渓流釣りに出かけたハチベエ。
イワナ、ヤマメ、アマゴは釣れなかったが
そのことが逆にファイトを燃やすことに。
元々好きだったこともあり休みの日の
ひとつの趣味になった。

自由律詩をはじめた母の影響からモーちゃんも
一句ひねるクセがつく。ハチベエの誘いを受け、
元々釣りが上手だった彼も渓流釣りをはじめる。
二人の親友ハカセもカメラを趣味としており、
シャッターチャンスを求めて二人に同行した。

おいしい空気を吸いながら楽しい日々をすごす。
友人が釣り上げた魚をカメラにおさめていたら
そこには不思議な生き物が写っていた。
これって昔話題になったツチノコじゃないのか?
探求熱心なハカセ、お調子者のハチベエは
ツチノコ捜しに乗り出す。モーちゃんも
巻き込まれ、おっかなびっくりついて行く。

ワナをつくり捕獲を試みるがそう簡単にいかない。
自治体によっては億単位の懸賞金を出している
村もあるとか…。童心忘れずバカなことができる
ともだちっていいよね。でも宝探しをしていた
こども時代みたいに三人が同じ情熱を持っている
わけじゃない。ハチベエ、モーちゃんは釣りの方が
気になるようだと察したハカセは荒井陽子に同行を依頼。
ツチノコが縁で二人の仲は進展するのか?
ポプラ文庫
ラベル:那須正幹
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2018年09月26日

小説『絶望ノート』歌野晶午

中2の太刀川照音は立ちションというあだ名を
つけられる小柄なネズミ顔の生徒。
ジョンレノンの熱狂的なファンで働かず
ファッションだけを真似する薄ぺっらいダメ父と
働き者のヨーコという名の母を持つ。
貧しい生活なのでいろんな我慢を強いられ、
趣味は図書館で借りてきた本を読むことだ。
彼は自宅の机の奥底に「絶望ノート」と名付けた
日記帳を書き連ね、そのノートの内容によって
いじめの様相が語られていく。

学年の人気者でありながら、いじめグループの
リーダーである是永は狡猾な男。日記の中で
直接いじめを行う是永や見て見ぬフリをする者、
担任、父に強い恨みを抱いていることが語られる。

追い詰められた照音は、偶然自分を助けてくれた石に
救いを見いだし神としてあがめることに。
願いは聞き入れられ…。

日記を目撃した母は息子照音のために興信所へ赴く。
能天気な父の謎の行動は?
なぜか自分のことを気にかけてくれる副担任の来宮。
照音のあこがれの人国府田さんの来訪。
登場人物たちの言動ひとつひとつに意味があり
読者を驚かせる仕掛けが施されている。
『葉桜の季節に君を想うということ』にも
鳥肌が立ったがこの作品も比肩するほどの名作。
人の心は一筋縄ではいかない。
幻冬舎文庫 630ページ
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2018年09月18日

小説『だから荒野』桐野夏生

46歳主婦の朋美は誕生日に怒りを爆発させた。
身勝手な言動を繰り返す夫と二人の息子による
長年の蓄積は消化されなかった。
衝動的に自動車で出奔した彼女は、
高速道路で長崎めざして走り出した。

家族やしがらみとの決別、さみしさや孤独の中にある
解放感、新しい世界を切り開こうと荒野を駆ける。
捨てられた夫は懲りも反省もせず愚行に及ぶ。

元々思いやりや家族の絆が希薄だった森村家は
空中分解し、問題が浮き彫りになる。
足りなかったあれこれ、失って気づくこと、
新しい人間関係を構築したり、事件に遭遇。

思い切りのよい主人公が決断をした結果、
超然とした大人物山岡に出会う。
山岡はボランティアで戦争体験を語る
90歳過ぎの老人。最終章人間の魂では
この山岡さんの説諭によって涙がとまらない。

荒野に生きる覚悟、現実と向き合う覚悟、
人と向き合う覚悟、他者への愛、罪を許す心…
家族間の係争という身近で個人レベルの問題。
そして絶対的かつ理不尽な暴力や災害に対する怒り、
悲憤という大きな問題もからめた描かれている。
文春文庫 440ページ
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2018年09月12日

小説『あと少し、もう少し』瀬尾まいこ



中学駅伝に情熱をかける部長の桝井。
しかし、怖いが信頼の厚い顧問が異動し
陸上門外漢の元美術部の上原先生が顧問に。
部の空気もだらけ、十数年に及ぶ県大会への通過も
危険信号。そもそもメンバーが足りない。
桝井、設楽、俊介といった陸上長距離部員は三人。
例年はバスケ部員などを招集し、メンバーを選んで
いたのだが桝井は意外な勧誘をはじめるのだった。

桝井は不良の大田、吹奏楽部員の渡部という
めんどくさいが走力が高い二人に声をかける。
ムードメイカーとしてジローも引き込み、
なんとか六人そろえた。前途多難かと思われた
チームは成長を遂げるが桝井がスランプに。
六人のメンバーがどのように集まり、
どんな考えを持ち、レースに臨むのか。
あえて同じ場面をそれぞれの登場人物たち視点で
描き直すことで物語に厚みを加える。
選手ひとりひとりが抱える葛藤や思春期特有の
もやもや。悩みや目標を達成していく爽快さ。
勘違いや思い込み、誤解が解ける瞬間。
チームのためにあと少し、もう少しがんばろうと
する前向きな気持ち。
物語の軸となる六人の中学生たちと上原先生たちの
奮闘を描いた青春小説。新潮文庫 350ページ。
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2018年09月02日

小説『硝子のハンマー』貴志祐介

密室殺人の不可能犯罪に挑むのは弁護士青砥純子と
手癖の悪い防犯コンサルタント榎本径。
ホラー小説の大家として知られる作家が手がけた
日本推理作家協会賞受賞の人気シリーズ第一弾。

介護サービス会社を展開するオフィスビル内で
社長が撲殺死体という形で発見される。
いわゆる密室殺人ということで、
現場の状況から専務が逮捕されてしまう。
弁護士青砥純子は、専務を弁護することになり
防犯に詳しい榎本と共に事件解決に挑む。

介護ロボット、介護ザルといったこの職種ならではの
「飛び道具」的存在が登場し、物語を盛り上げる。
1部では、青砥・榎本が可能性を模索していき、
犯人、そしてトリックについて言及。
2部は犯人の生い立ち、犯行に至った経緯が示される。
トンデモ推理を披露する青砥。
そしてそれを修正していく探偵役との榎本と
犯人との直接対決が描かれる。うならされた。
角川文庫 580ページ。
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2018年08月11日

小説『青の炎』貴志祐介

平穏な生活は闖入者によって台無しに。
高校生の櫛森秀一は昏い情熱を燃やし、
完全犯罪を目論むのだが…。
現代版『罪と罰』開幕。

母と妹と暮らす秀一は湘南の高校に自転車で通う。
十年も前に母と離婚した三拍子揃ったダメな元父親が
強引に居座り恐怖を感じていた。
酒を飲み勝手に振る舞い目障り極まりない。
特に妹に危害を加えないかと危惧する秀一は
離婚の際にお世話になった弁護士に相談する。
しかし母の態度が定まらずいらだちを募らせる。

現状では警察も弁護士も事態を解決してくれない。
精神的に追い詰められ苦悩。
あんな人間のクズいっそ処刑してしまえば。
自分は『罪と罰』の主人公のように罪悪感に
とらわれず、疑われなければ捕らわれない。
不審を抱かれないような自然死に見える殺人。
計画を練り、少しずつ見えていく解決の手段。
もう後戻りできない…。

しあわせを守るために
犯罪に手を染める孤独で悲しい戦い。
手の中にあったはずの確かなしあわせが
こぼれ落ちていく。
彼を想う家族や同級生の気持ちを偽りながら
廻り始めた車輪はノンストップで止まらない。
物語は回転数を上げ続け終末へ。
角川文庫 
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2018年08月04日

小説『ひらいて』綿矢りさ

おかえり。
『インストール』、『蹴りたい背中』以降物足りなさを
感じていた綿矢りさファンとしてはこの作品は
そう言いたくなる傑作長編だ。主人公である
女子高生愛がエゴむき出しの恋愛感情によって
突き進み壊れていく様は狂気そのもの。
主人公愛の必死さ、ダメさに心を揺さぶられる。
先の名作2つと比肩する作品に仕上がっている。

綿矢りさ先生は『夢を与える』で正攻法でない
やり方でかりそめの愛を獲得した人物を描いている。
本作でもアンフェアの誹りを免れない主人公が登場し、
身勝手な言動を繰り返す。
主人公に共感できない部分も多々あるが、
恋は盲目であり、作中に登場する聖書に隠喩される
ように有史以来人間は罪深い存在。
あがき、もがき苦しむ姿は青春そのもの。

モテ女子愛はクラスメイトで地味男子である
たとえに惹かれ、人知れず注目している。
彼が机に忍ばせている手紙に興味を抱き、
同級生たちと共に深夜の学校に忍び込む。
手紙を盗み見た愛は、たとえが同級生の
美雪とやりとりしている事実に驚愕する。
糖尿病であることを公言し、注射する姿を
披露したかつてのクラスメイト美雪。
その行為から疎遠になり、教室でも浮いた
存在となった彼女とたとえが付き合っている?

合理的なリアリストだったはずの愛は
恋愛感情をこじらせてしまう。
修行僧のような男子高校生たとえ、
健気な薄幸の美少女美雪。
正しい、正しくないかはさておき、
精神的なつながりを重視する恋人たちに対し、
主人公はアンフェアなアプローチで対抗する。
エゴが表のテーマで贖罪と許しが裏のテーマ。
新潮文庫
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